39話 紋章と礼服
冒険者ギルドを後にし、リイサさんの店で昼食をとる。その後はファプロ商会に全員で向かう。店に入ると生憎顔見知りはいなかったので、オスバンさんかライザさんを呼んでもらった。しばらく待つとライザさんが店頭に出てきてくれた。
「お久しぶりです。ライザさん、今日は大勢でお伺いしました」
「この間はご馳走になって悪かったね。リイサから聞いたけど、もう立派な家に住んでいるようで安心していたよ」
「今度また引っ越しになります。新居が決まったらお知らせに伺います」
「せれで今日はどのような用件だい?」
「今日来た全員が今のクランのメンバーなのですが、今度この全員で国王陛下に謁見することになりそうで、庶民が王宮へ着ていける服をお願いしたいのです」
「グリムさんといい、アグリさんといい、変わった依頼が多いね……どうする、3階に行ってしまうかい?」
「はい、あそこなら話しが速いですね」
こうして3階の在庫部屋へ案内してもらった。3階は貴族の服から庶民の生活着までそろっている。値段と質の見比べに便利だ。部屋に入るとライザさんが説明を始めてくれる。
「まず、庶民が国王陛下にお会いする機会はほぼない。あるのは大商人か王国への特別な功績によって国王陛下からお召があった場合だけ。商人は商人服というのがあるから、豪華な商人服で行けばいい。他の人は礼服を着ることになるかな?礼服なら失礼にはならないから。それとこれは1つの案だけど、クランの正装を作って、皆で着るということもできる。これならどのような正式な場に呼ばれてもクランの人間として出席するなら、正装として着ていける」
クランの正装を作るという発想はなかった。
「他のクランも作っているところはあるのですか?」
「大手はほとんどが作っているよ。ダンジョンへ行くときも、クラン専用のちょっとしたものを付けるところは多い。他人からどこのクランの人かすぐに認識してもらえるからね」
「なるほど……皆の意見をきいていいか?」
「俺はクラン専用の礼服もダンジョンに行くときに、鎧にや剣に目印を付けるのも賛成です」
「俺も賛成だ。面倒がなくていい」
「私は新参者なので皆さんの意見にしたがいます」
「なら、作ってもらおうか。ライザさんにお願いするなら安心ですし」
「分かった。2時間ほどもらえれば簡単なデザインをして見せることができるけど、どうする?それと紋章を見せておくれ」
「時間はあるのでライザさんがデザイン中に、採寸をお願いしたいです。紋章はまだないので、紋章のデザインもお願いできますか?」
「それは構わないけど、どんなのがいいか考えはあるのだろう?」
「はい、何本かの剣が1点に向かって突き進んで行くイメージです」
「うーん、ざっくりしているね。まあ、礼服と一緒に考えてみるから、後で見てもらって細かい調整をしよう」
そしてライザさんが出て行き、代わりに採寸に来てくれた若い男性と女性に男女別々に個室に案内された。各々の採寸を終えると、大きな個室に移動して、皆でお茶をいただきながらライザさんを待っていた。
「グリム、ここもクランで払うつもりか?」
「ああ、クランの制服みたいなものだからな」
「金がないだろう?」
俺は言葉につまる。確かにそれほど金がないかもしれない。前回のダンジョンでは稼ぎはないのだから。
「前回の探索の金は治療費で使わなかったから皆で分配しよう。そこで提案だが、クランも1人分として清算する仕組みでどうだ?」
「それはいいアイデアですね、俺も賛成です。クランの運用費も必要になるでしょうから」
「それじゃ、マルスに17ゴルと500シル。グリムに35ゴルを移動する」
ガンズは王都民証を握り思念を送る。マルスと俺は自分の王都民証に入金があったことを確認する
するとリサさんが恐る恐る聞いてくる。
「あのー、大変聞きにくいのですが、前回のダンジョン探索で70ゴル稼がれたのですか……」
「ああ、金儲け目的で無茶はしたが、70ゴル稼いだ」
「あのー、私本当に皆さんのクランに入れていただいていいのですか?まだ新人ですよ?」
心配しているリサさんに、マルスがフォローする。
「黒魔法士に新人もベテランもないでしょ。リサさんは魔法学校卒業生だから、こちらの方が来てくれて光栄なくらいです」
「ああ、皆がリサさんの来るのを待っていた。次のダンジョン探索では働いてもらうからな!」
「おいおい、ガンズ、その言い方はせっかくのマルスのフォローが台無しになる(笑)リサさんには慣れてもらう必要はあるけど、力量に関しては心配していない。安心して!」
緊張気味のリサさんの手をアスカも握りフォローしていた(笑)
そしてしばらくすると、ライザさんが戻ってきた。
「お待たせしたね。こちらが男性用。こちらが女性用。アスカちゃんも女性用だよ。それとこれがクランの紋章」
まず皆がクランの紋章に目を向ける。左側にある大きな壁?を連撃の突きが殺到するような力強いデザインだ。俺は一目で気に入った。周りの様子を伺うと皆も気に入っているようだった。礼服の方は全身濃紺を基調としたスーツで、襟が赤くなっているのが特徴だ。中に着るベストも赤だ。袖や裾には金の刺しゅうがされており、ボタンも金ボタン。胸には勲章が付けられるようになっている。確かに貴族が着る服ではない、シンプル過ぎる。ただ、この服で貴族の前に出ることは問題ないだろう。そのくらい威厳がある。
「ライザさん、さすがです。礼服も紋章もとても気に入りました。皆はどうだ」
皆も大きくうなずいている。
「これでお願いします。多少値段が張ってもいいので、最上級の素材で仕立ててください」
「この服には白い手袋と外が濃紺、中が赤のマントもセットにするつもりだけど、いいかい?」
「はい、ライザさんが考えたものはすべて実現させてください。ただ、申し訳ないですが、すごく急いでます」
「……明日の午前中に仮縫いの確認においで、明後日の朝までには準備しておこう。それと黒い革靴は靴屋でお願いしておくれ」
「分かりました、明日の10時にこちらに伺います」
こうして礼服の準備も整い、後は国王陛下からお召の連絡を待つばかりだ。皆は死にそうなほど緊張している。その日が来るまで身が持つか……




