34話 クランの名は魁
安全地帯の岩場で、3人で酒をちびちび飲む。
「生き残ったな」
「ああ、生き残った」
「はい、生き残りましたね」
三者三葉の言い方だが、言いたいことは同じ、生き残った!だ。そして生き残りたかった動機も様々。
「嫁の治療費を持ち帰りたい」
「結婚したい」
「娘に会いたい」
危機を回避できたことで望みは叶う。皆、口には出さないが、そろそろ帰るか……が本音だ。
「俺はそろそろ娘に会いたい」
「俺も妻が心配だ」
「彼女欲しいし、結婚したい……」
そして皆の意見が一致した。明朝帰ろう!だ。残り物を気にせず飲み食べた。そして大いに語り大いに笑った。ガンズの奥さんの治療費が足りなければ、また3人で何度でも稼ぎにくればいい。俺たちは同じクランで同じ家族だ。困っている奴は見捨てない。29階層にも関わらず、大酔っ払いで、大いびきで眠った。こんなふざけたクランには魔獣も呆れて近づかないだろう。そして、ちゃんと何事もなく朝が来た。
「すまないが、大きな岩のあの遺品は、できるだけ持ち帰ってやりたいと思う。いいか?」
「ああ、持ち帰ってやろう」
「はい、持てるだけ持ち帰りましょう」
意見が一致した。俺たちは30階層の入り口から右に壁伝いに歩き28階層の入り口に着いた。地図に書き込んで地図は完成。次に大きな岩に向かう。遺体へたどり着くとマルスに遺品と不用品の選別。ガンズと俺で穴を掘った。遺品の刃こぼれした剣では、穴を掘るのも苦労したが、骨だけなのでそれほど大きな穴は必要ない。1つの穴にすべての骨を埋め、上から土をかける。そして掘るのに使った剣を突き刺す。
「ガンズ、手伝わせて悪かったな」
「いいや、俺たちだっていつこうなってもおかしくない。できることはやってやりたかった」
マルスと合流して、状況を確認する。個人を特定できるものは何も無かったようだ。ただ、1人は高貴なお方だったと推測された。
「俺が拝借した細剣が、見事なものだったので、貴族の方だと思っていた」
「小物は持ち帰れるけど、鎧はどうしましょう?」
「俺が軽装を脱いで、鎧を着て帰るか」
「それ、ナイスアイデアです」
俺は軽装を脱いで自分のリュックに詰め、鎧を着こんだ。
「そろそろ帰るか」
「おう!」
「はい!」
俺たちは再び28階層の入り口へ向かった。
帰りは急ぐこともなく、4日を使って地上に出た。辺りは夕方でとりあえず荷物を拠点へ持って行くことにした。もちろんその後は風呂に入り、リイサさんの店だ!
荷物の整理は食堂で2人に任せ、俺は風呂で薪を燃やして風呂を沸かした。
「荷物の片付けはどうだ?」
「食料や水筒、ポーションや傷薬、固形燃料……この辺は拠点に置いておく場所を決めて保管ですね」
「剣や防具も机の上に並べて置いておいた。遺品は別に一か所にまとめてある」
「リュックに入っているのは、戦利品だけです。それでも、この量!」
「明日の午前中に換金に行きたい。そして午後は金を持って兄上の屋敷に行こう。ガンズの奥方の様子が気になるからな」
「ああ、2人ともよろしく頼む」
「了解」
そして3人で風呂に入り、さっぱりしたところでリイサさんの店に行った。
「リイサさん、お久しぶりです。今日帰ってきました」
「おや、予定より少し早かったね。でも無事で何よりだよ」
早速、お約束のビール6杯を持ってきてくれる。
「俺の嫁のために皆には苦労をかけた、感謝する」
「30階層まで行けて予想外の収穫でした。次回こそ準備万端でボスに挑み、攻略しましょう!」
「皆無事に戻れて良かった。今回の探索は大成功だったと思う、ありがとう。乾杯!」
ジョッキをガツンとぶつけての乾杯と一気飲み!ようやく席に座ってつまみを頬張る。しょっぱくて脂っこい物最高!
「クランの名前を考えていたのだが、魁というのはどうだろう?」
「いいですね、それ。いかにも下層攻略を目指すクランと言わんばかりです」
「俺も気に入った。後は紋章を作れば、いっぱしのクランだ」
「今回俺たちが30階層で戦ったことは、どうやってギルドに伝わるんだ?」
「王都民証に記録が残るようですよ。なので冒険者レベルの更新の時に、ギルドにも記録が残ります」
「グリムは家が提供されるな」
「ガンズ、どういう意味だ?」
「冒険者レベルが11以上は家がもらえる。レベルが上がるごとにいい家に住める」
「となると2人は12だから、かなりいい家に住んでいるのか?」
「そうだな、俺たちにしたら立派過ぎる庭付きの家に住んでいる」
「13になるとお手伝いさんが付くようですよ」
「2人は今回の探索で13に上がるとか言っていなかったか?」
「たぶん上がるだろう。なにせ30階層のボスと戦ったからな。無傷で帰ってきたなんて知られたら、英雄扱いされるぞ」
「俺はレベル1から始まるのか?」
「グリムの場合、イレギュラー過ぎて分からん。初の冒険者レベル更新で、到達階層が30階層なんて後にも先にもお前だけだ」
「おいおい、アスカも到達階層は21になるのか?肩車に乗せていたこともあったから、討伐した魔獣がアルゴスやミノタウロスか?」
「あはは、そうなるな。そのうち、30階層のボスを討伐したメンバーの1人になるぞ」
「間違いなく世界最強の女の子です(笑)」
こうして、閉店時間まで飲んで食べて話して笑って……リイサさんが呆れるほどだった。




