33話 初のボス戦
ボスが俺たちを認識したところで剣を構える。俺たちも走るのをやめて剣を構える。俺たちがこのまま後ろに下がるのについてきてくれれば、ガンズは逃げることができる。しかし、ボスは構えたままだ。間合いに入らない限り動かない気なのかもしれない。俺はようやくボスをじっくり観察することができた。まず、とにかくでかい。バーンの倍以上でかい。そして手に持つ剣も長い。若干湾曲している珍しい剣を両手に持っている2刀持ちだ。スピードとパワーで圧倒する戦いかたなのだろう。魔石の位置は薄っすら見えるが、俺一人ではあそこに剣を突き刺せるイメージが思い描けない。
「マルスはここに居てくれ。俺は間合いに入ってみる」
「了解」
俺はじりじり前に出て距離を縮める。ようやくボスが右手を俺に向けて振り下ろしてくる。俺は後方へ大きくステップする。ボスはまた構える体勢に戻る。再び俺が1歩間合いに入る。また右手を俺に振り下ろしてくる。今度は少なめに後方へステップする。ボスは右腕の振り下ろした後、大きく踏み込んで左手を振り下ろしてきた。これには俺も大きく下がる必要がある。また、ボスは再び身構える。俺は大声だガンズに伝える。
「ガンズ、全部の荷物を抱えてくれ。次に俺が踏み込んだら全力で逃げてくれ」
「了解」
いよいよ脱出劇のスタートだ!俺が1歩進む。ボスが右手を振り下ろし。俺の後方ステップ。ボスの大きく踏み込んでの左手振り下ろし。後方への避けられる程度の量で後方へステップ。左手の振り下ろしが終わったところを、ボスの左手の剣を俺が剣で叩く。少し時間が稼げたようだが、ボスの次の動作は右手での攻撃開始の動作のようで、俺は大声で叫んだ。
「マルス、左手は任せる」
俺が右手の振り下ろしを受けてみることにした。ガツン。速くて重い。これはしっかり身構えて準備していても、反撃はできない攻撃だ。ボスはさらに左手で俺を狙いにくる。だが、すでにマルスが位置についてくれている。マルスも腰を落とし、しっかりと左手の攻撃を受けていた。若干右手の攻撃より弱そうに見えるのは、ボスが右利きだからか?2人は片手の攻撃を受けるだけなら問題なさそうだ。もちろんボスへの反撃は無理なようだが……俺はそう判断してマルスに指示を与える。
「マルス、ガンズが安全な距離まで逃げたら、俺との距離をとって、ボスの胸を開くようにしてくれ」
「了解」
マルスは次のボスの攻撃を受けたところで俺に声をかけてくる。
「動きます」
「了解」
マルスが俺との距離を取り、ボスが左右の腕を広めに構え、胸を開かせることができた。これで少しは攻撃の威力が落ちるだろう。そして2度攻撃を受ける頃には1拍遅れる程度で攻撃可能な威力になった。俺はマルスがいる間に確認と思い。左手に細剣を持ち、ボスが剣を握っている右手を突いた。初めての反撃にマルスへの意識は薄れ、俺を攻撃する気満々になった。ボスは左手を大きく振りかぶって俺を切りかかりに来るが、俺は大きく後ろに下がった。
「今だ、マルス行け!」
「了解です」
目の前をボスの左の剣が空を切る。するとボスは腰をしっかり下ろす構えをとる。もうマルスのことは気にしていないようで安心した。だが次に来るのはマルスから聞いていた両手での回し切りだろう。受けてみるか?大きく下がるか?……下がる!初手は見てみたい。ボスの動作開始を見て、俺は大きく何度も後ろへステップした。ぎりぎりで避けられた。想定したよりぎりぎりでヒヤッとしたが、そんなことは言っていられない、ボスは2撃目の攻撃はそのまま体を回転させて打ってくるらしい、これは避けられない、しかり腰を落として受ける態勢をとる。ガツン。これはダメなやつだ。俺は受けの姿勢のまま力を抜きそのまま後方へ吹き飛ばされることにした。態勢が崩れていないので、飛ばされようが影響は少ない。ボスとの距離も取れて一息つける。
それにしても1撃目の攻撃を受けたら、間違いなく身構えていても吹っ飛ばされ転がり倒され、2撃目で手痛い攻撃を受ける。2撃目は回転による刀の振りになる分、1撃目の攻撃よりはるかに軽くなるが、それでもこれだけの威力だ。討伐に苦戦するはずだ。範囲内の敵は軒並み切り伏せてしまうのだろう。これはもう1度はできない。もう少しマルスとの距離を取ってやりたかったが無理だ。俺も後方へ下がることを優先する。速い足さばきで後ろに下がっていく。幸い今回は俺を追いかけてきてくれた。付かず離れずの距離を心掛けながら下がり。時折振り下ろされた剣を剣で叩いてやって、興味は失わせないようにする。
遠くでマルスが飛び跳ねながら手を振っているのが見えた。無事に逃げきったようだ。俺ももう逃げよう。俺はボスに背を向け全力で走り出した。騎士団仕込みの全力走法。この走りは魔法でも思念でもない何かを使っているとしか思えない走りで人の走る速度を超えている。ボスと言えど追いつくことはできないだろう。しばらく走り続け後ろを見ると、ボスも追いかけてはこなかった。
俺はボスを大きく迂回するようにして、29階層の入り口にようやく到着した。とりあえず29階層の安全な岩場まで皆で向かいようやく休憩が取れる。
「グリムでかした!あのボスから無傷で逃げ切った冒険者はいない」
「いやいや、マルスが意図していた通りに動いてくれて助かった」
「俺なんて何もできなかったです。左手1本に耐えるのがやっとでしたから」
夜中にたたき起こされてのボス戦に、俺たちの興奮は収まらなかった。もう朝から酒盛りして今日は休暇にすることにした。




