32話 王国到達最下階層
朝になり朝食を済ませ、いざ30階層へ出発。坂道を下っていくとこの王国の到達最下階層にたどり着く。
「ついに来たなグリム。これで名実共に一級の冒険者だ」
「2人のお陰だ。だが、ここに来るのが目的じゃない。当面の目標はこの下に行くことだ」
「はい、それを目指して俺はこのクランに入りました!いよいよです」
いつもの警戒陣形で道を進む。2匹の赤いワーウルフが襲い掛かってくる。右は俺、左はマルスと補佐でガンズ。俺はサイドステップでよけ、振り向きざまの突きで普通のワーウルフと変わらず討伐した。ただ、マルスはスピードについていけなかった。急ぎ俺が加勢して無事に戦闘は終わる。
「お2人すみません。速さについていけなかった」
「マルス、赤いワーウルフの時は、俺が死体から拝借してきた細剣を使え。今のマルスの剣では、赤いワーウルフに対して重すぎで、攻撃力が過剰だ」
「俺は細剣は使ったことないですが、次に使ってみます」
「今日は細剣に慣れるためにも、1日細剣で過ごしてみたらどうだ?バーンと赤いワーウルフだから問題ないと思うが」
「はい、今日は細剣でいってみます」
また警戒態勢で先に進む。試してみたい赤いワーウルフは出てこず。バーンばかりと戦っていた。バーンは俺とガンズに攻撃を阻まれると後ろに下がる癖?があるようで、下がり際にマルスと俺が攻撃することとなる。やはりこのレベルの敵ではボス戦の想定は難しそうだ。
そろそろ昼食を取ろうと物陰を探していると5匹の赤いワーウルフに襲い掛かられる。俺が右、マルスが左。ガンズは横へ振り切る。マルスも今度は速度に勝って問題なく討伐する。そして2人は次の端の魔獣へと突きを加える。さらに俺がガンズとやりあっているワーウルフに突きを打ち込み戦闘終了。普通のワーウルフ戦と変わらず討伐できた。
「マルスの速度が上回ったな。これで赤いワーウルフは安定する」
「はい、細剣は早いですね。ただ力が乗り切れていないとも感じます」
「細剣は手数で勝負する剣だからな。相手より早く動きたいときや、相手に隙を与えたくないときは有効だ」
「武器をいろいろ試すのも悪いことではないんですね」
「マルスは剣の腕がしっかりしているから、別の剣も使えるだけだ。素人ではこうはいかない」
身を隠せる場所を見つけて、昼食をとる。午前中は休憩が少なかったので、少し長めに休憩することにした。
「ここで稼ぐのと29階層で稼ぐのと、手間が変わらない気がするのだが?ガンズはどう思う?」
「マルスの速度が上がって、ワーウルフはどちらも問題がない。バーンも今の攻撃なら不覚は取るまい。結果は変わらん!だな」
「マルスはどうだ?マルスのスペードアップのお陰ででてきた考えだが」
「俺もここの方が稼げて、体への負担も上と変わらないと思います。ただ、ここはボスが出た場合は、上に逃げる必要があることだけは忘れないでください」
「そういえば、今までボスに遭遇してないな。29階層はあれだけ歩き回ったのに」
「最近討伐されたんだろ、大人数で稼ぎにくるクランもあるからな」
「そんなクランも30階層には来ないのか?」
「来ないな。ボスの攻略法が決まるまでは」
「役目を果たさないで、お金だけはしっかり稼ぐ嫌なクランです。でも、強い冒険者にも人気があるようです」
「金はないよりある方がいい。だが、グリムのように貴族になりたいとは思わん。面倒くさそうだ」
「ああ、贅沢させてもらっていたが、やらされることも多く責任も重い。俺は今が一番自分らしく生きていると思う……すまん、脱線したな。ここで稼ぐでいいんだな。ボスが来た時の指示は俺が出す」
「了解」
その後、俺たちは昼に使った隠れ場近くで魔獣を討伐することにした。バーンが多いのもかえって突発的な戦闘にならずに気が楽だ。おまけにバーンとワーウルフばかりでかさばる戦利品が無いのもありがたい。俺たちには理想的な稼ぎ場となった。
30階層に来て7日目の夜。寝ていた俺たちは飛び起きる。この張りつめたような殺気はボスだろう。
「マルス、このまま逃げれば逃げ切れるか?」
「少し不安要素が。29階層入り口方向にいるようですから」
「回り込んで逃げるか、俺がおとりになって引き付けながら2人を逃がし、その後に俺が逃げる方がいいか?」
「グリムに頑張ってもらうのが、確実に逃げられます。今回は、荷物を置いていく選択はできないので」
「了解だ。ガンズが一番足が遅い。ここで待機して逃げられそうになれば、直ちに逃げてくれ。29階層の入り口まで全員の荷物を運び、運び終えたところで合図をくれ。その後マルスは29階層入り口に向かって逃げる。俺は31階層方向へボスを引き付けて、マルスが安全な距離まで離れたら俺も逃げる。それと、ガンズは俺とマルスが戻れなくなったら、躊躇せず地上へ戻れ。いいな」
「了解」
「マルス、攻撃はいらない。左手の攻撃の防御だけでいい。細剣は俺が預かる。行くぞ」
俺とマルスが駆け出し、ボスに俺たちの存在を認識させる。いよいよボスとの戦いだ!




