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名もなき少女から始まった、魔法士の系譜  作者: みや本店
2章 世界最強の剣士編
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29話 マルスの想い

 休憩中に俺は2人に質問をした。



「あの狼男?は何という名前だ?」


「ワーウルフです。気が付いたと思いますが、見つけ次第駆け寄ってきて噛みつこうとします。ワーウルフは魔獣の中で最も動きが速い部類なので、速度で劣ると厄介です」


「なるほど、今の俺たちはぎりぎりセーフな感じか。助かった」


「でも油断しないでください。29階層にはもう1匹厄介な敵がいます。バーンと言って剣士です1刀のやつもいれば、2刀を使うやつもいます」


「だな、こいつらと戦うと剣の試合をしている気分になる」


「そいつは楽しみだ」


「バーンは透明できれいなクリスタルを落とします。高価です!」


「それじゃ稼ぎに参りますか!」




 そしていつもの陣形で先に進む。少し進んではワーウルフとの戦闘を繰り返す。疲労は少ないのは助かるが精神的なプレッシャー受け続け、結局こまめな休憩は必要だった。



「なかなかバーンには出会えないな」


「そうですね、バーンはあまりお目にかかりません。ただ、下の階層ではバーンはいるし、ワーウルフは赤いしでてんやわんやになります」


「バーンとワーウルフが同時に攻めてきたりはするのか?」


「俺は経験がないです。ガンズは?」


「俺もない。それをされたら防げないだろうな」


「そうですね、それに逃げ切れるとも思えないです」




 その後も先へ進む。そしてついに2刀のバーンと遭遇する。バーンはこちらを認識するとワーウルフとそん色ない速さで近寄ってくる。そして自分の間合いと判断したところで素早く切りつけてくる。俺はマルスの前に出て一撃目を受ける。重くはない。だがすぐに2撃目がくる。受けることは問題がないが、反撃する隙は見せてくれない。



「ガンズ、左手は任せる。マルスは俺たちの間に来て、とにかく魔石を突け」


「了解」



 ガンズが受ける。マルスが突き続ける。バランスが良くなった。俺も動けるのはありがたい。俺は受け流しては右腕を切りつける。たまらずバーンが後ろに下がろうとする。俺たちがそれを見逃すことはない。俺は渾身の振り下ろしで右手を切り落とす。ガンズはマルスと魔石への攻撃を加えた。これで討伐完了だ。光の粒となり消えていくバーン。戦利品はクリスタルだった。



「マルス、こいつの赤いのはいるのか?」


「今まで見たことはないです。きっと31階層に入ると思います。それに30階層のボスはバーンの親玉のような魔獣です」


「さらに早くて重いのか?」


「はい、でもそれだけじゃないんです。2刀を並べて大振りする攻撃があります。この攻撃を受けて耐えた人はいません。良くて後ろに下がらされ、最悪は吹っ飛ばされます」


「マルスは今回、細剣は持ってきたか?」


「いいえ、そもそも俺は細剣は使いません」


「ガンズは盾は持ってきてるか?」


「いや、俺も今回は大剣だけで、剣と盾の組み合わせは持ってきてない」


「それだと、30階層のボスは討伐は無理そうだな。俺も細剣を持ってきていないから。でもちょっかいくらいは出してみたいな……」


「グリム、顔が悪ガキの顔になってるぞ」


「すまん、楽しみで顔に出た(笑)」


「30階層のボス、いけそうですか?」


「準備を整えるのと、リサさんに黒魔法を使ってもらえばいけると思う」


「次回だな!」


「はい、次回ですね!」



 2人もやる気がみなぎっている。俺と同じ悪ガキ顔だ(笑)




 さすがに疲れてきた。それを2人に伝える。



「すまないが、疲れた。今日はこの辺にさせてくれ」


「俺も疲れました。安全な場所を探して休みましょう」


「了解だ。無理する必要はない」



 そして3人で休める場所を探す。途中でワーウルフと戦闘になったが、何とか休めそうな場所を見つける。俺は道具箱を出して、以前、近衛兵からもらったダンジョンの地図に今日歩いた場所を書き込んでみた。ほぼ28階層と30階層を繋ぐ道順に進んだが、それでも今の休憩場所は道からは少しそれている。俺は2人に地図見せる。



「2人が見てこの地図はどうだ?」


「はい、合っていると思います。全体の広さが分かるとより良いのですが」


「そうだな、でも地図を書くとなると、一度は壁沿いを一周しなければならない」


「俺は壁を一周をすればいいと思います。ガンズはどうですか?」


「討伐しながら進むことに変わりはないから、俺もその方針でいいと思う」


「水場や安全そうな場所が分かると、皆が助かると思います。今回のここの場所だって安全地帯として有益な情報です」


「では、明日は29階層の入り口から右回りで壁を進んで行こう」



 こうして明日の方針は決まった。俺たちは食事を取り始める。ランゼンさんはジャムやソースも置いて行ってくれたので、カルパスに塗って食べてみた。味が変わって食べやすい。次回は自分で持ってこよう。マルスは酒を少々飲んだだけで眠り始めてしまった。



「今日のマルスはだいぶお疲れだな」


「ああ、グリムが突きを見てやるまでは、ぎりぎりのところで戦っていたんだろう」


「マルスがこんなに下層にこだわるのは、何か理由があるのか?」


「俺が聞いた話しでは、かなり強い冒険者だった兄貴がいたらしい。しかし、ある下層探索から帰って来なかったそうだ。だから兄貴の痕跡か遺品でもさがしているのかもしれないな」


「それで地図作りにも積極的だったのか」


「ああ、だから地図作りはやってやろう。だが、30階層にも1度は降りるぞ。これはグリムに箔をつける目的でもある。攻略中の最下層にたどり着いたという評判は、考えているより大きいんだ」


「分かった、ガンズの言うことに従うよ」


「そうと決まれば、俺たちもさっさと寝ちまおう」



 俺も今日は早々に寝ることにした。


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