28話 気が抜けない
水汲み場から移動を始め、途中で魔獣と交戦しながらも、昼頃には29階層に到達した。この王国の到達最下階層は30階層ではあるが、29階層もほとんど地図ができていないらしい。どうも冒険者は地図を書く能力のある人間が少ないらしのと、敵も強く地形などかまっていられないらしい。
俺たちは休憩を兼ねて、昼飯を食べることにした。
「地図を作ると売れるのか?」
「たぶん国王陛下とギルドから相当な報酬が出ると思います」
「地図作らないか?俺は騎士学校を卒業しているから、地図は書けるぞ」
「29階層の地図を俺たちが作る……グリム素晴らしいです!クランの名が残りま……あれ、そう言えば、俺たちのクランには名前がなかったですね?」
「俺はクラン名もグリムだと思ってた。違うのかグリム?」
「俺は名前を付けることを知らなかった」
「おいおい、俺たちのクランはパッとしないな(笑)」
「グリムは冒険者レベルも未申請だから、上に戻ったら一緒に片付けに行きましょう」
「前も話していたが、冒険者レベルとは何だ?」
「冒険者の強さを表します。ギルドに頼むと魔道具を使って測定してくれます。証明書も発行してもらえますよ」
「何かメリットがあるのか?」
「冒険者レベルが10に到達すると、王国から正式な私兵団の一員と認められます。そしてレベルが11以上は住まいが提供されます。ただし、王国から私兵団へのダンジョンの討伐依頼がきます。これは断れません。もちろん褒美と戦利品はもらえますけど」
「俺がお前たちと参加したあれか?」
「そうだ、だからグリムと組んだ俺たちは、あの時はぼろ儲けだったな(笑)」
「はい、俺も剣と防具を一式新調しました!」
「ちなみにお前たちの冒険者レベルはいくつだ?」
「俺は12、マルスも12だったな」
「はい、12です。この国の最高レベルは13で、全世界では14が最高です」
「やはりお前たちは無茶苦茶強いんだな。俺のクランで本当に良かったのか?自分で作れば儲かるだろし、好きに下層攻略もできるだろう?」
「クランを運営できるかどうかも才能なんですよ。俺もガンズも1匹狼タイプだから」
「なんだ、俺のクランはアウトローな奴が集まっているのか?」
「ああ、1匹狼にはここは居心地のいいクランだからな(笑)」
食事を終え、29階層の討伐を始める。マルスを先頭に進むいつもの陣形をとる。しばらくすると高速の殺気が近づいてくる。それも2つ。
「俺は右、2人は左」
「了解」
俺は右側の魔獣に駆け寄り、2人に向かわせないように動く。人と狼を合わせたような魔獣が飛びかかってきた。俺は得意の再度ステップでよけ、振り向きざまの突きを打ち、光の粒にしてやる。そして2人を見ると、苦戦していた。ガンズが剣で抑えて、マルスが突く攻撃だが、若干敵の動きが速い。
俺は駆け出し、敵に近づいたところで一突き。あっさり光の粒になり消えていく。
「グリム、助かりました。俺のスピードでは突けなかったです」
「俺もマルスのために敵の速度を落としたかったのだが、有効な方法が見つからなかった」
「ガンズの動きはあれでいい。マルスは突きに癖があるな。直せばもっと早くなる。マルス構えて突いてみろ」
「はい」
マルスは敵と対峙するように構え、力を込めて突く。俺はマルスの右わきと右ひじに指をあてる。
「マルス、わきを開く動作で遅くなるのと、その動作につられてひじに無駄な動きが出てしまう。まずはわきを閉める意識を持って突いてみてくれ」
「はい」
マルスは何度か突いてみた。
「うん、良くなった。次は問題ないだろう」
「ごめん、グリム。自分ではよくなったのが分からない……」
「そうだな、でも次に戦えば分かる。それにしても、狼男?は群れて攻撃してくるのか?」
「そうですよ。多いと5匹くらいは群れて襲ってきます」
「噛まれると致命傷か?」
「1度なら大丈夫だ。だが、噛まれた場所にもよるか」
「4匹以上は、一度ガンズに薙ぎ払ってもらった方がいいか?」
「そうですね、俺とグリムで両脇の2匹を仕留められれば、残りは1人1匹で対峙しましょう。俺かグリムが狩り終えた後、ガンズの攻撃に参加で問題なしです」
「了解」
俺たちは戦利品の牙と皮を取って先に進む。
しばらく進むと今度は4匹の狼男?が攻撃してくる。俺とマルスは端の魔獣に狙いをつけて対峙する。俺はいつものステップターン。マルスも体を捻り曲げての突きであっさり2匹を打ち取った。そして2人ともそのまま次の2匹に突きを打つ。今度もあっさり魔獣を倒す。
「どうだマルス、突きは早くなったか?」
「はい、生意気なこと言いますが、余裕でした」
「確かに動作に余裕ができたな。動作に余裕ができると心にも余裕ができるだろ」
「はい、焦らず敵をよく見ることができました。ありがとうございます」
「マルスにしては殊勝な物言いだ、グリム、珍しいからよく見ておけよ(笑)」
「ガンズ、あまり馬鹿にしないでくださいよ。俺はこうしてちゃんと剣を指導してもらったのは初めてなんですから」
「確かに俺も我流でやってきてる。無駄な動きは山ほどあるだろうな」
「いや、マルスのはたまたまだ。ダンジョンではお上品な剣さばきなど役に立たないだろう?」
俺たちは戦利品を回収して休憩を取る。狼男は目ざとく見つけて襲ってくるので、休憩中も気が抜けない。




