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名もなき少女から始まった、魔法士の系譜  作者: みや本店
2章 世界最強の剣士編
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21話 兄上への依頼

 翌朝もアスカと訓練と風呂を済ませ、リイサさんの店で朝食をいただく。



「アスカ、昨夜来たマルスとガンズがクランに入ることになった。よろしく頼むな」


「うん、アスカ仲良くする」


「それと、アスカ。ガンズの奥さんが病気をして困っているらしい。父は助けてあげたいと思っている」


「うん」


「でもガンズの奥さんの治療にはものすごくお金がかかる。なので父とマルスとガンズでお金を稼ぎに1カ月ほどダンジョンへ行く」


「うん」


「その間、ガンズの奥さんとアスカは兄上の家に預かってもらおうと思っているのだが、許してくれるか?」


「……」


「アスカとずっと一緒にいると約束したから、どうしても嫌なら諦めるがどうだ?」


「お父様と離れるの寂しい。でもガンズさんの奥さん死んじゃったらガンズさん可哀そう。死んじゃうと会えなくなっちゃうから……」


「そうだな、死んじゃうと会えない。だからなるべく助けてあげたい」


「うん、伯父様のところでお留守番する」


「ありがとう、アスカ。父も頑張ってくるからな」



 俺はアスカの頭をワシワシと撫でてやると、アスカは嬉しいやらうざったいやらと、複雑な表情をしながら食事を続けていた(笑)


 食事を終えて拠点に戻る。兄上に面会をお願いする手紙を書き、貴族街の門へ向かう。貴族街の門では顔見知りの守衛にお願いし、休憩中の守衛に兄上へ手紙を届けてもらう。もちろん多少の手間賃を渡してだ。しばらく門近くのベンチでアスカと待っていると、守衛が俺のところに近寄ってきて返事の手紙を渡してくれた。中身を確認すると兄上からの手紙で、今日は1日屋敷に居るのでいつでもいいから来いと書かれていた。もう1通は俺とアスカの入館許可証だった。念のため許可証を守衛に見せて、門を通してもらった。




 実家の前に着くと、すぐに屋敷に招き入れてくれて、そのまま執務室に案内された。



「グリム、元気そうだな。アスカは少し大きくなったな」


「はい、2人で無事に生活できております。国王陛下の温情でクランを設立し、拠点も賜りました」


「それなら当面は安心だな。それで今日は何用だ?」


「兄上にお願いがあり参りました。私のクランに所属するメンバーの妻が病気らしいのですが、庶民の医者では原因が分からないそうです。ですので、兄上のご助力で貴族街の医療を受けさせたいと思っております。そして、療養の間はこの屋敷でアスカと奥方を預かっていただきたいのです」


「それは構わんが、アスカも預かるとはどういうことだ?」


「はい、クランの3人で治療費を稼ぎにダンジョンへ行ってきます」


「ほう、ダンジョンとはそれほど金が稼げるのか?」


「私もそれほど下層までは行っていませんが、それでもアスカと2人なら少々の贅沢ができる程度の稼ぎにはなっています。ですので、さらに下層へ行けば、治療費の足しにできるのではと考えています」


「まあ、グリムのゆかりの者なら、治療費のことはともかく、ダンジョンの下層の話しを聞かせてもらうのは当家としても興味がある。いいだろう、この話しは了解しよう」



 さすが、兄上。戦闘担当の伯爵様はダンジョン攻略にも興味がおありのようだ(笑)



「兄上、心より感謝します。では奥方とアスカの入館許可の申請をお願いします」


「分かった。しかしグリムも毎回ここへ来る手続きが面倒だろ。マチス、何か良い考えはあるか?」


「そうですね、ダンジョンのお話しをお聞きになるなら、専属のダンジョン情報提供クランとして提携されてはいかがでしょう?そうすれば奥方様もアスカ様もクランの関係者としてお預かりしやすいと思いますが」


「まあ、前例はないだろうが、問題にもならないか。この屋敷の入館許可だけだからな。良し、マチス。その方向で手続きを進めてくれ」


「はい、手続きは今日中に済ませておきます」


「頼む、それと奥方とアスカの部屋の支度も頼む」


「かしこまりました」


「グリムは明日、屋敷へアスカと奥方を連れてこい。それでいいな」


「はい、明日にまたお伺いいたします」




 こうして話しを終えて、俺とアスカは屋敷を出て庶民街に戻った。リイサさんの店でランチを食べた後は、拠点で2人でのんびり過ごした。しばらく会えなくなるのだから……



「アスカ、今回のことは本当にごめんな」


「うん、お父様と一緒にいれなくて寂しい」



 俺はアスカを抱きしめてやりながら話しを続けた。



「戻ってきたら、また2人で一緒だ。心配するな」


「うん、お父様と一緒にいたい」


「父もアスカと一緒にいたい。だが、ガンズの奥さんのために頑張ってくる」


「はい、アスカも頑張ります」



 その後、アスカの荷物を用意して、早めにのんびり風呂に入って、夕食を食べにリイサさんの店に行った。そして店では少々贅沢な食事を2人前頼む。



「リイサさん、1月ほど仕事で店に来なくなります」


「1カ月も2人でダンジョンに行くのかい?」


「いえ、アスカは実家に預けて、クランの男3人だけで行ってきます」


「アスカちゃんに会えなくなるは寂しいね」


「アスカも寂しい」


「あらら、それはかわいそうに。せめて今夜はとっておきをご馳走してあげるからね」



 そう言って、リイサさんは厨房へ戻って行った。代わってガンズが店に現れる。



「お待たせしました。それでいかがでしたか?」


「兄上が引き受けてくれた。明日は奥方を連れて兄上の屋敷に行き、奥方はそのまま屋敷で療養していただく。アスカも兄上に預かってもらうよう頼んだ」


「ありがとうございます。それにしても妻が伯爵家で療養とは恐れ多い……」


「心配するな、交換条件を出されている。これから俺たち3人で療養費を稼ぎに下層へ行ったときのことを報告しろとのことだ。俺の実家は戦闘担当の伯爵家だからダンジョンの情報も有益らしい」


「そんなことならお安い御用で」


「では、10時の鐘に貴族街の門の前で待ち合わせよう。奥方の療養の支度は頼む。支度は着替えくらいでいい」


「分かりました」


「そうだ、午後からはマルスも合流して、ダンジョンへ行く準備をしよう。そして明後日の朝からダンジョンへ向かおう」


「はい、マルスに伝えておきます。では、今夜は支度もあるのでこの辺で」



 ガンズは早々に帰っていったので、アスカと2人でのんびり食事をした。いつもより贅沢な食事を堪能した。そして拠点に帰り、2人でベッドに横になる。2人でくっついて寝る姿は、もうすっかり親子だった……


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