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名もなき少女から始まった、魔法士の系譜  作者: みや本店
2章 世界最強の剣士編
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16話 ダンジョンの天使?

 その後もアスカはスライムを相手にしたが、3匹のスライムと戦っても冷静に対処してダメージも受けなかった。



「アスカ、下の階層に降りてみるか?犬みたいなのや豚みたいなのがいると思うが?」


「ぷるぷるより強い?」


「うん、強い。アスカのことを狙って攻撃もしてくる。ここで戦い続けるか、下で強い魔獣と戦うか、もう戦わずにお金を稼ぎに下まで降りていくか選んでいいぞ」


「強いのと戦ってみたい」


「分かった、下に降りていこう。ただ、アスカ。疲れたらちゃんと父に言うんだぞ」


「はい、お父様」




 俺はアスカを肩車して、2階層へ降りて行った。2階層の敵も慣れている冒険者なら蹴り倒せるだろう。だが、アスカにとっては敵が大きくなる分、恐怖やダメージが大きいかもしれない。しっかり監視をしてやりたい。


 3階層へ向かう道の途中、1匹のドグと遭遇する。ドグは犬型の魔獣で、今回のはドグの中でもサイズが大きい。アスカの様子を伺うと、戦ってみる気満々だった。だが念のため。



「アスカ、犬のような魔獣でドグという。スライムよりも強い。体当たりしてきて、かみつかれることもある。かみつかれるとかなり痛いぞ。どうする戦うか?」


「お父様、戦う」



 アスカを降ろすと、すぐに戦闘態勢を取った。そしてしっかり敵を見据える。しばらくしてドグが飛びかかってきた。でもアスカは冷静に魔石を突く。魔獣はきらきら光って消えた。そして今回は皮を落としていった。アスカは不思議そうな顔をして皮に近づいた。剣で突っつこうとしたので慌ててとめた。



「アスカ、敵を倒すとこうして何かを残していくことがある。これを集めることで、父とアスカはご飯を食べることができる」


「お父様、これで黄色食べれるの?」


「これがいっぱいあると食べられる。もっと強い敵が残した物なら、1つで黄色1つが食べられることもある」



 それを聞いてさらにアスカは俄然やる気を出した。今日はアスカの戦闘訓練で過ごすことが確定だな(笑)




 その後も敵を見つけては、アスカは戦うことを望んだ。そして、この階層でもアスカは問題がないだろう。この階層では結局3枚のドグの皮を手に入れた。普通の冒険者なら拾いもしない物だが、アスカの報酬なので持ち帰ることにした。



「アスカ、この下の階層に降りてみるか?ただ、今のアスカには勝てないと思う。でも見るだけでも勉強になる。どうする?」


「お父様、下に行きたい」




 今度は肩車で3階層に下りる。4階層へ向かう道を進む。ここからは下の階層は多くラビツが生息している。ラビツは数が少なければ逃げてしまうが、数が増えると狂暴になり襲ってくる。角が生えているので、油断していると怪我をすることがある。今のアスカにはまだ荷が重いだろう。


 しばらく歩くとラビツがいる。アスカはまた戦う気でいる。



「アスカ、あの魔獣はアスカが身構えていても襲ってこない。臆病なんだ。だからアスカが倒しに行かないと討伐できない。でもあの敵は角があって強い。アスカに当たったら怪我をする」


「お父様、戦う」



 さすがに俺も迷う。うまくいけば勝てる。だが、この魔獣ならうまくいかないこともあるだろう。そんな俺の迷いに気付きながらも。



「お父様、戦う!」



 ここまで力強く言われると、やらせてやりたくなる……親はむずかしい。怪我をしたら担いで駆け戻る覚悟をしてやらせてみることにした。アスカを降ろすと、アスカはすぐに剣を抜き、ラビツに駆け寄る。そして手を大きく正面に伸ばして魔石を正確に突く。俺が見ても流れるようなきれいな動作だ。



「アスカ、お見事。上手に倒せたな」


「うん、少し怖かった」


「怖かったか、それならもうお終いにするか?」


「ううん、まだ戦う」


「分かった。アスカ、お前が倒した魔獣の皮を取っておいで」


「はい、お父様」



 アスカはラビツの皮を手に持って、俺のところに駆け戻ってくる。



「黄色はまだ?」


「まだまだだな。黄色を食べるのは大変だろ」


「うん、大変。でも黄色食べたいから頑張る」



 戦いとは本来こういうことなのだろう。食べるために戦う。アスカは本能に従って戦っているように思える。その後もラビツ相手にアスカは戦い続けた。そして何度目かの戦いで初めてラビツの攻撃を受ける。アスカが1匹のラビツを攻撃して倒したが、気付かなかったもう1匹に攻撃される。俺は軽装の金属版に当たるのが分かり、ラビツの角が金属板に触れるタイミングを見計らって剣を突き出した。アスカは恐怖の表情をしていたが、しばらくして泣き出した。俺はアスカを抱きかかえてやった。



「お父様、怖かった。でも悔しい」


「そうだな、戦いだから怖い。父も同じだ。だから怖くなる前に敵を倒してしまえるよう訓練している。だからアスカも父と一緒に訓練を頑張ろうな」


「はい、お父様」



 俺はしばらくアスカを抱きかかえたまま、頭を撫でてやった。恐怖や痛みを知ることは、戦いには大切なことだ、頑張れアスカ!




 アスカが落ち着いたところで、地面に降ろす。アスカはラビツの皮を取りに行ったが、今度はしっかり辺りを警戒しているようだ。どんどんダンジョンに順応している。娘には驚かされるばかりだ。




 そろそろ野営をと考えながら歩いていると、帰り道の冒険者とすれ違うことが増えた。娘を肩車して歩いている冒険者は珍しく。冷やかしてくる人もいたが、優しく声をかけてくれる人が多かった。中には戦利品をアスカにくれる冒険者もいた。アスカはもらうたびに。



「おじさん、ありがとう」



 ニコニコしながら手を振った。娘はダンジョンの中の天使のようだ(笑)


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