10話 魔道具との出会い
高等図書室の司書となった翌日、すべての授業を終え、教室の皆さんと別れの挨拶を交わし、高等図書室へ向かった。勝手知ったる~で引き出しから腕章を取り出し腕に巻き、マルタ先生が来られるのを待っていた。ただ待っているのももったいないと思い、私は司書机周りの掃除を始めた。しかし、あっという間に終えてしまう。それなら受付周りも……これもあっという間。仕方なく共通コーナーの掃除を始め、そろそろ終わるかなというタイミングでマルタ先生が来られた。
「掃除までさせてしまって申し訳ない!でもピカピカで気分がいいね」
先生が笑顔でそう言ってくれたので、労を労ってもらった気分になった。
「早速ですが高等図書室の司書の仕事について。まず、高等図書室は図書室出入り口と白魔法士専用部屋出入り口と黒魔法士専用部屋出入り口の3カ所に鍵があります。受付終了後はすべて施錠して3つの鍵を教員室へもってきてください」
「はい」
「次に本の定期的な確認です。目安としては1年かけて高等図書室内すべての蔵書を確認するくらいです。のんびりですが計画を立てて確実にこなしてくれると助かります。それと、いつどの棚の蔵書を確認したかは残して欲しいです。用紙は中段の引き出し、記載した用紙は下段の引き出しにしまってください」
「そして肝心な問い合わせに答える業務ですが、この魔道具を使用します」
マルタ先生はそう説明してくれた後、司書机の上に置かれた黒い立方体を指さした。
「今からアグリさんを登録するのでお待ちください」
マルタ先生は魔道具に手を乗せて何やら考え込んでいる様子。いったい何をしているのだろう?
「アグリさん、手を乗せてください」
先生と交代して今度は私が手を乗せしばらくすると、頭の中にダイレクトに箱がささやかれてくる感覚がし始めた。
「魔道具の声が聞こえたかな?」
「多分……聞こえたと思います」
「では、試してみますか!ヒールの詠唱について書かれている本を教えてください」
私はマルタ先生に言われたことを頭の中で復唱した。すると、『白・1・1・1・25』と頭の中に浮かぶ。それをそのまま口にする「白・1・1・1・25」
するとマルタ先生は、「初めてで本まで特定できるなんて大したものだ!」と驚いていた。私には何が大したものなのか分からなかったのですが……
「この魔道具は思念で対話するもので、コミュニケーション方法によっていろいろな答えを返してきてくれる。思念でのおしゃべりを繰り返していけば、きっと仲良くなって信頼もしてもらえるから頑張って!」
「はい」
「そろそろ春休みを迎えるから、高等図書室はほとんど人は来ないと思うよ。蔵書の確認は春休み明けからでよいので、今は魔道具の対話を優先してください」
「はい、分かりました」
マルタ先生が教員室へ戻られると、私は魔道具との対話をしていた。
『初めまして、私は白魔法士中等部1年のアグリと申します。これからお世話になりますので、よろしくお願いします』
そう思念を送ると……無視された(笑)
それならと思い、以前から気になっていたことを尋ねてみた。
『白魔法でも黒魔法でもない魔法について書かれた本はありますか?』と思念を送ると……『地下・8・3・2・12』と答えてきた!そもそも地下って秘密の蔵書置き場でもあるのかな?
『地下の蔵書置き場について書かれた本はありますか』……『地下・15・1・2・8』何かの本に書かれているの?地下の蔵書置き場は存在はするってことね、きっと!でもちょっと怖くなってきたから、もう触れるのはよそう……
『ひまわりの育て方が書かれた本を教えて』……『一般・4・2・2・3』
実はこの回答にはおおよその検討がついていた。自分でこの本を調べたことがあったからだ。自然科学の4、夏の花で2、育て方で2、比較的簡単な本だったので3と前の方に置かれているイメージ。予想した通りの結果を返されて驚いた!一般図書室の蔵書も網羅されていることも知ることができた。
そんな魔道具とのおしゃべりをしていると、見知った人が入館してきた「フィーネさん!」「アグリさん!」お互い顔を見合わせ驚きあった。
「今日から高等図書室の司書になりました」と伝え腕の腕章を見せてアピール。
「私は高等図書室にはよく来るので、アグリさんとはここでも会えそう!」と嬉しそうに笑顔を向けてくれた。
「ねぇ、アグリさん、もしかすると私が最初の問い合わせ依頼になります?」
「はい、私の初受付業務になります!」
「それは光栄ですわ!では、調合素材の赤ブドウについて調べたいのですが……」
「少々お待ちくださいね」
私は、『調合素材の赤ブドウについての本を教えてください』と思念を送ると……『共通・4・3・1・2』と答えが返ってくる。
「共通・4・3・1・2です。これで本にたどり着けますか?」
「はい、十分です。ありがとうございました」
フィーネさんは本棚から1冊の本を取ると、近くの机に本を広げメモを取り出した。真剣な表情のフィーネさんを見ていると、『なんて清楚でお奇麗なご令嬢なんだろう……』とつくづく実感してしまう。そして、我慢しきれずペンと紙を取り出し、フィーネさんのスケッチを始めてしまう……
おおよそスケッチが終わり、私は下の余白に「いつも優しい心で接してくださり、感謝しています」と書き加えた。
フィーネさんが本棚へ本を戻し帰る様子。
「では、私はそろそろ帰りますね」と私に伝えにきた。
「フィーネさん、よろしければもらっていただけますか?」とスケッチを渡した。
フィーネさんはスケッチを見ると驚いた表情となる。
「この絵を今ここで描かれたのですか?」
「はい、フィーネさんがあまりに素敵な表情をされていたので、ついつい描いてしまいました。侯爵様から頂いたペンで毎日描いていたのですが、少しは上達していると嬉しいのですけど……」
「とても素敵な絵です!屋敷に戻ったらお父様にもお見せして、自慢しますね」
嬉しそうに帰っていかれてこちらも安心でした。その後は誰も来ないので、魔道具と対話を続けていた。
『調合で回復薬を作る参考書を教えて』と思念を送ると……『該当が3件あります。共通・4・3・1・2、共通・4・3・1・20、白・4・1・1・12』
すぐに答えが返ってくる。もしかしてとても賢い?でも、多くの本が該当すると、覚えておくのは大変ね、いつでも紙とペンは手元に置いておきましょう。
『昨日の問い合わせは何件でしたか?』……『12件です』
『最後の問い合わせ内容を教えてください』……『昨日の問い合わせは何件でしたか?』
前の検索との関連も持っているのかな?おいおい試していきましょう。
『昨日の最後の問い合わせ内容を教えてください』……『今度の春休み前の最終貸し出し日はいつですか?』
『今度の春休み前の最終貸し出し日はいつですか?』……『貸し出しは終了しています』
なんと本に関係ないことまで回答してくれる!明日以降もいろいろ試してみましょう♪読書もせずのんびりしてしまった初日も閉館時間となった。3つの扉の鍵をかけ、教員室へ鍵の返却をすれば本日の学業は終了。
予習復習を終えたら、もう一度フィーネさんの絵を描いてみよう!と帰り道にも関わらず、気合が入ってしまうのでした。




