15話 剣士アスカ誕生
朝になり部屋で軽食を食べた後でダンジョンに向かう。王都の東側にダンジョンへ向かうための門があり、この門は近衛兵団、冒険者クラン所属者、国王陛下の許可がある者の他は通過できない。俺はアスカを肩車しているので、他人から奇異の目で見られたが気にしない。戦いの場は当たり前などないのだから。
ダンジョン入り口に冒険者ギルドの出張所と近衛兵団の出張所があった。近衛兵団の出張所には顔見知りも数人いた。そんな1人が俺に気付き声をかけてくる。
「グリムさん、噂は本当だったのですか!」
「今日から、ダンジョンで討伐をすることになりました。何分不慣れなのでいろいろ教えてくれると助かります」
「それなら、少々寄って行ってください。ダンジョンの地図をお渡しできますので」
そして出張所の受付に案内される。受付にはダンジョンに関する資料が置かれていて、一式そろえて持ってきてくれた。
「確か、近衛兵団で20階層までのボスは討伐していましたね」
「はい、10日かけて1階層から10階層までと、11階層から20階層までのボスを討伐しています」
「となると、私1人でも20階層までなら問題なさそうですか?」
「20階層までで冒険者の8割が戦っていて、21階層以下に降りていくのは中から高レベルの冒険者のようです。21階層以下は稼ぎが段違いのようですよ。グリムさんならお1人でも21階層はボスも含めて問題ないと思います」
「有益な情報をありがとうございます。21階層にたどり着くのは何日くらいかかりますか?」
「そうですね、20階層まで最短経路を使って急いで向かって2日と言われています。でもこれはかなり急いだ場合です。21階層からは距離ではなく、敵との遭遇率で変わります」
「すると今回は21階層に行くのは難しそうです。5日分の食料した持ってきていないので」
「グリムさんには以前助けていただいたので、5日分の携帯食ならご提供しますよ」
「本当ですか!それは助かります。今回の御恩はダンジョン内でお返ししますので、何かあれば声をかけてください」
「それは、こちらも助かります。今後ともよろしくお願いします」
近衛兵団の皆とは挨拶を交わして別れ、いよいよダンジョンに入る。アスカは肩車に乗っているからか落ち着いている。
「アスカ、怖くないか?」
「うん、お父様に乗ってると楽しい」
だそうだ。でもまずは1階層で魔獣について教えるつもりでいる。ダンジョンの1階層を歩いていると、おあつらえ向きにスライムを見つけた。スライムは魔獣の中でも最弱で、踏みつぶしても討伐できる。それでも魔獣なのでしっかり魔石の核を持つ。
「アスカ、父の攻撃をよく見ていてくれ。魔獣には魔石の核と言われる部分がある。あの丸っこい魔獣にも中心に赤い丸いのがあるのが分かるか?」
「はい、お父様。分かります」
「あそこに剣を当てると、魔獣を倒すことができる。では父がやってみるぞ」
俺はスライムの魔石に剣を突き刺す。スライムは光の粒のようになり消えていく。
「お父様、キラキラきれい」
「そうか?でも魔獣を倒せないとアスカが攻撃されて怪我をすることになる。最悪の場合は死んでしまう」
「お父様、知っています。お父さんもお母さんも死んじゃったから」
「そうだな、この世は油断をしていると死んでしまう。だから強くならなければいけないし、常に周りを気にして、危険と立ち向かったり、逃げたりして生き残るんだ」
「はい、お父様。アスカもぷるぷるやっつけてみる」
「分かった、次に見つけたら、父と一緒に戦ってみよう」
そして2階層に向かう途中で、またスライムを見かける。
「アスカ、あそこにスライムがいるが戦ってみるか?」
「はい、戦ってみたい」
俺はアスカを地面に降ろして、一緒にスライムに近づく。そしてアスカに剣を構えさせる。
「父と一緒に訓練した時と同じように構えなさい。そして訓練の時に狙って突いたように、スライムの赤い丸をついてみなさい」
「はい、お父様。えい!」
アスカの剣は見事に魔石の中心をつく。光の粒となって消えていく。
「お父様、キラキラきれい」
「確かにきれいだな。でもこの光は命が消えていく光だ。それだけは忘れるな」
「はい、お父様」
その後先に進むか、アスカにダンジョンを慣れさせるか迷ったが、アスカを慣れさせることを優先させた。可哀そうだがダメージを受けることも経験させたい。それからスライムを見つけては討伐を繰り返し、2匹のスライムがいるのを見つけた。
「どうするアスカ、2匹いるぞ」
「やってみる」
アスカは基本通り構えて1匹目を討伐する。だが、横からもう1匹のスライムに体当たりを受けて尻もちをつく。手を出すか迷ったが、アスカは敵をしっかり見据えていたので任せることにした。アスカは無理して立ち上がろうとせず、剣だけ突ける体勢を保ったまま、ゆっくり立ち上がろうとする。そしてスライムの体当たりがまたきた。しかしアスカは冷静に剣を突き出し、魔石をしっかり突き刺す。
おれは思わず拍手した。
「アスカ、立派な戦い方だった。体は大丈夫か?」
「はい、痛くない。でも悔しい」
「そうだな。しかり2匹とも気にしていれば、体当たりはされなかった」
「はい、もう体当たりされない」
この子は本当に剣の才能があるのではないか?まだ半信半疑だが、剣を教える気にはなっていた。




