14話 ダンジョン出発準備
リイサさんの店で夕食を食べる。アスカは卵料理がお気に入りのようで、リイサさんへの注文は、「黄色いの!」だった。今日出てきたのはオムライスだ。それを嬉しそうに夢中で食べている。俺はビールのお代わりを頼みながらリイサさんに伝える。
「リイサさん、住むところが決まりました。今日荷物を持って引っ越しします。ただ、明日以降も食事はこちらでお願いしたいです」
「グリムさん、無理して部屋を借りた訳ではないね?」
「はい、仕事も決まって、それに合わせて住まいも決まりました」
「仕事も決まった?何をするんだい?」
「冒険者です」
「こんな小さな子がいるのに、グリムさんが冒険者をできるの?冒険者は何日も家を空けたりしてるようだけど」
「そうなんですか、それは困った。アスカをどこかで預かってもらわないと」
すると、隣で聞いていたアスカが涙目になっていた。
「お父様、アスカを1人で置いていくの?アスカは1人はもう嫌です」
「心配するな。父とアスカはいつも一緒だ」
「はい、お父様」
「グリムさん、アスカちゃんのためにも、あまり焦らずにじっくり考えてあげてね」
「はい、肝に銘じます」
しかしどうしたものか……アスカも連れていくか!アスカ1人くらいは守れるだろう。当面は2人で食べられるだけ稼げればいい。そのうちアスカも成長して、1人で留守番ができるようになるだろう。今夜じっくりアスカに話して聞かせよう。
そして、拠点に帰り、風呂を済ませ、2人でベッドに寝転んだ。
「アスカ、これからは父と一緒に危ない場所に戦いに行かなければならない。父の言うことを必ず聞くと約束してくれ。聞いてくれないとアスカには留守番をしてもらうことになる。どうだ、父の言うことを聞けるか?」
「はい、お父様、約束です」
「よし、では明日は支度をして、明後日から出発しよう」
翌朝、夜が明けた頃にアスカを起こす。
「アスカ、今日から父と朝は訓練をする。だから今日からは早起きだ」
「はい、お父様」
俺は父の形見の剣を、アスカはクリスにもらった木剣を持って庭に出た。俺は想像の敵を見据えての立ち合い、アスカには木の1点を狙って木剣で突く訓練をさせた。やはりアスカは手先が器用なようだ、しっかり1点をついている。思ったよりも早く2人で魔獣討伐ができるかもしれない。
訓練を終えて風呂に入り、リイサさんの店に朝食を食べに行く。
「キキさん、携帯食は作れるか?」
「ええ、お作りすることはできます。でもどうしたのです、旅にでも行くのですか?」
「明日からアスカとダンジョンに行く」
「……グリムさん、ダンジョンてあの魔獣のいるダンジョンですよね?」
「はい、そうですよ」
「子供と行くところではないと思いますが……」
「私もそう思う」
「ではどうしてですか?」
「アスカとはいつも2人でいることにしました。アスカがどうしても1人は嫌らしいので」
「……グリムさん、どうしても困ったときには相談してくださいね、ここで預かることも考えますから」
「キキさん、ありがとう。まずはやってみて、無理そうなら相談させてもらいます」
携帯食を夕食のときに持ち帰りたいと希望を伝え、店を後にした。すっかりおなじみの移動手段となったアスカを肩車して、冒険者向けの道具屋へ行った。
「店主、この子に着せられるような軽装はあるか?それと細剣もあれば助かる」
「お客さん、子供に戦いを教える庶民はいません。お貴族様向けの店ならあるかもしれません」
「そうか、またくる」
貴族向けの店となると、俺が通っていた店に行ってみるか。そして2人でまた移動を始める。そして店に入る。庶民側の扉から店に入るのは初めてだ。
「お久しぶりです。グリムです」
店員が驚いて出てきた。
「グリム様、どうされました?庶民向けのカウンタで」
「近衛兵団を退団しました。ですのでこれからはグリムと呼んでください。今日は娘向けの軽装とあれば細剣をお願いしたい」
「お子様向けはご貴族様からの注文作成になります。ただ、キャンセルや引き取った物が倉庫にあるかもしれません」
「ご迷惑でなければ、倉庫の中を探させていただいてもいいですか?明日から着せる必要がありまして」
「お客様をご案内する場所ではないのですが、グリムさんにはずいぶんとご贔屓にしていただいたので、今回は特別にご案内します」
「ありがとうございます」
こうして、倉庫に案内された。隅の一画に小さな防具や軽装が棚に置かれていた。名札がついていないものが販売可能な品らしい。思ったより多くの品がおかれていた。使われた形跡のあるものもあり、体に合わなくなったものを引き取っているのかもしれない。だいたいが男の子向けのようだが、中には女の子向けのものもあった。せっかくなので女の子向けの品から選ぼう。そうして探していると、明らかに見た目重視の軽装を見つける。水色の布をベースに白い金属のプレートが付けられている。アグリさんの水色のワンピースを思い出してしまった。
「アスカ、これを着てみるか?」
「うん、これ可愛い」
アスカに着せてみると、若干大きい。でも戦う訳でもないし、今回はこれでもいいか!幸いなことにこの軽装に合わせた白い金属の細剣も置かれていた。これはもう戦いの訓練ではなく、絵でも描かせるために着せる目的だな。
軽装と剣を持って店のカウンタに戻る。
「これを頼む」
「この品は……古くなったものを引き取ったものですね。何度か着用された後もありますから。今回は今までお世話になったお礼に、無料でお持ちください」
「いやいや、これほどの品を無料とは……」
「お気になさらずに。きっとお嬢さんもすぐに大きくなられて、これを着れる期間はあっという間に終わってしまうでしょう。その際はぜひ注文作成をお願いします」
「分かりました。次はからは注文させていただくので、今回はお言葉に甘えさせていただきます」
こうして可愛い軽装も手に入れ、そのまま夕飯へ行き携帯食も受け取った。準備は完了。いよいよ親子でダンジョン!




