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名もなき少女から始まった、魔法士の系譜  作者: みや本店
2章 世界最強の剣士編
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10話 グリス侯爵家への報告

 俺は王宮からまっすぐガルム伯爵家へ戻る。兄上は昼食を準備し、待っていてくれた。



「ただ今、戻りました」


「詳しい話しは食事をしながらだ。アスカも空腹のようだ」



 食堂へ行くと、きれいな服へ着替えさせられたアスカが座っていた。



「グリムはすぐにグリス侯爵家へ報告に行くのだろう?アスカにもそれなりの服装をさせんとな」


「兄上、ご配慮に感謝いたします」


「それで、国王陛下は何と?」


「はい、私の希望はすべてお聞き届けくださいました」


「そうなると庶民街に家を探す必要があるな。どうするつもりだ?」


「国王陛下に冒険者クランを作る許可をいただきました。冒険者ギルドに相談して決めたいと思います」


「うむ、確かに庶民街のことは誰かに相談せねば分からぬな」



 兄上とそんなやり取りをしていると、食事をしているアスカの姿が目に入る。驚くことにちゃんと食事をしている。



「アスカ、食事の仕方を教わったのか?」


「はい、お父様。マチスさんに教わりました。でもまだうまく食べられません」


「いやいや、それだけちゃんとしてれば、グリス侯爵家へ行っても恥ずかしくない」


「グリス侯爵家?」


「父がお世話になった偉いお方だ。食事の後はこれからアスカと一緒にご挨拶に行く」


「はい、お父様」


「どうだ、アスカ。兄上のお屋敷のご飯は今までで1番おいしいだろ?」


「はい、お父様。お肉もしょっぱくないし、黄色い丸いのもおいしい」


「黄色い丸い物……卵のことか。卵を食べるのは初めてか?」


「卵……うん、とってもかわいくておいしいです」



 すると兄上がアスカに話す。



「アスカ、そんなに気に入ったか!それならまた食べに来るといい」


「はい、伯爵様。また遊びにきたいです」




 食事を終えて、屋敷を出る準備をする。



「兄上、私の我がままをお聞き届けくださり感謝いたします。身の振り方が決まりましたら、またご報告にまります」


「体に気をつけ励め」



 兄上はそっと俺に剣を渡してくれる。その剣は父上の形見の剣だった。



「兄上、さすがにこの剣を私が使うわけには……」


「グリムはこれから戦闘の毎日だ。父上に守ってもらえ」


「はい、ありがたくお借りしていきます」


「伯爵様、お洋服ありがとうございました。また、卵を食べにきます」



 それには屋敷の皆が大笑いだった。こうして実家を後にし、グリス侯爵家へ向かった。




 グリス侯爵家では食堂に案内された。なぜ食堂なのか?しかし、食堂に入れば答えは明らかだった。グリス侯爵、奥方様、カイト様、キツカ様、フィーネ様、それに多くの使用人……皆がアグリさんの様子を聞きたいらしく、手の空いている人は自由に参加が許されていたようだ。俺は皆の前に立ち、アグリさんについての報告を始める。



「旅程の中で主だった出来事をご報告します。まず生まれ故郷のテリト領でテリト領主様とお会いし、大変な歓迎を受けました。すでに国王陛下と皇太子様から感謝状とご褒美が届いておりました。グリス侯爵様にもよろしくお伝えくださいとのことでした。その後、生まれ育ったホメト村へ向かいました。村人一同に歓迎されましたが、特にお育てになった神父様と兄弟のようにお付き合いされていたご夫婦との再会を大変喜んでおりました。静養所へ向かう途中の村が魔獣に襲われ壊滅する事件がありました。その村の唯一の生き残りだった男の子の赤ちゃんをお助けして、ご自分の子として育てることになりました。静養所では魔法を使っての生活で、母子共に快適にお過ごしでした。すでに近くの村の村民とも親しくしており、仕事を頼んだり頼まれたりしております。山のでの採取も、独自の魔法による移動と護身を身に着けられ、お子さんと2人でも問題はありません。そして、こちらはフィーネ様に、こちらはキツカ様にお渡しくださいとのことです」



 俺はフィーネさんには絵や手紙を渡す。フィーネさんの笑顔の絵や俺とグランと3人の姿の絵など何点か。フィーネさんは皆に見せて回っていた。


 一方のキツカ様には小さな布袋に入った、魔道具と思われる品を渡した。



「お子さんのグランのご両親は、お2人ともユニーク魔法士?とのことで、お持ちだった品の鑑定をキツカ様にお願いしたいと言われていました」



 キツカ様は中の品を見ると、物珍しそうに見ていた。



「確かに受け取った。鑑定した結果と魔道具は私からアグリに送っておく」


「よろしくお願いいたします」



 すると侯爵様がアスカのことを気にされた。



「ご紹介いたします。王都へ戻る途中、別の村が襲撃を受け壊滅しておりました。その村の生き残りがこちらにいるアスカです。私の養女として育てます」


「アスカです。よろしくお願いします」



 フィーネさんはいろいろ聞きたそうだったが、話しは後という雰囲気だった。



「私の方から皆さまにご報告があります。今回の任務をもって、近衛兵団を退団することとなりました。フィーネ様を危険にさらし、アグリ様のお体に傷を負わせてしまったことを、心よりお詫び申し上げます」



 俺が深々と頭を下げると、フィーネさんは聞かずにいられなくなったようで。



「グリム、あなたは私との約束を果たしてきたのですか!」


「はい、しっかりお伝えしました。しかし断られました。剣の道を究めることと、フィーネ様ならびにフィーネ様の王国を守ることを託されて戻ってまいりました」


「では、なぜ近衛兵団を辞めるなどと……」


「フィーネ様の護衛と将来の王国の守りは、クリスがいれば十分です。私は私兵団に属しダンジョンから王国を守りたいと考えております」



 その言葉に口をはさむものはいなかった……




 侯爵家をおいとまし玄関をでる。そこでフィーネさんに呼び止められた。



「アグリさんは幸せに暮らせそうですか?」


「はい、ご心配には及びません。それどころか、息子のグランを授かり、子育てに充実した毎日を過ごされていました。フィーネさんには連絡が着ているとは思いますが……」


「はい、毎日のようにメッセージをいただいてます。グリムさんの言われている通り、充実した幸せな毎日を送っているようです。今は王妃様用のハンカチ作りと、村の娘さんのウェディングドレス作りが忙しいそうです」


「はい、アグリさんは大丈夫です。そして、フィーネさんのことも私のことも、遠くからでも見守ってくれています」


「あの3人の絵は、まるで家族のようでしたね」


「はい、あの晩だけは3人家族のように過ごしました。あの夜があったから、アグリさんは留まれ、私は帰って来られたのでしょう。あの夜をいつまでも忘れません」



 アスカが1人でポツンと立っていることに気づいて、フィーネさんが歩み寄ってくれた。そしてアスカの頭を優しく撫でてくれた。



「アスカさん、今度はゆっくり遊びに来てくださいね。おいしいお菓子をたくさん用意して待っていますから」


「はい、フィーネ様。ありがとうございます」



 俺とアスカはフィーネさんにお礼を伝え、侯爵家を後にした……


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