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名もなき少女から始まった、魔法士の系譜  作者: みや本店
2章 世界最強の剣士編
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8話 帰還と決意

 湖を出て3日、王都が見えてきた。白い巨大な街に、アスカは驚きと少々の恐怖を感じているようだ。村を出て10日もせずに王都では仕方がないだろう。


 門へ着き入場の手続きをする。俺は王都民証があるが、アスカにはない。俺が保証人となり、期限付きの入場許可書を発行してもらう。ただ、この許可証では貴族街へは入ることができない。仕方がないので、近衛兵団の寄宿舎へ向かった。寄宿舎では俺が戻ってきたことと、幼女を連れていることで大騒ぎになった。


「グリム先輩、お疲れ様でした」



 幸いなことに駆け寄って声をかけてきたのがクリスだった。



「クリス、すまないが、何も聞かずにアスカを1時間預かってくれ!」



 俺はそれだけ言い残し、足早に貴族街に向かった。向かった先はガルム伯爵家、俺の実家だ。ガルム伯爵家の屋敷の前で、門番に兄上への取次ぎを頼む。幸い兄上がおり、屋敷に入って来いとの指示だった。俺は勝手知ったる我が家でもあり、自ら玄関を開け、屋敷に入った。兄上は玄関まで迎えに来てくれていた。



「兄上、ご無沙汰しており、申し訳ございません」


「グリム、聞きたいことは山のようにある。すべて話してもらうからな!」


「兄上、すべてお話ししますが、今は私の願いを聞いてください。ある女性、名前はアスカと言いますが、この者をガルム家の客人として許可証を発行してください」


「……仕方がない。お前がそれほど慌てているなら、まずはその手続きをしてやる。マチス、執務室に書類を準備してくれ!」



 兄上は理由も聞かず、書類を準備してくれた。これがあればアスカも貴族街へ連れてこれる。城へ登城している間は兄上に預かってもらおう。



「兄上、この後、1時間ほどでここへ戻って参ります。ご了承ください」


「分かった。とりあえず用事を済ませて戻って来い!」




 そして俺は足早に近衛兵団の寄宿舎に戻る。すると、クリスとアスカは木剣で打ち合いをしていた。



「クリス、お前は剣を振る以外、時間の潰しかたを知らないのか?」


「グリム先輩、それは失礼というもの。薪割もやります!」



 どうでもよくなって、アスカの木剣のことを聞いた。



「グリム先輩は、寄宿舎に残る伝説の木剣を知らなかったのですか?昔、誰かが、自分の娘のためにお金をかけて作らせた木の細剣です。奥さんに怒られて家に持って帰れず、寄宿舎に置かれていた剣です。ついにアスカさんがこの剣を手にして伝説は終了しました。もうアスカさんの剣です(笑)」


「とりあえずアスカにくれたのなら礼を言う。クリス、グリス侯爵家の皆さまに、アグリさんは無事に到着し、俺も王都に戻ったことを伝えてくれ。そして、国王陛下の報告を終えたら、すぐに報告に伺うとも伝えてくれ。では、俺はまた出かける」


「アスカ、出かけるぞ」


「はい、お父様」



 このアスカの返事に、寄宿舎内が大騒ぎになる。もう無視無視!




 兄上の許可証でアスカも無事に貴族街へ入り、ガルム伯爵家の屋敷へ。今度は門番もあっさり通してくれた。そして、俺は玄関に入る。



「兄上、お待たせさせてしまい、申し訳ありませんでした」



 するとマチスが出てきて、執務室に案内された。



「失礼します」



 俺とアスカが部屋に入る。兄上はアスカを見てビックリしていた。



「アスカとは……幼女であったか!」


「はい、兄上。王都への帰還の途中で出会った孤児です。両親と住んでいた村も全滅して、生き残りはアスカ1人でした」


「それで、アスカをどうするつもりだ」


「私の養女とします」


「グリム、結婚もせず養女の面倒など見れるわけがなかろう!」


「そのあたりのことも兄上に報告する必要があると思い、まず兄上のところへ参りました」


「……マチス、済まぬが今日の予定はすべてキャンセルしてくれ。それとアスカの面倒を誰かにみさせてくれ」



 しかしその言葉を聞いて、アスカは驚いて俺の後ろに隠れてしまった。



「アスカ、心配することはない。こちらの方は父の兄上様だ。ご挨拶なさい」


「アスカです。よろしくお願いします」


「ガルムだ、よろしくな。アスカがグリムの娘なら、ここはアスカにとっても実家だ。のんびりしなさい」



 するとちょうどドアがノックされて、若い侍女がアスカを連れに来た。



「アスカ、お姉さんにお風呂に入れてもらって、おやつをご馳走になりなさい。父もすぐに向かうから心配するな」


「はい、お父様」



 不安そうな顔はしていたが、アスカは素直に従ってくれた。




「兄上、包み隠さずすべてお話ししますが、2人だけにしてください」


「分かった、マチス、茶の支度だけして外に控えていてくれ」


「かしこまりました」



 そして兄上と2人になったところで、魔法学校の襲撃の真相とラズル侯爵の自害。アグリさんのグリス侯爵家での静養と国王陛下から静養所を賜り住み始めたこと。その護衛として今回の任務が命じられたことを話した。兄上も噂程度の知識しかなく、すべてを知って驚かれていた。



「兄上、ここからが兄上に許可をいただきたいお話しです。私は近衛兵団を退団します」


「何!り、理由をきかせよ」


「はい、私はアグリ殿をお守りできなかったからです」


「グリムはフィーネ様の護衛騎士だったのであろう?アグリは気の毒ではあるが、グリムの落ち度ではあるまい」


「フィーネ様をお守りしたのはアグリ殿で、私ではありません。これでは護衛騎士失格です」


「それはそうだが……」


「兄上、大変申し上げにくいのですが、私はアグリ殿を愛しておりました……」


「……グリムのことだから気の迷いということもあるまい。どうするのだ?アグリと一緒になるのか?」


「いいえ、求婚して断られました。剣の道を究め、フィーネ様と王国をお守りせよと言われました」


「近衛兵団を退団してどうやって生きていくのだ?アスカもいるというのに。そもそも近衛兵団を退団したら平民ではないか!」


「はい、兄上。私兵団に所属するつもりです。自ら冒険者クランを立ち上げ、ダンジョンの攻略にてフィーネ様をお支えしたいと考えております」


「意志は固いのだな。ダンジョン攻略とは言え、戦いにて王国のお役に立つのであれば、ガルム家としては異存はない。ただし、ただの冒険者で終わることは許さん。肝に銘じよ」


「はい、兄上。必ず一流の冒険者として王国に貢献します」



 兄上のお許しを得たことで、次は国王陛下のご許可をいただかなければ……


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