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9話 高等図書室司書

 中等部の1年生を毎日忙しく過ごしていた。


 さすがに高等部向けの授業内容は難しくなり、調合の授業も始まった。実技の授業も難しくなり、日々の予習復習は必須となった。クラスメイトも初等部生の頃の余裕はなくなり、クラス内の雰囲気も浮ついた感じはなくなっていた。クラスメイトとは実技や調合でのかかわりが増えたこともあり、学校内の出来事については気軽に話せる間柄にはなれていた。もちろん貴族としてのお話しはちんぷんかんぷんなままですが……


 フィーネさんと会う時間も減っていた。司書の仕事をしていることで夕方に花壇の面倒をみていないためだ。それでも授業の合間の休み時間のおしゃべりや、休日を花壇で過ごすこともあって、2人の関係は日を追うごとに親密になっていった。また、フィーネさんが放課後に花壇に寄り、水やりをして、観察日記を書いて下校してくれることもあった。お貴族様のご令嬢とも思えぬ身軽さです。




 そんな日常を過ごしながら、私が中等部1年生を終えようとする頃、私にとって問題が起こった。一般図書室の蔵書をあらかた読みつくしてしまったのだ。高等図書室の蔵書を読めばとなるのだが、高等図書室の蔵書は持ち出しができない。一般図書室で予習復習と絵を描き、夜に読書は実現できないのだ。中等部2年生の1年間に使用する程度の調合の材料費は蓄えてあり、高等部生に上がれば写本のアルバイトを請け負うこともできる。もう司書のお仕事は辞退しようと心に決めた。


 昼休みに教員室へ行き、マルタ先生に相談があると伝える。



「僕もアグリさんに相談があるんだ、このまま話しを進めても大丈夫かな?」


「はい」


「ではまず、アグリさんからどうぞ」


「先生、一般図書室の蔵書を読みつくしました。よって高等図書室の蔵書を読み始めたいと思っています。そうなると一般図書室の司書は続けることができません。私の方からお願いしたのに心苦しいですが、司書のお仕事は辞めさせてください」と私は頭を下げた。


「そういうことなら、私の方の相談も聞いてください。実はアグリさんには高等図書室の司書をお願いしたいと考えています」その話しを聞き私は考え込む。


「先生、ありがたいご提案ですが、いろいろ問題があります。第1に私では黒魔法の蔵書は扱えません。第2に白魔法の蔵書を司書机に持ってくることができないので読むことができません。やはり高等図書室の司書は学生では難しいです」


「なるほど……考えてもみなかったよ。校長と相談してみるので夕方に一般図書室に結果を伝えに行きます」


「はい、お待ちしております」




 夕方の一般図書室は閑散としていた。学年末試験も終えたことで本を見るのは嫌ってことかな?そんなことを考えながら植物図鑑の絵を参考に絵を描いていると、マルタ先生がやってきた。



「校長先生と相談しました。校長先生はアグリさんの司書の働きぶりを高く評価していて、信頼もしていました。それと勉強熱心な気持ちも大切にして欲しいとご配慮くださいました。その結果、司書の腕章を付けているアグリさんに限り、司書の先生と同じ権限を与えてくれるそうです。よって、黒魔法の蔵書の部屋にも出入りできますし、高等図書室内すべての蔵書を高等図書室内ならば自由に扱って良いとのことです。すなわちアグリさんは白魔法士の蔵書も黒魔法士の蔵書も読み放題ってことです!」


「先生、本当にありがたいお話しで感謝します。ただ、私にはどうしても理解できない疑問があります。貸し出し業務のない高等図書室で私は何の仕事をするのでしょう?」と首を傾げた。


「高等図書室の蔵書はとても貴重なものが多いです。よって写本のアルバイトも高等図書室の蔵書がほとんどです。失う損失を避けるためです。本の傷み具合を定期的に確認するのが第1の仕事。第2の仕事はこの魔法について何に書かれていますか?の問い合わせに答えることです。もちろん人ではこの内容がどの本のどこに書かれているかなど誰も答えられません。そこで業務を補助する魔道具があります。この魔道具はとても貴重で信頼のない人には扱わせることなどできません。ですが、アグリさんの司書活動を見てきて、校長先生も私も任せることができると確信しています。信頼できる人は大勢いても、本を愛する心をもっていなければ司書は務まらないので、アグリさんは適任なのですよ」


「分かりました。校長先生とマルタ先生の信頼を裏切らないよう、精いっぱい頑張りたいと思います!」



 大喜びする私。でも、1つだけ不安材料が残った。



「――ところでマルタ先生、私はいつから高等図書室の司書をすれば良いですか?一般図書室の司書は代わりの人がいるのですか?」


「実は新しい教師が着任してきています。その先生にお願いします。また、アグリさんの司書姿を見て私もやりたいと言ってきた高等部の生徒さんがいたのです。なので明日からは高等図書室の司書をお願いします」


「それを伺って安心しました。では本日は最後の一般図書室司書をしっかり務め、明日からは高等図書室へ向かいます」


「よろしくお願いします」



 それからしばらくして閉館時間となった。私は掃除道具を取り出して図書室内を隅々まで磨き上げた。お世話になった一般図書室に感謝の気持ちを込めて……

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