いたずら
私は、宝物を探す。
もう日課のようなものだ。
リユースとリサイクルを謳った店内には、うっすらと埃の積もったプラスチックのケースが並ぶ。深夜でなくても誰も引き出さないような人気のない棚には、無数の配線機器。
焼けたモータのグリスのにおいが鼻を衝く。
その中で私は、まだ使えそうなパーツを見つけた。
100v回路で使うリレー。おもちゃのような見た目のリレーを確かめるため、何度も目に近づけた私は、後ろから近づく人の存在に気が付かなかった。
わずかに見えた青色のエプロンから察するにこの店の店員だろう。胸元には、緑と黄色の若葉のようなワッペンを付けており、どうやら研修中らしい。
「それ、買うんですか」
男の店員は聞いた。
私は気の利いた答えを探して『買います』と言うことを決める。本当はもっと吟味しなくちゃだめだ。この箱の中の機器は45v電圧用と100v電圧用がごちゃ混ぜになっていて、全く信用できないのだ。それどころか、高い電流にも耐えられる高級品が無造作に、はした金で売られているのだった。そこから私はここの店員が無知であると判断する。
自分の家で使っている電圧が何ボルトかさえ知らない連中である。
そのくせ、くるくると巻き髪みたいにワックスで固定された茶髪が、文系なる恐怖の学校に通う男子であることを想像させた。
関わりたくない。まず、こういう連中は理系の懇切丁寧な話を聞かないばかりか、根も葉もない持論を展開した挙句、間違いを認めないのだ。『そういう考えもできるね』じゃないんだ。正しい答えをお前は出していない。
しかし悲しいかな、私は人としゃべるのが苦手だった。公的な文章では饒舌なのだが。
「か、買います」
どもった口調に、男の口元が一瞬ひきつる。
「こんなの買って、いったいどうするんですか」
なんだ。万引きでも疑っているのか。男は目を細めて私の手とリュックサックを見た。
「これはリレーといいます。ハード回路の形成に用いるもので、100v回路で使用します。悪いことには使いません」
「リレー?」
「電気が流れると、べ、別の回路を形成します」
「意味わかんないんだけど。キモ」
わかるわけがないだろう。こっちは分かっていて買おうとしているんだぞ。それを知らしめるために話しているというのに馬鹿が。
このリレーは、40年以上、巨大な工作機械を支えている偉大なパーツである。細かい操作がシーケンサとパソコンに置き換わっても、このハードパーツだけはなくならない。
なぜなら安いから。
この中古のリレーはわずか140円だった。
家に帰った私は真っ先に自分のトラックに向かう。緑色の分厚いホロのかけられたトラックの下には、テスト運転を行うために持ち出した友達がいた。
背中に背負う配電盤には無数のリレーが並び、通電を示す小さな赤い電球がチカチカと点滅している。リレー一つの重さはわずか数百グラム。透明の樹脂で作られたリレーは中が良く見え、小さなばね仕掛けが一生懸命に動くさまが見て取れた。
少し考えた。今自分が使用としているバカげた行動を本当に実行するのかと。
気が付いたらホロを汗だくで引きはがす自分がいた。
私は操作盤にとりつくと、腕を突き出すように指示を出した。
鍵が『入り』の状態まで回されていることを確認し、回転スイッチを左に回して『突き出し』の項目を選ぶ。
操作盤に並んだ左右二つの運転スイッチは確実に作動し、ウーンという大きな地鳴りのような音を奏でてサーボモータが可動した。
突き出された腕の先は、哀れぼろ屋のリサイクルショップである。
薄いトタンの外壁は、メリメリと音を立て、まるで濡れた紙みたいに硬いこぶしに引き裂かれた。
構造材料のI型鋼がむなしく魚の骨のように残っている。ただそれだけ。
砕けた外壁が、ふざけた商品の上に重なって白や黒色のシミを作った。
先ほど見た店員は腰を抜かして目は真ん丸。
多分タイトルの意味はほとんどの人が分からないと思います。わかったらすごいです。