女嫌い先生の恋愛ラブコメ研修生活
柊 仁です。
この作品を手に取って下さり誠にありがとうございます。
最後まで楽しんでいってっください!
「正直に言って今のあなたでは書籍化はおろか、大賞もとれません」
嘘だろ‥‥‥。
彼女の口から放たれたその言葉は俺に深い衝撃を与えた。
「なぜですか!?俺の作品のどこが悪いんですか?」
俺は食い気味で彼女に詰め寄った。
今回彼女に送った作品は今までで一番と言っていい程の出来だった。
それが書籍化はおろか大賞もとれないと言われては流石に反抗もしたくなる。
「先ほども言いましたが瀧くんはもっと今のニーズを知るべきです。いつまでも自分が書けるジャンルだけを書いていたら読者が求めるものに応えることができません。それに大賞によっては選考員も変わってきます。
今まではこのような作品で通っていたかもしれませんが選考員の好みも人によって違ってくるのです」
須藤は表情を変えずにそう答えた。
俺は彼女のあまりの真剣さに少しだけ気力が弱まった。
「そんなこと言ったって‥‥‥。なら俺はどうすればいいんですか?」
そう言うと須藤は待ってましたとばかりにふふんと鼻を鳴らして両手を腰に当てた。
そしていつもの無邪気なあざとい笑顔で答えた。
「ラブコメを書いてみませんか?いや、書いてください!」
‥‥‥は?ラブコメ?
俺は須藤の予想もしなかった発言に数秒固まった。
何言ってるんだ?この人。もっと事務的で真面目なこと言われるのかと思った。お前はもう諦めろとか言われなくて良かった。にしてもラブコメって‥‥‥。
「ラブコメって言われても、今まで書いたことないですよ。それに俺女嫌いなんで女心なんて分かりませんし」
そう。俺はラブコメを今まで書いたことが一度もない。
俺が女を嫌いなことは序盤にも言ったと思うが、女を避けるがあまり自分の作品は女キャラが出てこない異世界系やバトル系のものばかりなのである。
俺が女キャラなんて書いたら性格がこの世の終わりみたいに悪くて顔がモブ以下の最低の女が出来上がってしまう。女とほとんど関わったことの無い俺は己の偏見だけでしかキャラを作ることが出来ないのだ。
だから俺はラブコメを書かない。
「全く‥‥‥。瀧くんは相変わらずですね‥‥‥」
須藤は呆れてやれやれと顔を左右に振ると、続けて話し始めた。
「はっきり言って、ラブコメでないと読者の心は掴めないと思いますよ。今の若者は恋愛に飢えてますからね‥‥‥。本当に大賞をとりたいと思うのならラブコメを書いてください。でないと今の状態では次の大賞は難しいです」
あまりに真面目に話すもんだからそれが嘘ではないというのが感じられた。
え?今の時代ってそんなにラブコメが流行ってるの?数年でそんなに変わる?俺若者だけど恋愛なんかに飢えてないよ?彼女いないのに。
心の中でそんなみじめなことを思っていると須藤は更に続けた。
「瀧くんはまず女心を知る必要がありますね~。まずは学校で女の子に話しかけてみてはどうですか?瀧くんは性格こそあれだけど顔はまあまあだと思いますよ」
なにそれ全然褒められた気がしないんだけど‥‥‥。
俺は彼女の言葉に対してなるべく嫌そうな顔を作った。
「話しかけるって言っても女子の友達なんていませんし」
そういうと須藤は目をきゅるるんとさせ上目遣いで見つめてきた。
「いるじゃないですか。こ・こ・に☆」
「‥‥‥で、話しかける以外になんか無いですか?」
俺は彼女の二十七歳とは思えない程のあざとさにうろたえることなく答えた。
「ひどーい!瀧くん無視した~!」
この人が二十七だとは本当に思えない‥‥‥。年齢を知らずに今目の前でおよよと泣いている幼女の姿を見たら、多分俺はときめいていただろう。でもこれが二十七と知れば俺はときめいたりはしない。むしろ恐ろしさを感じる。一体どのように成長すればこのような幼女が出来上がるのだろうか。もし原因が遺伝子なら親の顔を見てみたい。違う意味で。
さすがに自分のあまりのあざとさに恥ずかしくなったのか須藤はこほんと軽く咳払いをすると気を取り直して話し始めた。
「そうですね‥‥‥それなら、これから私の言うミッションを日々の生活で達成してください。期限は十二月に行われる丸川ライトノベル大賞のエントリー受付一週間前です」
「‥‥‥ミッションって何ですか?」
いきなり話が進められて戸惑ったが俺は一度冷静になって聞いた。
すると須藤は自分の顔の前に三本指を立ててニコッとして答えた。
「瀧くんにこなしてもらうミッションは三つです。一つは女の子の友達を五人以上作ること。ラブコメでは女キャラは最低三人必要ですからね。二つ目は女の子の友達と遊ぶこと。恋愛物語にイベントは欠かせません!三つ目は‥‥‥」
ここまで言うと須藤は少し間を置いた。
そして再び口を開いた。
「彼女を作ることです」
‥‥‥は?今この人なんて言った?友達?遊ぶ?彼女?‥‥‥は?
俺は彼女の言葉に戸惑いを隠しきれず数秒固まった後、立ち上がった。
待て。落ち着け瀧。よーく考えろ。彼女というのはあの彼女のことか?一緒に登校したり手を繋いでお出かけしたり、とにかくキャッキャウフフが止まらないあの彼女のことか?
「いきなり話進めすぎですよ!何ですか?彼女?は?無理ですって!」
どぎまぎしながら抗議する俺を見て須藤は訴えるかのように小さな体で必死に身振り手振りをしてきた。
「それは瀧くんの女性に対しての偏見があるからです!だから瀧くんはいつまで経ってもド陰キャの女嫌い童貞野郎なんです!まずは女心を知ることから始めないと、ずっとこのままですよ!?それでいいんですか!」
うっ‥‥‥。
もはや躊躇もしない彼女のスーパーな毒舌に俺のハートは深い傷を負った。
どうせ俺はド陰キャの女嫌い童貞野郎ですよ‥‥‥。トホホ‥‥‥。
ライフがとっくにゼロになっている俺に須藤は背中にぽんと手を置き慰めるように優しく語りかけてきた。
「私は瀧くんが出来ると信じているから言っているのです。‥‥‥大賞、どうしてもとりたいんですよね?」
その声には途轍もない安心感と身に覚えのある温かさを感じた。
そのとき彼女のお母さんのような優しい言葉に俺はハッとした。
そうだ。俺にはどうしても大賞をとらなくてはならない理由がある。
あの日今は亡き父と誓ったことを実現させるために、俺は今ここにいる‥‥‥。
俺は腹を括り、崩れていた姿勢を立て直した。
「分かりました。そこまで言うのならやりましょう‥‥‥」
確かに俺は今まで女性を己の偏見でしか見ていなかったのかもしれない。いつからか俺は女という異性にこいつはこういう奴だと勝手なレッテルを貼り付けそれを自分の中で処理して、自分自身を正当化していた。
なんて最低な奴なんだろう俺は。
その瞬間ふと昔の記憶が甦ってきた。
_____森の中で楽しそうにはしゃいでいる二人の少年少女。
「大人になったら結婚しようね」
少女が少年に語りかける。
「うん!」
少年が元気良く頷く_____
「でも、期待しないで下さい。この三つは俺にとってハードルが高すぎるので。下手したら期限を過ぎるかもしれませんよ。てか一生できないかも。なんてったって俺はド陰キャの女嫌い童貞野郎なんで」
「まだ根に持ってたんですか!?‥‥‥大丈夫ですよ。瀧くんなら出来ます」
須藤の目は真っ直ぐ俺の目を見つめていた。彼女の瞳に反射して俺の貧相な顔が映っている。
この目は人のことを信じているときの目だ。
いつもはお調子者幼女の彼女が俺のためにここまで真剣に考えてくれている。
さすがの俺でも期待に応えるぐらいはしなきゃな。
するといきなり須藤がよぉ~~っし!と高らかに声を上げ、右手を突き上げた。
「そうと決まれば今日から実行です!ラブコメを書くためのミッション、名付けて恋愛ラブコメ研修生活の開始です!!」
こうして俺の恋愛ラブコメ研修生活が幕を開けたのだった。
最後まで読んで下さり誠にありがとうございました。
瀧の恋愛ラブコメ研修生活がようやく幕を開けました。
次の話を楽しみにしていただけると嬉しいです。





