始まりの始まり
柊 仁です。
この作品を手に取って下さり誠にありがとうございます。
初めに、この作品はフィクションであり、特に女性に対する主人公の言葉は単なる一個人としての意見です。
読者の皆様には一切関係はございませんのでどうか主人公である瀧のことを嫌いにならないでください(笑)
ご理解のほど、よろしくお願いいたします。
「女は非常に完成された悪魔である」
〜ヴィクトル・ユゴー〜
俺は女が嫌いだ。
女ほど悪魔という二文字が似合う生き物はなかなかいない。
古来から女は身分が男より低いものとして扱われてきたが、今ではすっかり反転状態である。
何か問題が起きた時に絶対的な権力を持つのは女だし、浦和のパルコや大宮のルミネを歩けば女が今流行りのタピオカミルクティーとやらを飲みながらウロチョロウロチョロしている。なんなら女性専用車両だってある。
国会では女性議員が男女平等だのなんだの謳っているがこちらからしてみればとっくに女性の方が有利になっているとつくづく思う。
家庭内で絶対的権力を持つのは間違いなく母親だし、学校でも常に集団で暮らすのカースト上位に君臨し自分達が生きやすい環境を見事に作り上げている。
集団を作られてしまってはこちらも為す術はない。
弱者たちが身を寄せ合い強者に生まれ変わり、弱いものを寄ってたかって貶しにかかる。それが女という悪魔の憎き生態である。
俺みたいな身分の低い陰キャはこのように教室の隅っこで本を読むしかないのだ。女、怖い‥‥‥。
ちらっと窓の方を見やるとグラウンドで陸上部が朝練をしていた。
この寒い時季によくやるよな‥‥‥。
春を迎えたばかりの埼玉は三寒四温の気温差が激しい。夏かと思う日もあれば冬かと思う日もある。今日はちょうど冬の日だった。
俺が通っているここ北陵高校は電車で通うと五十分は掛かる。なので一つでも電車に乗り遅れでもしたら大変なことになってしまう。
朝、寒いなか妹にたたき起こされ急いで学校に来た俺だが、乗り遅れることなくいつもの時間の電車に乗り、遅刻せずに着くことができた。
やればできるじゃん!俺!
そんな訳で自分の座席で毎度お馴染みリーディングライフを続けていると、ズボンの右ポケットに入っているスマホがバイブ音をたてた。
見ると『須藤 紀美子 メール一件』と表示されていた。
また呼び出しか‥‥‥。
**
長い長い七時間の授業を終え、リュックを手に持ち席を立とうとすると横からじゃれつくような声で話しかけられた。
「タッキー。この後暇?よかったら家に来てゲームでもしない?」
無邪気な笑顔で俺に話しかけたこいつはクラスメイトの入間 翔。こいつとは中学からの付き合いで古くからのゲーム仲間でもある。
ちなみにタッキーというのは俺のあだ名。そういえば俺の自己紹介してなかったな‥‥‥。ごめんね‥‥‥。みんなこいつ誰だよって思ってたよね‥‥‥。
俺の名前は早乙女 瀧。好きなものはラノベとゲーム。嫌いなものはセロリと女……ってみんな知ってるか。
「悪いな。今日は行かなきゃいけない所があるんだ」
「なんだよ。またあの須藤って女の所?」
「まぁそんなところだ」
ちぇ~っとつまんなさそうに去っていく入間の背中を見送ると俺は教室を出た。
いつもより早歩きで校門をくぐり学校の最寄りの駅にたどり着くと、埼京線に乗り家とは反対方向に向かった。
車両のドアのすぐ傍に立ち窓の外を眺めると、橙黄色に輝く夕陽が東京と埼玉の境界を隔てている荒川をきらきらと照らしていている。
水面に映る光の一つ一つが強い輝きを放ち、まるで夜空に輝く星のように俺を魅了した。
夕陽に目を奪われていると美しかった景色は次第に見えなくなり代わりに隙間なくそびえ立つビル群が俺の視線を覆いかぶさってきた。
「間もなく~新宿。新宿です」
聞き慣れた声のアナウンスが流れると、俺は電車を降り西口の改札に向かって歩き出した。
ここに来るのは何回目だろうか。
少し前までは地図が必要なほどこの東京という異世界に迷い、頭が真っ白になるほど同じ場所をグルグル回り続けた自分がいたが、今はもう何ともない。なんなら埼玉にはないお洒落なカフェの場所だって知ってる。これはもう俺は都会人と言っても過言ではない。なんか俺、カッコイイ‥‥‥。
西口を出て十分歩いたところに目的地はあった。
両隣に隣接している建物よりとびぬけて高い建物。大手出版会社サンシャイン文庫のオフィスビルである。
自動ドアから入り、エントランスにあるエレベーターにスムーズに乗ると俺の目線の高さについている七階のボタンを押す。そこに今日会わなければならない人物、いや、天敵がいる。
ポケットに入っているスマホを手に取り見ると、時刻は十八時になっていた。
「ちょっと早かったか‥‥‥」
チーンと高い音をたてエレベーターが開くと目の前に大人と言っていいのか分からない、スーツ姿の幼女が頬をリスのように膨らませ、腕を組みながら待ち構えていた。
そう。パッと見見た目完璧な幼女のこの女こそ俺の数多い天敵の中の一人、今回会わなければならない人物である須藤 紀美子だ。
先に言っておくが俺はこの人が嫌いだ。
「瀧くん!遅いですよ!今何時だと思ってるのですか!?」
ぷんすかぷんすか怒りながら話す須藤に俺は物憂そうな顔で手に持っているスマホを須藤に見せた。
「何時ってまだ十八時になったばかりですけど……」
すると須藤は額に怒りマークを浮かべて
「十八時な訳ないでしょ~!もう十九時半ですよ!その時計一時間半ずれてます!」とオフィスの壁に掛かっている時計を指さしながら俺に詰め寄ってきた。
どんだけずれてるんだよ俺の時計‥‥‥。朝もそのせいで寝坊したんだっけ。もしかして俺そういう系のスタンド使い?マンダム宿っちゃってる?まぁリンゴォ・ロードアゲインは六秒だけなんだけどね‥‥‥。
「待たせてすいませんでした」
素直に謝る俺を見ると須藤はプイッとそっぽを向いた。
「ほんとに待ったんですからね!‥‥‥まぁ時計がずれていたのなら仕方ないですね今日のところは許してあげましょう‥‥‥それより“あれ”持ってきてくれましたか?」
「はいはい持ってきましたよ‥‥‥」
そう言うと俺はリュックから「十万石饅頭」と書かれたパッケージに包まれている箱を取り出そうと中を探る。
須藤の好物が饅頭と知ってから俺は毎回ここに来るときには地元の和菓子店「十万石」の饅頭を持ってくるようにしている。「十万石」は埼玉県民ならだれもが知っている超有名店である。
ここの饅頭を食べればきっと誰もがうまい。うますぎる。というだろう。
もちろん須藤もその一人でこれを初めて持ってきたときはほっぺたを落っことしながらダイソンのような吸引力で饅頭を貪り食っていた。「十万石」の饅頭を与えると大変機嫌がよくなるためそれ以来俺は機嫌取りの意味を込めてこの饅頭を持ってきているようにしているのだ。でもこの人饅頭が切れると‥‥‥。
まぁ今考えるのはよそう‥‥‥。
ひょっとして待ってたのは俺じゃなくて饅頭なんじゃないの‥‥‥?そんなことを思いながら俺は「十万石饅頭」と書かれた箱を取り出した。
すると今までそっぽを向いていた須藤が急にこちらに向き直り厳格に保っていた表情がとろーんと溶けるように笑顔になると、きらきらした眼差しでほんと!?と嬉しそうに反応してきた。俺から箱を受け取りはしゃぐその姿はまさに幼女そのものだった。全く‥‥‥この人今年で二十七だぞ‥‥‥。
須藤はパッケージを無造作に破り捨て中身を中から取り出すと、顔に似合わず大きな口を開けその場で饅頭を食べようとしだした。
すかさず俺は須藤から饅頭を取り上げ本来すべき話を切り出した。
「もう饅頭はいいですよ。今日は話があって俺を呼んだんですよね‥‥‥。食べるならテーブルにしてそこで話しましょうよ」
はーい。と聞き分けよく返事をした須藤は「十万石」の箱を大事そうに抱えながらテーブルのある個室へ
とてとて走っていった。
はあっ‥‥‥とため息をつくと俺も彼女に倣い個室へと向かった。
個室の中は大きなテーブル一つと角に観葉植物が置かれているだけでとてもシンプルな作りになっている。
きっとこの方がスタッフ側も仕事に集中できて打ち合わせがしやすいのだろう。
当のスタッフはといえば目の前で饅頭を頬にパンパンに詰めて幸せそうにぱくついている。
この光景を見るとなんだかリスに餌付けしてるみたいだ‥‥‥。
「で、話ってなんなんですか?まさか饅頭が食べたかっただけじゃないでしょう?」
このままでは埒が明かなったので話を切り出すと、須藤は飲み込もうとしてのどに詰まった饅頭を胸をドンドンと叩きながら必死に胃に流し込もうとしている。
ようやく飲み込んだと思うと、須藤はガクッと下にうつむいた。
するとさっきまで幸せそうに饅頭を食べていたときの笑顔はすっかり消え、代わりに般若のような鋭い目つきでこちらを思いっきり睨め上げてきた。
そして空の饅頭の箱を床に打ちつけると急にキャラが変わったように話しだした。
「当り前じゃ!!なんだあのちんけな作品はよ!?あれじゃ大賞はとれねーって何べんも言ってるじゃねーか!!
これだから最近のガキはよく分からないジャンルの作品を書いてくるんだ。もっとニーズってもん知れよ!!」
急な怒声と急なキャラ変に戸惑う俺だったが過去にこういったことは何度かあったので最初ほど驚かずに済んだ。でもやっぱり怖い‥‥‥。女、嫌い‥‥‥。
ここまでで察した人もいると思うが俺は小説を書いている。書き始めたのは中学一年生からでこの四年で俺は数々の大賞を受賞した。書籍化だって何度かしたし、今も次の作品の書籍化に向けて絶賛奮闘中である。
俺の編集担当である須藤には毎月新しい作品を送っている。
俺が新しい作品を送るたびに彼女はなにかと文句をつけてくる。
これが俺が彼女を嫌いな一つの理由だ。
今日はその作品のダメ出しか‥‥‥。
また須藤の頭がガクッとなったかと思うと今度はしっかりさっきの無邪気な幼女の笑顔に戻っていた。
良かった‥‥‥。殺されるかと思った。危うく幼女〇記になるとこだった‥‥‥。
ほっと安心して反論が出来る確証がもてると、俺は嫌そうな顔をしてせめてもの反論をした。
「ニーズって言っても今どんなジャンルが流行ってるのか知りませんよ。俺が書けるのも異世界系がバトル系くらいだし‥‥‥」
俺の反論を聞いた須藤は子供をなだめるお母さんのようにうんうんと頷くと少しの間を置き、真面目な顔で口を開いた。
「瀧くん。今日はこの際はっきりと言わなければいけないことがあるからあなたを呼んだのです」
なに?急に。怖いよ‥‥‥何言われるんだよ‥‥‥。
てかこの人人格いくつあるの?怖いよ?急なキャラ変とかもうやめてね?
と心の中で茶化していると再び須藤が口を開いた。
彼女の顔つきを見るにどうやら本当に真面目な話らしい。
そしてこれから彼女から放たれる言葉に俺は深く衝撃を受けるのだった‥‥‥。
最後まで読んでいただき誠にありがとうございました。
「女嫌い先生の恋愛ラブコメ研修生活」第一章をお楽しみいただけたでしょうか。
まだまだ第一章は続いていきます。
これからどんどんストーリーが面白くなっていくと思いますので楽しみにしていただけたら嬉しいです。
評価、レビューなどいつでもお待ちしております。





