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俺は冴えない(没ver)  作者: 田舎乃 爺
第二章 ドタバタ親子道中
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28 色々と衝撃的なお出迎え

「フィレさんか。前来た時にはいなかったような気がするんだけど?」


「はい。4ヵ月前に城の方の仕事に入り、今こうしてここまで実力でのし上がったばかりです」


「おお、結構ぶっちゃけるんだな」


「強大な力を持つサク様に隠し事をしてもすぐにばれてしまうと思ったので、ここで吐き出しておきました。不快にさせてしまいましたか?」


「いいや、そうしてくれた方が気楽だし、信用できるからいいかも。よろしく、フィレ」


「よろしくお願いします。では参りましょう。女王がお待ちです」



 作った笑顔でも爽やかだと思えるのだから、相当なやり手なのだろう。はきはきとしたイケメン、フィレの後に続いてサクたちは悪天候の中を進み、チップ城へと向かっていった。

 もしかしなくても以前ニーアに扮したレーナの愚痴で登場した糞真面目胸糞イケメンとは彼のことか。雨降る道中における背中から滲み出る活力から考えて、間違いはないはずだ。

 テンガと同じように冴えない自分とは正反対ともいえるやる気に満ちた存在。そのルックスと真面目な性格からしてさぞかしモテるに違いない。実際自分が女性だったら惹かれてしまっていた可能性もある。

 そんなフィンの後に付いていくサクは、ふとあることに気づく。気づいたというか、そう見えたと言えばいいか分からない、何とも言えない奇妙な感覚。その渦中にいるフィレに迷うことなく問いかけてみた。



「なあフィレ。まだ俺に隠してることない?」


「……流石サク様。黙っているのは無理なようですね。では、お耳を拝借します」



 観念したかのような表情のフィレは進行速度を落とし、後ろからついてくるハクたちに聞こえぬように耳打ちしてきた。



「例の件以外で今日、女王であるレーナ様があなたに婚約を誓うことになっているのです」


「……ちなみにどこで?」


「最初にお会いする謁見の間にて。集まった重鎮たちに有無を言わせないためにも勢いを重視したいからだとおっしゃっておりました」


「レーナらしいやり方だとこと。ニーアは反対しなかったのか?」


「押し切られました。私も同様に」


「……お疲れさん。教えてくれてありがとな」


「いえ。当然のことをしたまでです。これ以上は奥様方に怪しまれるので、前に戻りますね」


「おう」



 違う。レーナの件も重要な隠し事だが、知りたかった答えはそういったことではない。フィレ自信が内側に隠しているであろう本質的なことを知りたかった。何故断言できるかと自分を不思議に思ったが、そうとしか考えることができなかった。

 今まで感じたり、見えなかったものを把握できてしまう自分に戸惑うサク。この期に及んでまだ覚醒していなかった力が表に出てきたのか、はたまた悪い風でも引いたのか、なんでもいいからどうしてこうなったかを誰かに教えてほしくてたまらない。

 悶々としながらも歩んでいけばチップ城へと到着してしまった。重厚な扉が遠隔操作によってゆっくりと開き、快適な温度と湿度が保たれている城内へとサクたちは入っていく。



「広ーい!」


「待ってコウ。先にレインコート脱がなくちゃ」


「分かった!」



 広大な内部を走りたくてうずうずしながらもハクの手を借りてレインコートを脱いでいくコウ。サクたちもそれぞれが脱ぎ、自らの収納方陣へとしまっていった。

 城というか以前いた世界での都会の役所のようにも思える造り。初めての来客者用のご案内カウンターがあったりと、親切心を注ぐことにも抜かりがない。休憩用のベンチの所にはこの街のマスコットキャラクターの絵が飾られていたが、残念ながら名前が思い出せなかった。

 広くて落ち着いた内部だが、人気は全くない。叫べば声が良く響きそうなそこを自由になったコウが楽し気に走り回り始める。ちらりとフィレを見たが止めなくても良さそうなのでそのまま思う存分楽しませてあげることにした。

 笑いながらはしゃぐコウを微笑ましく思い見守っていると、一階に到着したエレベーターから何人かのスーツ姿の男女が現れる。ボディガード的な彼らは一糸乱れぬ歩みでサクたちに近づいていくと、周囲の害意から守るための鉄壁の布陣を形成した。

 息ぴったりな彼らにサクたちが関心と驚きの声を上げる中、フィレが改めて一礼してから話しかけてくる。



「奥様方は別室にて待機していただき、サク様には謁見の間にて女王と面会していただきます。よろしいでしょうか?」


「俺はそれで構わないよ。ハクたちはどうだ?」


「大丈夫だよ」


「問題ないです~」


「まあ、仕方がないわよね」


「問題なさそうだな。それじゃあ――」


「パパどっか行くの?」



 返答の最中にこちらの異変を感じ取ったコウが駆け寄ってくる。律儀にもコウに付き従う2人のボディガードさんは動き回るコウの後にいそいそと付いてくれていた。

 その姿は熱心そのものだが、感情を表に出さない表情とそれに似合わぬ微笑ましくも忙しそうな光景が重なって面白かったサク。失礼だとは分かっているので必死に笑いをこらえ、屈んでコウに語り掛けた。



「ちょっと偉い人に会ってくる。静かに待ってるんだぞ」


「すぐに戻ってくる?」


「ああ。いい子にしてるんだぞ」


「分かった。いい子にしてる。早く戻ってきてね」



 少し寂しそうな顔をするコウの頭を撫で、フィレの誘導に従ってエレベーターに乗り込む。その扉が開いている間、コウはこちらに向けて手を振り続けていた。

 そんなことをされるとこっちも寂しくなってしまう。ほんの一時の別れを噛みしめながら手を振り返していると、ゆっくりと扉は閉まっていった。

 2人を乗せたエレベーターは上昇を始める。ハクたちとコウのことを考えながらも、サクはフィレから絶対に目を離さないようにしていた。隠し事による晴れることのない疑心がそうするべきだと警告しているように思えたからだ。

 隣のサクの視線に気づいたフィレは先ほどと変わらない営業スマイルを浮かべてきた。この状況ではその笑顔もサクにとっては怪しい以外の何物でもない。

 居づらくてしょうがなく思っていれば、エレベーターは目的の階へと到着した。開いた扉の先にはかなり広い一本道の廊下が続いており、突き当たりには入り口と同じぐらいに重厚な扉があった。

 初めて来たときもここに通されたから覚えている。その扉の向こうが謁見の間だ。豪勢な装飾が施された神秘的な場所であり、自分にとっては苦手と言えるところだった。

 


「それでは参りましょう、サク様。女王がお待ちです」


「分かった」



 フィレへの警戒を継続したまま扉へと向かう。ここまで来たが、フィレが実際に何かしらの行動に移る気配は全くない。疑い続けるのもどうかと思えてきたが、心は油断するなと訴えていた。

 自分に不安を覚えながら進んでいれば、たどり着く前に扉は開き始めた。煌びやかな向こう側に若干目がくらんでしまうが、止まることなく向かっていく。

 たどり着いた謁見の間の中心にて待つようにとフィレに促され、その場に止まった。少し高いところに設置された空間に官僚たちが座し、こちらを威厳たっぷりといった目で見下ろす。厳格な空気が漂う謁見の間の奥には、これまた派手な椅子に座るレーナの姿があった。

 サクを残して奥へと向かったフィレはレーナの横に神妙な顔つきで立っているニーアの横に立つ。準備が整ったことを目くばせで伝えると、それを受けたニーアが大きく頷いた。

 やっぱり並んでみると瓜二つだな。そんな素朴な感想を心の内で述べた時、レーナが椅子から勢いよく立ち上がってそのままサクの方へと近づいきた。まさかこの場でいつものような大胆なことをしでかそうというのか。

 焦るサクは身構えるのだったが、何か様子がおかしいことに気づく。近づいてくるレーナの表情が本気の怒りに満ちているように感じたのだ。

 まさかコウのことが伝わり、それにご乱心か。それともそれは演技であって、目の前に来た時にダイナミックハグをしてくるのか。様々な予想が脳裏をよぎりつつもレーナはどんどん近づいてきており、怖気づいたサクはだらしなく目をつぶってしまった。

 ここにきて久方ぶりに発動したヘタレスキルを恨むサクだったが、こうなってはどうしようもない。全てを受け止める覚悟を決め、凄まじい緊張に耐えながら『その時』を待った。



「……!?」



 覚悟を決めた直後に『その時』はやってきた。サクはかなり強めの一撃が右頬に繰り出され、大理石の床に受け身も撮れずに転げ落ちてしまう。

 躊躇いなく放たれたそれに驚きながらサクは前に向き直る。そこには抑えきれない怒りに身を震わせ、尋常ではない量の怨念が込められた目で睨み付けてくるレーナが立っていた。

 お怒りとか生易しいレベルのものではない。殺意すら感じられるレーナは、震える声で言い放つ。



「よくものうのうと……。私の大切な人を奪ったくせに!!」


「大切な……? ちょっと待ってくれレーナ。何が何だかあぁっ!?」


「しゃべるな!!」



 強烈な蹴りが胸に叩き付けられ、いつの間にか閉じられた扉の前まで弾き飛ばされてしまう。呼吸が困難になるほどの燃えるような痛みに苦しみながらも、何とか意識を繋ぎとめる。

 強烈パンチをくらってから身体強化の魔法や吸血鬼化などを展開しようと試みたが、何故かできない。これまでになかったことに混乱するサクに怒りの化身となったレーナはゆっくりと近づいてきていた。

 何か原因があるはずだと探り始め、すぐに思い当たった人物へと視線を映したサク。その予想を裏切ることなく、サクの目には先ほどまでに見続けていた営業スマイルを浮かべ続ける存在がいた。



(お疲れ様です、現守護騎士)



 頭の中に響いてきたのは、フィレの声。勝ち誇ったようなそれに反発したサクだったが、胸倉を掴まれて引き寄せられ、嫌でもレーナの顔が視界を埋め尽くしてしまった。

 


「許さない。絶対に。絶対に……!!」


「……?」



 目と鼻の先で向かい合ったことで、特殊な能力を持つはずのレーナの瞳が靄のような何かでくすんでいるのが確認できた。しかしながら操られているのは分かっても、今のサクにはどうすることもできない。

 土下座しても許してはくれない。無理矢理レーナを突破したとしても、官僚たちからの魔法による一斉攻撃が飛んでくる。力が使えない今、一体どうすれば打開することができるのか。いや、ない。

 追いつめられているのにも関わらず糞みたいな反語表現を脳内で展開してしまうサクの視界に、振り上げられたレーナの手のひらが映った。また強烈なのが来ることを想定し、しっかりと歯を食いしばって目をつぶった。

 どうせなら次の一撃で気絶してほしい。そう願うサク。すると、



「せええええぇぇぇぇぇぇぇいいいぃ、やああああぁぁぁぁぁ!!!!」



 勇ましい声が轟いたのと同時に、床の中央と言えるところが下から盛大に突き破られた。多くの破片と塵が飛び散り、発生した異変に謁見の間全体がざわめく。

 視界不良となったところで危機感を抱いたレーナは一旦サクを放し、突き破った主を確認するために目を凝らす。サクも酸素を肺に取り込みがら中央を見ていると、巻き起こった熱風が塵を晴らしていった。

 そこにいた存在を見た瞬間、初めて彼がいてよかったと感動しているサクがいた。そこにいたのは……



「明確な悪意を持つ何者かによって閉じ込められていましたがぁ!! このカイア・デ・ソコぉぉ! 抜け出してまいりましたぁぁ!! ここに不届き者がいるはず!! さああぁぁぁぁ、かかってこおおぉぉぉぃい!!」



 無駄ともいえるほどにやかましい声。たくましすぎる肉体。特徴的な頭髪。鋭い眼光。そして何と言ってもとても大きいアソコをお持ちの救世主。

 銀色の輝きを放つカイアは、謁見の間にいる全員に対して目を光らせ続けていた。

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