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俺は冴えない(没ver)  作者: 田舎乃 爺
第一章 冴えてる三日間
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08 小さな恋人

「よし、準備完了」



 森から帰ってきたサクはシャワーを浴びた後、ブレームからもらった服を着て、靴を履く。そして、楽しそうにハクが服の中に入った。深夜の街散策の準備は完了だ。

 会議をしているアイリスからは外出許可はもらった。隣の部屋にいるカーラはもう寝てしまったようなのでそのままにしておくことにし、サクは部屋の鍵を閉めて意気揚々と階段を下りて行った。

 フロントにいる寝ぼけた女性従業員に鍵を預けて、サクとハクは深夜の散策へと向かった。



「やっぱり。いい雰囲気だ」



 静まり返った商店街。戸締りも完璧に行われている。日中の活気がまるで感じられない。いくつかの街灯が薄っすらと道を照らしていた。

 普段見ている場所の裏側の姿を見るのがサクの趣味の1つだった。元の世界においても、度々深夜になってから家を抜け出して周辺を散策していた。たまにお巡りさんに見つかって補導されかけたりもしたが、持ち前の土地勘をフルに活用して毎回逃げ延びていた。

 静かな雰囲気。少しひんやりとした空気。日中とは全く違う様子を見るのが、サクにとっては楽しくてしょうがなかった。

 その満足そうな表情を見て何かを思いついたハクは。素早く服の中から出るとサクの真横に降りた。そして、その体をワンピース姿の幼い少女へと変化させる。



「私も一緒に歩く!」


「おう。じゃあ、手を繋ぐか」


「うん!」



 差し出された小さくて温かい手をサクは握った。しっかりと離さないように握り返してくるその手は、とても可愛らしかった。

 深夜の商店街の中を幼い少女と冴えない顔の男性が手を繋いで歩く。職質待ったなしの状況だが、異世界であれあ問題はない。思う存分、サクは楽しんでいた。

 それなりに長かった商店街が終わり、サクとハクは昼間に行った住宅街とは反対方向へと進んでいった。しばらく歩いていくと、中央に噴水が設けられている広めの公園にたどり着いた。

 公園内の掃除は徹底的に行われており、ごみ1つ落ちていない。設置されているベンチや遊具も綺麗に磨かれており、街灯の僅かな光を反射している。

 サクの家の付近にも公園はあったが、残念ながらここまで綺麗に清掃はされていない。雨風によって錆びた鉄棒やブランコ、野良猫のウンコスポットと化した砂場などを思い出し、サクはため息をついた。

 公園内をハクと一緒に歩いて回り、一通り見たところでベンチに腰かけた。隣に座ったハクが地に付いていない足を楽しそうに揺らしていた。可愛い。

 ふと見上げたそこには、サクの田舎町のものと同じかそれ以上に綺麗な星空が広がっていた。ハクもその空を瞳を輝かせながら見ていた。



「綺麗だな」


「うん! 綺麗!」



 サクの一言に続くハク。しかし、その一言は星空に対してだけでなく、隣にいるハクも含まれていたのだが、本人はそれに全く気が付いていないようだった。

 星空を眺めながら、サクはこれまでのことを思い返してみた。そして1つの結論に至る。



(夢じゃねえよな……、これ)



 この1日で本当に色々なことがあった。サクの普段の日常では絶対に味わうことのできないことを間違いなくこの体で経験した。

 冷たかったり、温かかったり、痛かったり、興奮したり、戦ったり。そのどれもが目を閉じれば鮮明に蘇る。そう、夢なんかじゃない。これは現実。實本冴久は異世界にいる。

 何故突然ここに来てしまったのか、母さんと父さんはどうしているか、高校の単位はどうなるか、箪笥の中に隠している秘宝とPCの秘蔵のフォルダのことが気になるサク。今になって多くの不安要素が脳裏をよぎった。

 帰れる保証はどこにもない。お金と服などは手に入れたが、これから先一体どうなるのか。冴えない暗い顔をさらに曇らせていると、それに気づいたハクが抱き着いてきた。



「大丈夫。サクには私がいるよ」


「……おう。ありがとな」



 勇気づけてくれたハクの頭を優しくなでる。お先真っ暗ではない。ハクがいてくれれば、何があっても大丈夫なような気がしてきた。

 お互いの体温を感じながらも、今になって思い出した疑問をハクに投げかけた。



「そういえば、ハクはどうやって人間の姿になれるようになったんだ?」


「私も分かんなかったけど、ゲイリーは人間の一部を取り入れたからとか言ってたよ」


「人間の一部? そりゃまた物騒な……。いや、待てよ」



 人間の一部。言葉では間違いなく物騒だが、その中に排出物も含まれるのであれば、サクには心当たりがあった。



「……『汗』か」


「サクのしょっぱかったやつだね!」



 河原を歩いていた時に服の中でハクはサクの汗を舐めていた。それが原因だろう。

 サクの一部を取り入れ、人間の姿となったハク。もしかしたら、その姿はサクが思い描く理想の姿なのかもしれない。実際、巨乳美女と同等クラスに美しく、可愛いと思っている。こんな妹か、娘ができればいいなと、心の底から考えていた。

 この世界に自身を飛ばした誰かを恨む気持ちもあったが、ハクと出会わせてくれたことに対する感謝の念も抱いた。これほどのことができるのならば、自室に残した秘宝と秘蔵フォルダをどうにかしてほしいと願うが、変化はみられない。

 ハクと一緒に充実した時を過ごしたが、ようやく睡魔が襲ってきた。ベンチに座ったまま背を伸ばす。

 そろそろホテルに戻ろうと伝えようとしたが、それを遮るようにハクが瞳を輝かせながら迫ってきた。



「サク! 私のこと好き?」


「おおん? えっと、好きだよ」



 唐突な問いかけにサクは動揺しながらも答えた。

 間違いなく、ハクのことは好きだ。家族的な意味で。



「じゃあ、チューしよ!」


「あら、また可愛い表現だな。誰かに教えてもらったのか?」


「カーラに教えてもらった! 好きな人とはチューするんだよね!」


「そうか。じゃあまずは――」


「サク、大好き!」



 とりあえず目をつぶってもらおうとしたサクだったが、それよりも早くハクは飛びかかった。唇を重ねる。それも、1回だけでなく、何度も何度も。

 雰囲気とかは一切関係なし。お構いなしのハクの行為をサクは嫌がることなく受け入れた。娘が出来たらこんな感じなのだろうかと考えつつも、嬉しそうなハクに応える。

 性的興奮は一切なかったが、終盤になるにつれてコツを掴んだのか、唇を重ね合わせる時間が長くなっているように感じられた。

 深夜の公園のベンチの上で、幼い少女に押し倒されて唇を奪われ続ける冴えない顔の男性。何とも言えない絵面だった。

 満足したハクが、頬を染めながら離れた。初めて見る恥ずかしそうなその姿は、それはそれは可愛いものだった。



「えへへ。これでサクと私は恋人だね」


「あ、そういうことも教えてもらったのね」


「うん。私はサクが大好き。サクも私が好き。これって恋人だよね?」


「そうだな。これからもよろしくな」


「うん!」



 満面の笑みを浮かべるハク。その頭を優しく撫でた後、サクはベンチから立ち上がった。



「んじゃ、そろそろホテルに帰るか」


「分かった!」



 元気な返事をしたハクに、サクは手を差し出した。それを握り、2人は楽しそうにホテルへと戻っていった。

 商店街のすぐ近くのホテルに到着すると、楽しそうなハクの姿を見た女性従業員は笑顔になるが、その繋いだ手の先にいるサクを見て表情をこわばらせる。

 いや、さっきも見ただろうに。と、サクは心の中で突っ込みをいれつつもカギを受け取り、自室へと戻っていった。

 会議はまだ終わっていないらしく、複数の人の声が聞こえてくる。よっぽど重要な話なのだろう。

 部屋に戻り、電灯は消したまま靴を脱ぎ捨ててベッドに飛び込んだ。自室で使っている布団とは段違の弾力とフワフワを堪能していると、サクの横にハクが寝転がった。



「サクと一緒に寝ていい?」


「いいけど、狭くなっちゃうぞ? ベッドはもう1つあるけど」


「大丈夫! サクと一緒に寝たい!」


「OK。落ちないように気を付けろよー」


「うん!」



 満面の笑みのハク。ああ、癒される。小竜の姿も可愛いが、幼い少女姿も抜群に可愛い。

 先ほど恋人だとか話を合わせてしまったが、サクはそういった目線でハクを見る気はなかった。どちらかというか、親として大切に育ててあげたいという思いが強い。

 そんなことをサクは考えつつ、その小さくて可愛らしい存在の体温を感じながら眠りについた。






     ※






「……あれ」



 目が覚めた。しかし、ベッドの上ではない。目の前には横断歩道。寝間着姿で、片手には『月刊巨乳エクスタシー』と夜食の入ったビニール袋。

 歩行者用の信号は赤のままだった。両ポケットにはスマホと財布が入っているのを確認し、周囲を見渡す。

 いつもの田舎町。深夜帯なので人通りは全くない。車が通り過ぎる気配もなし。



「……ハク?」



 一緒に寝ていた幼い少女の名をつぶやく。しかしながら、それに嬉しそうに答える声は聞こえてこない。

 訳が分からない。何がどうなっているのか。混乱するサクだったが、異様な気配に気づいた。

 道路の向かい側に、白いローブを纏った老人がいた。サクに負けず劣らずの暗い顔の存在が。サクを指さしている。

 不気味な存在に驚くサク。よく見れば、老人はその口を動かしている。聞こえはしないが、それが危険なものだと理解できた。

 歩行者用の信号が青へと変わった。老人を問いただすために急いで横断歩道を渡ろうとするサク。



「あ」



 サクが横断歩道を渡りきるより先に、凄まじいスピードで車が突っ込んできた。避けることもできず、車体に激突した。

 痛みとかはなかった。ただ、視界が真っ暗になる。何がどうなっているのか分からないまま、意識が遠のいていく。

 無邪気なハク、フワフワしたカーラ、気の強いアイリス、それを支えるゲイリー、気さくな商人ズ。異世界で出会った人たちの顔が頭の中に浮かぶ。

 いかん、これは俗にいう走馬燈といったやつだ。これで死ぬのはいやだ、できれば巨乳美女のおっぱいを揉みながら死にたいと懇願するサク。



(すまんのう。儂ができるのはここまでじゃ)



 老人の声だった。耳から聞こえてる感じではない。心の中に響いてる感じ。



(あっちで儂の娘のことを頼んだぞ)


(ちょっと待って爺さん)


(え? しゃべれるの?)


(しゃべれるよ)



 こちらの返答に老人が驚いた。予想外の事態に動揺しているのが分かる。

 しかしながら、意識を繋ぎとめていられるのも限界なサク。手短に、かつ最も聞いておきたいことを問いかける。



(その『あっち』って巨乳の美女はいる?)


(そりゃもちろん。儂もたまに婆さんに内緒でムフフなことをしてもらっとるよ)


(なら安心だわ)



 そのしょうもない質問と答えを聞いて、サクはよく分からない中で意識を失った。






     ※






「――」



 黄土色の天井だ。ホテルのベッドの上で、サクは目を覚ました。

 よく思い出せないが、とてつもなく変な夢を見た気がする。巨乳好きの老人と話したようなそうでもないような。

 寝ぼけたまま上半身を起こした。ぼやけた視界で隣を見ると、そこにハクの姿はなかった。もう起きたのかと周囲を見渡そうとしたところで、勢いよく開けられたカーテンから清々しい朝日の光が部屋に入ってくる。

 それに目がくらんだサク。よく見れば、サクよりもほんの少し小さいぐらいの少女がカーテンのところに立っている。アイリスかと思ったサクは、視界をはっきりさせるために何度もまばたきした。

 しかしながら違った。ほどよい大きさの胸がある。パッと見はFカップぐらい。そして、その髪の毛の色は綺麗な銀色だった。着ているのは、白いワンピース。

 そんなまさかと思い、目を擦った後にもう一度少女を見る。だが、その姿は変わることはない。少女が満面の笑みを浮かべながら、サクの方を向いた。



「おはよ! サク!」


「お、おはよったうわぁ!?」



 ハクはサクに飛びかかってきた。その姿は、サクと同年代くらいに急成長していた。

 昨晩の大きさなら受け止めることができたが、その重量に耐えられずに起こした上半身をベッドへと倒してしまう。

 押し付けられる成長したハクの胸に、サクは鼓動の高まりが抑えられない。カーラに抱きしめられていた時よりも動揺していることに自分でも気が付く。

 それに気づいたのか、ハクは少し照れながらも美しく成長した顔をサクへと向けた。静かに目をつぶると、サクと唇を重ねた。

 公園の時とは違い、サクは顔を真っ赤にしていた。その様子を見たハクは微笑んだ。



「おはようのチューだね」


「あ、ああ……」



 これまでに見たどの女性よりも可愛く、そして美しいハクの姿に、サクは股間を甘硬くさせるとともに見惚れていた。

 一晩にして、家族的な意味で愛していた少女は、サクの好みど真ん中ドストライクな存在になっていた。


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