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俺は冴えない(没ver)  作者: 田舎乃 爺
第二部 第一章 ゆるふわな五日間
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19 お忍び王様

 そういって歩み寄った2人は握手を交わす。冴えない存在と輝かしい存在。表と裏とも思えるほどの違いは、何も知らぬ人から見れば異様ともいえる光景を生み出していた。

 いつもの目立つ王の服ではなく、庶民的であり素朴な感じの服装。鮮やかな緑髪には手をつけていないが、伊達眼鏡をかけているためにいつもと少し印象が違う。このパッと見であればすれ違っても王だと気づくのは難しいだろう。

 今は隠しているが、三十路を過ぎてからさらに風格が増した。一度は操られたがその後の活躍はめざましく、現在では国民支持率歴代トップの座についている。出来る人が頑張った結果を体現したような存在だ。もちろん、サクはそういった存在ではない。

 というか近づいて分かったのだが、すごくいい香りがする。恐らく男性用の香水の類なのだろうが、これまでに嗅いだことのない爽快感溢れる香りだ。やはりできる男はこういった面でも違うとでもいうのか。だが、イヤサであれば納得できてしまう自分がいた。

 笑顔のままで手を離した両者。サクはそのまま話しかけようとしたが、すべきはこれでないと察して口を閉じた。そして宝石店のご主人のところへと行けるように壁際に寄って道を開けてあげた。

 それに対してありがとうと言った感じで微笑みかけてきたイヤサは老紳士の下へ向かう。こちらに対して向けられた背は堂々とした気を放っているように感じられた。これが滲み出る王の気質なのだろうか。

 


「先ほど言った通り、5周年記念の物を取りに来た。用意してもらえるかな?」


「かしこまりました。物が物ゆえ、慎重に取り扱わねばならないために少々お待ちいただきますが、よろしいですか?」


「問題ない。急かす気はないし、話し相手もいるからゆっくりと進めてくれ」


「はい。それでは、失礼いたします」



 深々と一礼したご主人は裏の方へと消えていく。それほどにまで重要なものだとすれば、相当の価値を持った物なのは間違いない。一体どんな物なのだろうか気になる。

 興味津々といった様子のサクにイヤサは振り向いて近づいてきた。見知った存在だから隠す必要がなくなった王の風格と周囲のショーケースの中にある宝石類の輝きが重なってとてつもない輝きを放っているように見える。

 ここまで神々しいと敬いたくなってきてしまう。罵っていただけるとなお嬉しいかもしれない。イヤサの輝きを受けてМっ気全開になったサクがそんな気持ち悪いことを考えていると、柔らかな口調で問いかけてきた。



「まさかここで会うとは。もしや結婚指輪に関してかな?」


「おお、ご名答。やっぱ分かっちゃうもんなのか」


「時期的に考えてそろそろだと思ったからだよ。渡す相手は……、ハクか」


「連続正解。ちなみに理由は?」


「すでに2人分の結婚の証を持っているからだな。王の観察眼を舐めてもらっては困る」


「流石国民支持率歴代トップ。良い観察眼もってるね~」


「褒められるのは嫌いじゃない。もっと褒めてくれていいぞ」


「よっ、男前! 愛妻家! 文武両道!」



 輝かしいどや顔をし続けるイヤサに思い浮かぶ限りの誉め言葉を投げかけるサク。プライベートな時では大体いつもこんな感じの軽いノリで接しており、イヤサにとって心を休ませることのできる大切な一時となっているらしい。

 そんな2人のやり取りをすぐ近くでゲイリーは見守りながらも、サクたちに悟られぬようにしながら店内だけでなく外にも神経を張り巡らせていた。国の最重要人物がいるとなれば、当然ともいえる措置だった。

 1分ほど続いた誉め言葉も在庫が尽き、王様敬いタイムは静かに幕を閉じた。割と長く続いたことにお互いに笑ってしまう。



「この前は20秒ほどしか続かなかったのに、随分伸びたな」


「俺も何だかんだで進歩してるってことよ。イヤサほどじゃないけど」


「謙遜するなサク。お前はもう十分に強い。羨ましく思えるほどにな」


「いやはや国王からそんなお言葉を頂戴できるとは。このサク、感極まって涙が出そうかなと思ったけどやっぱ出ないわすまねぇ」


「逆に泣かれたらそれはそれで困る。ふう、久しぶりのこの感じが嬉しくてたまらないよ」


「こんなんでよければいつでも。忙しいのはまだ終わりそうにないのか?」


「ああ。つい先日サクが退治した魔族の問題もあるが、急激に数を増やしつつある魔物の対応に追われていてな」


「魔物か……」


「調査の結果、現在の発生率は1年前と比べて10倍にも膨れ上げっている。それも全世界でだ。邪悪な存在以上の脅威と認識して各国の力を合わせた国際対策組織の設立が考えられているが、まだまだ議論を重ねている最中だよ」


「ほえー……。すっごく大変そう」


「奴らを放っておけば、犠牲になるのは国民だからな。この案件に関しては一切手を抜くことができないんだ。最善の道へと行けるよう、努力するよ」



 腕を組みながら力強い眼差しをイヤサは向けてくる。その瞳の奥に燃え滾る熱い思いは、サクにしっかりと伝わっていた。

 そうともなれば自分にやれることはやらなければならない。これほどにまで人を思うイヤサの熱意を無下にすることなんて、絶対にできないと思えた。

 そう考えたところで今日手に入れた地図のことを思い出したサクは、すぐにそれを取りだしてイヤサに手渡した。手の中にあるそれをイヤサは不思議そうに見つめている。



「それ、この世界で立ち入ることのできない場所を示した地図なんだ。書き記したのは『我ら一番』のバンドゥーモだよ」


「あいつか。ともなると信憑性は高いかもしれないな……」


「もしかしたらこれが魔物大量発生に関係しているかもしれない。イヤサ経由で叔母さんに渡してくれないかな?」


「分かった。ようやく取れた休みだから、終盤に渡すことにするよ。すぐに渡すとこれにかかりっきりになってしまいそうだからな」


「……失礼ながら、そうなる未来がすぐに予想出来てしまいました。カノン様であれば、たとえイヤサ様であってもそうするでしょうな」



 もしそうなった場合のカノンをすぐに思い浮かべることができたゲイリーが大きくため息をつく。他の2人も同様で、何とも言えないといった感じの苦笑いをしている。

 事実、カノンは結婚1周年を祝うパーティを研究のためにすっぽかすという前科を持っている。彼女を確実に止めるためには、些細な発見や成果を知らせずにいるしか方法がないのだ。

 問題を起こすこともあるが、決して別れようとすることはない。ここぞというときには強い絆を見せつけるイヤサとカノンに対し、国民からの支持は上々といったところである。



「本来ならパーティを開くことも考えたが、何分忙しくてな。今年はプレゼントを手渡すことにしたんだ」


「ほお。だから今日はここにきたのか。一体どんな――」


「お待たせしました」



 問いかけようとしたところでちょうど老紳士が裏から戻ってきた。その手には、拳ほどの大きさのごつごつとした白銀の鉱石がある。金属のようにも思えるそれは、周囲に向けて微量の魔力を放出し続けていた。

 勉強会にて知ったはずだが思い出せない。つい先ほどまでそれを加工した物を目の前で見ていたはずなのに。サクがその場でうなり続けていると、老紳士はイヤサの目の前までやってきた。



「こちらが『ギルガメス』の原石となります。長時間放出される魔力に触れていると、異常が発生することがあります。可能な限り早く加工し、魔力を完全に内部に封じ込めてくださいね」


「ありがとう。これで妻も喜んでくれるよ」


「お力になることができ、光栄でございます」



 加工前の原石を貰って喜ぶ妻。まずいないであろう存在だが、叔母さんともなれば納得がいく。たぶん実験か何かの材料として使うのだろう。

 普段使えない物より、すぐに使えうことができる優れものを好むのが叔母さんだ。こういった宝石などでお金が飛ばない分、研究で消えていくのに違いない。

 今回のプレゼントに選ばれた『ギルガメス』の原石は取り扱いが難しいために国から指定されたお店でしか取り扱うことができない。両手の指で数えられるほどしかないそれらの内の1つがこの宝石店なのだ。

 確認を終えたイヤサはそれを自らの収納方陣へとしまう。こういった形のプレゼントもありなのだと理解しつつ、サクは老紳士が下がったところで聞きたかったことを問いかけてみる。



「なあ、イヤサ。その、結婚を申し込むとき、どんな覚悟が必要かな」


「覚悟か……。確かにそれも必要だが、それ以上に相手を思う気持ちが重要だ。自らの愛を真っ直ぐに向けるんだ」


「真っ直ぐに……」


「特に今回申し込むのはハクなのだろう? だとしたら、下手にかしこまらない方がいいと私は思う。いつも通りでありながら、しっかりと愛を伝えるんだ」


「……分かった。ありがとうな、イヤサ」


「どういたしまして。頑張るんだぞ、絶対に上手くいくはずだ。それじゃ、私はもう行くよ」


「おう。叔母さんとゆっくり楽しんでー」


「ああ」



 老紳士にも再度礼を告げ、イヤサは輝かしい笑みを浮かべたまま去って行く。その後ろ姿はとても活き活きとしている。一国の王であっても、愛している存在とのひと時が待ち遠しいのがそこから察することができた。

 先回りして出入り口の扉を開けた老紳士。最後のすれ違いざまでも両者が温かい笑みを浮かべ続けている様子から、強い信頼関係が垣間見える。扉が閉められた時には、店内にはほどよい静けさが戻るのだった。

 お忍び王様のお陰で心配事はなくなった、はず。後はもう自分で頑張るしかない。気張っていかねば。



「ハク様がいてもたってもいられなくなる可能性がありますので、私たちも参りましょうか」


「そうだな。お世話になりました」


「はい。頑張ってください、サク様。私もこの店から応援していますので」



 相手を大切に思う気持ちが込められたそれを聞くと、少しだけ勇気が湧いてきたような気がした。指輪を作り上げてくれた老紳士のためにも、必ず大成功させて見せる。

 そう意気込みながらサクはゲイリーと一緒に店の出入り口へと向かえば、同じように老紳士は扉を開けてくれた。そしてイヤサにも向けた温かな笑みで送り出してくれた。



「いってらっしゃいませ」


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