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俺は冴えない(没ver)  作者: 田舎乃 爺
第二部 第一章 ゆるふわな五日間
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04 抱きしめて抱きしめられて

 一家で作り上げた美味しい夕食を堪能し、楽しい時間はあっという間に過ぎ去っていってしまった。前よりも1日がもっと長ければいいのにと思えるようになったのも、この世界に来てからかもしれない。

 全員で後片付けをし、最後にそれぞれの明日の予定を確認しあう。アイリスはいつも通りゲイリーとともに騎士団の仕事へ。カーラは屋敷の使用人たちの手伝い。サクとハクは午前中は屋敷に招いた教師との勉強会に勤しみ、午後は別行動の予定だ。

 5日後の旅立ちに関して特別な用意も必要がないので、準備は前日で間に合う。特例申請書も受け取っているため、アイリスも休みを取得して一緒に来れるはず。ママがいるだけでも凄まじく心強い。

 手紙を書く前にサクが洗っておいた浴場には使用人がちょうどいいタイミングで湯を張ってくれていた。しかしながら先に入りたいという欲が全員にないがために、ジャンケンで順番を決めることにした。

 結果はサクが一番。ちなみにハクが幼少女状態の場合は一緒に入るのが恒例となっている。毎回シャンプーを駆使し、髪の毛で何かを作り出すのも定番だ。

 後続のために手早く寝巻の準備を整えてハクと一緒に浴場に向かう。手を繋いでいるハクが浮かべる無邪気な笑顔を見ると、何の変哲もない入浴がとても楽しいものと思えてくる。



「い~い、湯ーだなー」


「それは入ってからの歌じゃないか?」


「そうだね~」



 サクが湯船につかっているときに口ずさむ例の歌をハクは気づけば覚えていた。そりゃ何度も一緒に入って聞いているのだから、耳に残ったのだろう。

 たどり着いた脱衣所で衣服を脱いでいると、それよりも早く裸になったハクが我慢できずに浴場へと行ってしまう。まだかまだかといった感じで鏡の前にある風呂椅子に座ってサクのことを待っていた。

 何年も繰り返しているはずなのに何度もその場面を見ると可愛いと思ってしまう。実際ものすごく可愛い。この思いが親ばかのそれに近いということもちゃんと自覚しているが、抑えられそうにないし、抑えたいとも思えなかった。

 日本と海外のお風呂事情が融合したような浴場に裸になったサクも自身とハクの分のタオルを手に入っていった。もう一つの椅子をハクの後方に持ってきて、そこに腰かける。



「ほい、洗い始めるぞー」


「は~い」



 シャワーで全体を濡らしてあげた後、やってきたお待ちかねのシャンプータイム。ワクワクした様子のハクの綺麗な銀色の髪の毛に手に取ったシャンプーを泡立ててつけていく。ちなみに香りはアイリス用の心地よい花の香りがするもの。

 全体に行きわたった泡で丁寧に頭を洗ってあげる。ちなみにマッサージ的なものは前の世界においてサクが通っていた商店街の床屋のおっちゃんの手を真似てみている。毎回ハクも気持ちよさそうにしているので、効果は抜群のようだ。 

 マッサージが終わってからここからが本番。すでに今日形成するイメージは頭の中で出来上がっていたので、素早く髪の毛を固めていく。泡も結構しっかりしているので形成しやすい。

 鏡の前に立っていたハクの瞳の輝きが増していく。みるみるうちに出来上がったそれを見て、嬉しそうに声を上げた。



「魔女の帽子!」


「正解ー。どうですかな、お客様」


「満足満足~! いい仕事~」



 ハクの頭に形成されたのは銀色の輝きが眩しい魔女のとんがり帽子。地味に完成度の高いそこから、無駄なところにこだわるサクの思いがにじみ出ている。

 この前面に顔のようなものを作り上げれば、某魔法学校の組み分け帽子になる。しかし、これ以上力を入れればハクの体が冷えてしまうのでそれは脳内会議で却下された。

 


「それじゃ、流すぞー」


「もうちょっと! もうちょっと!」


「はいはい。じゃああと5秒な」


「いち、にー、さん」



 ここで駄々をこねずに従ってくれる。本当にいい子である。流石我が子。そんな思いを抱きながらサクはシャワーを持ちながら笑顔でハクを見守っていた。



「よん、ご!」


「はい、目と口閉じてー」


「ん!」



 これまた可愛らしくつむってくれたそれを見て心を和ませながらも、丁寧に泡を流していく。全てを洗い落とした次は体。背中以外はハク自身で洗ってくれるので、自分の分のタオルでボディーソープを泡立てていく。

 楽しかったシャンプータイムの喜びがまだ消えていないようで、終始ハクは笑顔だった。愛らしいそれを鏡越しに見ていれば体は洗い終わり、ハクが手に取ったシャワーで全身の泡を流し始める。



「不意打ちシャワー!」


「ふぼぅあっぷ」



 全てを流した後、向けられたシャワーからのお湯攻撃をまともにくらってしまうサク。目に直撃したり口に入ってしまったことで変な声を上げてしまう。

 それが面白かったのか、ハクは楽しそうに笑いながら湯船の方へと向かっていく。怒る気になれず、逆に喜んでいる自分を感じながらその後ろ姿を微笑みながら見送った。

 可愛いは正義であり、可愛いのはハクだ。本当に幸せであることを痛感しながら、サクは自分の体をぱぱっと洗っていく。

 鏡の前の存在がいつも通りの冴えないことを確認した後、湯船の方へと向かう。大人が足を伸ばしても10人は入れるであろう大きな浴槽。その中で先に入っていたハクが楽しそうに泳いでいた。犬かきで。

 出会った当初の小さい竜の姿だったハクを思い出し、少しにやけながらも湯船の中へとつかる。レーナとソコ兄弟が来たこと以外特に忙しくもないいつも通りの1日だったが、どんな日であっても最後の風呂は気持ちいい。



「い~い湯だなー」


「はははん!」


「いーい湯だーなー」


「はははん」



 ちゃんと合いの手を入れてくれるからこちらも心地よく歌える。最高の入浴はその歌を全て歌い終えるまで続くのだった。

 泳いでいたハクは気づいた時にはサクの膝の上に座り、楽しそうに首を振っていた。髪の毛からするシャンプーのいい香りとその愛らしい姿を見れば、どんな疲れも吹き飛んでしまうだろう。



「よし、そろそろ上がるか」


「うん!」


「走ると危ないから、ゆっくりなー」


「は~い」



 明るく返事をしたハクと一緒に湯船から上がり、脱衣所へと体を拭きながら歩いていく。浴場よりも涼しいそこに到達した後は、湯冷めしないようにバスタオルで丁寧に水気を拭っていった。

 自分と同じ大きさぐらいのバスタオルを頑張って使うハク。心の中で応援すると繋がりを通してそれが伝わったようで、一層頑張りながら体をふき始めた。

 大切な娘を見守る優しい瞳を向けながらも、一足早く着替え終わったサクは備え付けのドライヤーで髪を乾かし始めた。ぼさぼさのこの髪を乾かさずに寝ると、朝にとんでもないことになってしまうからだ。

 乾かし終わったぐらいでハクの着替えも終わり、その綺麗な髪の毛を乾かしてあげた。美しいその髪は、日を重ねるごとに反射による輝きが増しているように思える。吸収した光が間違いなく増幅されているのは目に見えて明らかだが、一体どういった構造なのだろうか。

 そんなことを考えていれば水気は無くなった。洗濯する物を専用のかごの中に投げ入れ、手を繋ぎながら脱衣所を後にした。

 ちなみにハクが着ているのはいつものワンピースと同じ真っ白な色が特徴的な可愛らしいパジャマ。魔法で作られたこれは、状態変化によって大きさも変化する優れものである。製作者は叔母さんだ。

 廊下で通り過ぎる使用人に就寝の挨拶をしながら進んでいく。可愛らしいハクに誰もが頬を緩ませていた。この屋敷において、幼少女状態のハクは皆のアイドル的存在になっている。

 日替わりで誰と一緒に寝るかが決まっており、今日はこのままハクと一緒に寝ることになっている。自室のの前に到着すると、先にハクが部屋の中へと入って行ってしまった。

 その勢いのままベッドへと思いっきりダイブした姿に笑っていると、廊下の先でアイリスとカーラが手を振っているのが見えた。それに手を振り返し、サクは扉を閉めてハクが待つベッドへと向かっていった。



「ハクーって、もう眠そうだな」


「……うん。サクの臭いで安心しちゃって」


「そっか。んじゃ、おいで」


「ん」



 今にも眠ってしまいそうなハクの横に寝たサクは、毛布をかぶるとその腕の中にハクを抱き寄せた。胸の中で、ハクは満足したかのような満面の笑みを浮かべている。

 今日もお疲れ様、俺。無理することなく、明日もいつも通り行こう。体調を崩したら大切な存在たちを心配させてしまうから。

 いつも通り、心の中で自らに語り掛ける。これもずっと続けていることであり、寝る前の気持ちを整理する大切な儀式となっていた。

 


「おやすみ、ハク」


「おやす……、サ――」



 全てを言い終える前に眠りについてしまったハク。風呂上がりの温かい体は湯たんぽのような心地よさを与えてくれている。これならすぐにこちらも眠れそうだ。

 そういしてゆっくりと瞳を閉じたサク。また明日も良い日になることを願っていると、ハクの可愛らしい寝息を聞きながらゆっくりと意識は遠のいていくのだった。






     ※※






「――んん」



 柔らかくて温かい。そんな中でサクは目を覚ました。圧倒的に心地いい。

 ここは理想郷か。いや、理想郷を超えた桃源郷か。そこは、サクが愛してやまない大きなおっぱいの中だった。



「おはよ、サク」


「……おはよう、ハク」



 上方から聞こえてきた優しい声にまだぼやけている視線を上げると、そこには美女状態となったハクの女神のような微笑み。抱きしめた側が、起きたら抱きしめられる側に変わっていた。

 最高である。それしか言いようがない。幸せとはこういうことであり、いつまでも満喫したい。ああ、最高だ。



「……ハク、もう少しこうしててくれるか?」


「うん。時間になったらおはようのチューで起こしてあげるね」



 女神です。まごうことなき。そんなことを思いながら、最高の柔らかさと温かさの中で優雅な二度寝をサクは楽しむのだった。


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