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俺は冴えない(没ver)  作者: 田舎乃 爺
第一章 冴えてる三日間
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04 苦手なタイプ

 その声の方向を見る。どこかの国かは不明だが、青が特徴的な騎士的な服を身に纏う男性がいた。仁王立ちで立っていいるその様子に、ガイナ立ちかな? と思いつつも、サクは目を凝らして全体像をちゃんと確認してみた。

 綺麗な青い髪の毛。整った顔に高身長。自信に満ち溢れるその雰囲気。サクはその見た目だけで理解した。この男性は自分とは正反対の存在であり、苦手なタイプであると。

 休み時間になって特に何もせずに机に突っ伏して昼寝するサクとは違い、ああいうのは終始仲の良い友人たちと戯れたり彼女とどこかで楽しそうに話すようなタイプだ。そうに違いない。

 可能な限り接したくないと願うサクだったが、廃屋の入り口に立つ男性は一歩踏み出した。



「服に隠すだけでバレないとでも思ったのか? この私、『テンガ・クロムウェル』にはお見通しだ! その悪しき竜をこちらに渡せ!」


「嘘だろすげえ名前だな」



 追及の最中に語られた名前にサクは仰天する。まさかかの有名な神器の名前がそのままつけられているとはたまげた。この世界では知れ渡っていないだろうからいいが、サクのいた世界では絶対にいじられること間違いなしの名前だ。

 そのサクの表情を見て、テンガは鼻で笑った。完全にこちらを見下すその態度に服の中にいるハクが苛立った。



「私に恐れをなしたか守護騎士よ。それもそうだろう。私は完璧だからな!」


「あ、そうっすか」



 全く恥ずかしがる様子のないテンガ。もうここまでくると尊敬すらしてしまうほどの態度だ。

 しかしながらハクを渡せとか物騒なこと言ってるから、早く逃げた方がいいかもしれない。自信があるということはそれ相応の実力を持っているはずだ。

 カーラの手を握り、唯一の逃げ道である裏口をサクがちらりと見た。



「逃がさん!」



 テンガのその一言の後、どこからともなく発生した突風が大きな円を形成し、サクたちとテンガの周囲を包み込んだ。

 これはマジでやばいかもしれない。サクはハクを取り出すと、カーラに手渡した。

 川で少女の燃える球を消すことができたのと同じ要領で、魔法的なものであればなんとかできるはず。もしかしたらハクには影響が出てしまうことを考えてカーラに渡した。

 エルフの美女と小竜を守るようにその前に立つ。勇ましくも見えるが、サクの体は震えていた。



「人体強化魔法、かけておきました~。いざとなったら私も戦いますので~」


(サク! 私も戦えるよ!)


「……面目ない。そん時は頼むわ」



 守るべき存在たちから逆に支えられていることに、サクは申し訳なくなった。

 さて、どうくるのか。身構えるサクだったが、テンガの視線がサクではなくカーラに向いていることに気が付いた。



「う、美しい……」


「あら~、ありがとうございます~」



 どうやらカーラに見惚れてしまったようだ。まるで女神を見ているようなその輝く瞳にサクは少し吹き出してしまった。騎士様といえどもやはり男なのだ。

 我に返ったテンガは自らの両頬を叩いて気合を入れ直すと、腰につけていた剣を引き抜いてサクへと切っ先を向けた。



「貴様ぁ! 竜を所持するだけでなく、美女までその毒牙にかけるとは! 絶対に許さん!」


「あー、もう、反論しても無駄っぽいな。面倒くさいはあんた」


「問答無用! くらえ、ウィンドウ!」


「OSの名称かな?」



 適当なサクの突っ込みの後、テンガの前方に形成された無数の風の刃が襲い掛かってくる。それに対し、サクは避けることなく真正面から受け止める。



「何ぃ!?」



 風の刃は全てサクの体に当たると同時に消えてなくなった。予想通り、魔法的な物は効かないことを確認したサクは、一歩踏み出した。

 半開きの目を頑張って開け、8割開きぐらいの目でテンガを煽る。



「ほろほらどうした完璧な騎士様。俺はまだぴんぴんしてるぞー」


「舐めるな!」



 その安い挑発に乗り、今度は風の刃と同時に鋭くとがった氷の矢を飛ばしてくる。しかし、そのどれもが再び体に当たると消え去ってしまう。

 サクの中に、燃える球と同様に漠然とした風の刃と氷の矢のイメージが浮かび上がる。それが飛んでいくであろう先に、テンガを見据える。

 


「そのまま返してやるよ。受け取ってくれ騎士様」


「んなっ!? き、貴様ぁ!」



 先ほどまでの自らの攻撃が絶え間なく飛んでくることに、テンガは驚きつつもそれを咄嗟に展開した紫色の結界でそれらを防ぐ。

 展開したその結界に、サクは見覚えがあった。ハクを苦しめていた罠を包んでいたのと同じ色だ。ということはあの罠はテンガが仕掛けたものだとサクは分かった。

 そんなにまでして竜が嫌いなのか。何か理由があるのだろうが、今はそれを聞き出す余裕はない。

 ひたすら続く攻撃にテンガは苦しみ、苛立っている。このまま行けば押し切れると考えたサクは、ついでに燃える球も形成して投げてみた。



「そーら、こいつもくらえーい」


「そんな物、避ける必要も――」



 結界に当たった燃える球が弾けると、凄まじい勢いの炎の渦が形成されてテンガを包み込んだ。

 渦の勢いは収まることなく、巨大な火柱となって廃屋の天井を貫き、天高くまで登っていく。その炎は廃屋に燃え移ることはなく、中心いるであろうテンガのみを焼き尽くす。

 圧倒的すぎるその光景に、サクたちは唖然とするしかなかった。まだ収まらない炎の渦に、サクは苦笑いする。



「あの美少女、全力で俺殺す気だったんだな……」



 燃える球を消すことができずにあの河原でこれの中心に立つことになっていた場合のことを考え、サクは身震いした。

 気が付けば、周囲を取り囲む突風が消滅していた。これでいつでも逃げることができる。

 サクが動き出そうとしたところで、ようやく炎の渦は消滅した。その中心にいたテンガは真っ黒焦げになり、綺麗な青髪は見る影もなくちりちりのアフロのようになっていた。黒い息を吐き出し、満身創痍の様子のテンガはサクを睨み付けるとその場に仰向けに倒れてしまった。

 どうやら死んではいないらしい。あれほどの火力を耐えきったとなれば、本当に凄い奴なのかもしれない。そんなことをサクが考えていると、どこからともなくテンガと同じ服に身を包んだ者たちが現れた。



「テンガ様がやられた!! 退却、退却ぅー!」


「衛生兵! 衛生兵ぃー!!」



 真っ黒焦げのテンガを4人で抱き上げ、素晴らしい連携でその場から風のように去ってしまった。見事ともいえる完璧な引きだった。

 あっという間に静かになった廃屋。ぽっかりと穴の開いた天井からは、優しい日の光が差し込んでくる。

 とりあえず終わった。安堵のため息をつくと、カーラとハクが話しかけてきた。



「すごいじゃないですかサク~。私が動くまでもありませんでしたね~」


(サク、すごかった!)


「ありがとう。褒められること少ないから、照れちまうな」


「見つけたわよ変態!!」



 安心するのもつかの間、響き渡ったのは少女の怒声。背後からしたその声に振り向こうとしたが、それよりも早く凄まじい一撃がサクの尻に叩き込まれた。



「うわらばぁ!?」



 ただでさえ割れている尻が6つぐらいに割けそうな激痛を感じながら、サクは廃屋の中に積まれていた埃まみれのソファに弾き飛ばされた。

 視界が遮られるほどの塵と埃が舞い上がる。その中を、カーラの腕から離れたハクが小さな手足で全速力で駆け抜けていった。



(サク!! サク!!)



 悲痛な叫び声がその向こうから聞こえてくる。カーラも少女を睨み付けながらサクの下へと向かった。

 赤を基調とした軍服を着ていた少女は唖然としていた。自らが使う最大級の魔法をいとも簡単に使うその様子から、変態だとはいえ防御魔法も精度の高い物を使ってると考えていたために全力で蹴り飛ばしてしまったのだ。

 まさか殺してしまったのか。不安になった少女は、吹き飛ばした変態であるサクの方へ向かおうとした。だが、その先で何かが光り輝いた。



「近づかないで!」



 幼い少女の声が眼前から聞こえ、少女は立ち止まる。塵が晴れていく中、その姿が見えてきた。

 白いワンピースを着ている。綺麗な白い肌に、透き通るような金色の瞳。光を反射するほどの銀色の髪の幼い少女が、両手を広げてその進行を遮っていた。

 その身に纏う魔力。小さいながらも強い意志が感じられる瞳。少女は彼女を、正確に言えば前の姿の彼女を見たことがあった。



「あなた……、もしかして河原で会ったハクっていう――」


「そうだよ。これ以上私の大切なサクに近づかないで!」



 幼い少女へと姿を変えたハクが、少女の行く手を遮っていた。



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