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俺は冴えない(没ver)  作者: 田舎乃 爺
第二章 そうだ首都、行こう
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40 京都行きたかった

「お遊びって……、誕生日パーティですり替わってたのか?」


「そうよ。最初はこんなことになるなんて予想してなかった。あんたに助けてもらった後、すぐにばらそうと思ってたけど、あの残念騎士様が見事に見間違えてくれたから言えなくなっちゃったのよ」



 そういって笑うレーナ。とんでもない事実をサラッという彼女に、サクは苦笑いするしかなかった。

 お風呂で洗いっこした女の人はお姫様でした。典型的すぎるパターンであり、笑えない冗談だとも思ったサクは頬をつねる。しかしながら痛みを感じるので、これは現実だと理解する。

 触ったぞ。色々なところを。それが知られたら本格的に消されるんじゃないかとサクが焦り始めていると、レーナの目をニーアが見つめていた。その表情が、徐々にひきつったものへと変わっていく。

 


「姉さん。いくら恩人だからって、そこまでしなくても……」


「別にあんたには関係ないでしょ。あたしは好きになった人と戯れただけよ」


「す、好きぃ!? 本性は冴えないあんなやつのことが!?」


「あ、そういうのも共有できたのね」



 少し心が傷つきながらもサクは素直な感想を述べた。どうやらお互いに能力によって情報を共有したようだ。姉妹であり、同じ血が流れていれば同じ能力を持つのは当然ともいえる。

 本当にくりそつな姉妹の姿を見ていたサク。今揉みくちゃになって、どっちが姉で妹か聞かれたら間違える自信がある。それほど2人は似ていた。

 とりあえずどうすればいいのか。これからの行動に迷うサクはカーラと顔を見合わせた。フワフワとした雰囲気を維持し続けてはいるが、カーラもどうすればいいか分かっていないようだった。

 そんな2人にを見たレーナは、ニーアを放すとサクに近づいていく。眼前まで迫ったところで、レーナは小さなサクの目線に合わせるためにその場に屈んだ。

 


「そろそろお別れかもね。本当に色々ありがとう、サク」


「そっか。でも大丈夫。約束通り、必ず会いに行くから。……ちなみにレーナに会う時は、事前に話とか通しておいた方が良い感じ?」

 

「大丈夫。サクが来てくれたなら仕事すっぽかしてでも会うから。いざとなればニーアが頑張ってくれるわ」


「姉さん、それはちょっと……」



 背後で様子を見ていたニーアの眉が八の字に曲がっていた。困り果てたその顔を見ると、サクは少し申し訳なくなってくる。

 


「サクが来て、本当にいいところだと思える場所にしておく。まあ、今でも十分スモークはいいところだけどね」


「おう。期待してるぞ」



 向き合ったサクとレーナは笑顔のまま、抱き合った。しばしの別れを惜しむかのように、お互いの存在を感じあう。

 これで一生のさよならではないと分かっていても、レーナはサクと離れるのが嫌だった。あわよくばこのまま留まり、サクと一緒にいたいと思っている。しかし、自らのことを待ち望む者を裏切るわけにもいかない。

 また会える。そう心に刻み込んだレーナはサクを放す。再び向き合ったときには、お互いに笑顔を浮かべていた。

 満足したレーナは立ち上がると、困った表情のままのニーアの方を向いた。少し面倒くさそうな顔をしながらも、今後のことに関して問いかける。



「さて、と。ニーア、これからどうするの? スモークまで直で帰る?」


「そうだね。私たちがここに来るのはもう騎士団に――」


「サク!! ここにいたか!!」



 しゃべり始めたニーアを響き渡った大声が遮る。その声は切り株の発着するところから聞こえてきた。

 何事かとサクたちが声の方を見ると、かなり焦った様子のテンガがハクたちを引き連れてやってきていた。

 緊迫したその表情と頭部のミスマッチに一瞬吹き出しそうになってしまったが、サクはなんとか堪えた。ちなみにカーラとレーナは耐えることができずに吹き出した。

 サクの目の前まで来たテンガはすぐさま屈むと、真剣なまなざしで見つめてくる。力強いそれを見て、何かとんでもないことが起きていることを察したサクは、静かに耳を傾けることにした。



「首都グリールの監獄に連行した2人の犯罪人が脱獄。暴れまわっているらしい」


「マジかよ。超大事じゃねえか」


「押さえつけるために私も向かうが、サクの力も貸してほしい。頼まれてくれるか?」


「……俺なんかでいいなら喜んで!」








     ※







 トングの公園には、滅多に見ることのできない光景を見ようと多くの人が押し寄せていた。立ち入りが制限された公園には、巨大な白銀の竜に複数のワイバーン。そして騎士たちの姿があった。

 そんな中でも人々の視線を集めていたのは、竜に乗って作業を進めている幼い少年だった。息の合った騎士4人組から手渡された工具で、鞍の留め具を締めている。



(ハク、大丈夫そうか?)


(ちょっとむずむずするけど大丈夫! 行けると思うよ!)


(分かった)



 テンガが乗るための鞍の括りつけが完了した。ハクの体を登ってきた4人組が入念な最終確認を行っていく。



「「「「こちらも異常は確認できません!」」」」


「おっし。この4人が言うなら問題はないな」



 チェックを終えた4人は素早くハクから離れていき、テンガの背後に綺麗に整列した。相も変わらずキレッキレの動きにサクが惚れ惚れしていると、ワイバーンに乗ったアイリスが話しかけてくる。



「私たちも後から着く予定よ。それまで、頑張って!」


「おう! 頑張るどころか、そっちが着く前に全部終わらせてやるよ!」


「無理はしないでね!」


「分かってるって! これが終わっていつかまた自由な時間が出来たら、旅をしような!」




 そういってサクはアイリスに手を振る。それに対し、アイリスも笑顔で手を振った。アイリスの旅計画は今回の件によって白紙となってしまった。それでも、またいつかこの面子で楽しく旅をしたいとサクは考えていた。

 サク以外の者がハクに乗ることは危険だと判断した結果、アイリスやカーラたちはレーナたちが乗ってきたワイバーンで首都に向かうことになった。唯一耐えられるであろうテンガは一緒に行くことになり、そのために鞍を用意した。ようやく男の子の夢である共闘の時がやってきたのだ。

 公園内を慌ただしく動き回る騎士団の面々。特別に張られたテントの下には、今回ワイバーンを提供してくれたスモーク国の人たちがいた。もちろん、そこにはレーナもいる。

 テンガが背後の鞍に乗り込んだのを確認したサクは、周囲の安全をハクと一緒に確認していく。もし風圧で飛ばされて誰かが怪我をしたら大変だ。



「サク~!!」



 元気な叫び声がテントの方から聞こえてきた。そっちの方を向くと、笑顔のレーナがこちらに向けて親指を立てていた。



「派手にやってきなさ~い!」


「任せとけ~!!」



 それに応えたサクは高らかに拳を突き上げる。それを見たレーナが笑顔で喜んでいると、公園の外から歓声が上がった。

 あかん、無理や、目立ちすぎはよくないでぇ。人の目が集中していることに気づいたサクが、いつもの似非関西弁を心の中でつぶやきながらハクの背で縮こまった。

 もうところどころで英雄扱いされているサクだったが、この世界において自分らしく暮らすためには目立つことはよくない。もう無理かもしれないが。

 今回の首都を守るための行動は、軽い気持ちで行くことにしていたサク。あのCMのような、『そうだ京都、行こう』的な感じだ。紅葉とお寺が流れるそのCMが懐かしく脳内に浮かんだ。



「……あ、修学旅行のこと忘れてた」


「修学旅行?」


「あ、いや、こっちの話だ。忘れてくれテンガ」



 高校2年の秋に予定されていた修学旅行で京都に行くことが決まっていたのをサクは思い出した。何だかんだ楽しみにしていた。行きたかったと思うサクは、ハクの背で小さくため息をついた。

 


「そろそろ行こう。この間にも、被害は拡大しているかもしれん」


「了解ー。そんじゃ――」


(行こう、ハク!)


(分かった!)



 ハクは飛び立つために、折りたたんでいた巨大な翼を広げた。銀色に光り輝くそれに、多くの人が感嘆の声を上げる。

 大木の枝からの光を乱反射するハクは大きく羽ばたき、飛び上がった。そして、大木の下を潜り抜けるようにして高速飛行を開始した。

 同時に飛び立ったアイリスたちのワイバーンとはどんどん距離が離れていく。サクとハクはそれほどでもないと感じていたが、実際の速度は凄まじいものだった。



「これは、中々に……!」



 予想を超える風の抵抗を受け、背後のテンガが苦悶の声を上げる。振り落とされまいと必死に鞍にしがみついているのをサクが見ることはなかった。

 心と体を深く繋げているサクとハクは爽快感に満ち溢れていた。2人であれば、どこへでも行ける。どんな脅威だって吹き飛ばせる気がしていた。

 首都、グリールへと向けて2人を乗せたハクは全速力で空を駆ける。その先に感じる邪悪なる存在はかなりの大きさを誇っているが、そんなことを気にしてなどいなかった。



(さあ、派手に行こうぜハク! そんで俺たちの理想の生活をこの手に掴もう!)


(うん! よ~し、もっととばすよ~!!)


「す、すまないサク、ハク。できれば速度を――」



 テンガの懇願も空しく、ハクはさらに速度を上げた。テンガの絶叫とサクとハクの笑い声が、快晴の空に響き渡る。

 暴れる脱獄犯、そしてアイリスの祖父がいる首都はもう目前にまで迫っていた。




 冴えない男子高校生の物語が、1つの区切りを迎えようとしていた。

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