35 積極的なのね
とりあえず現場は騎士団とテンガが何とかしてくれることとなり、サクたちはニーアを連れて、今いる場所から最も近い街である『トング』へと向かうことにした。道中で使用したのは騎士団の車。運転をしてくれたのはいつもの4人組の内の1人だ。まともに整備されていない道を徹底した安全運転でサクたちを街まで運んでくれた。
その車内の中でニーアがアイリスたちに改めて自己紹介するのを見て油断したサクは吸血鬼状態を解除してしまった。階段の時よりも凄まじい激痛に気絶しそうになったが、カーラの治癒魔法と筋肉痛に効くカプセル状の特製の飲み薬によって事なきを得た。
サクをこの体にした薬の件から考えても、治癒魔法と薬学に関するカーラの知識は桁違いだった。フワフワしているが、やるときはやる。しかし、犯る気には正直ってなってほしくはない。
痛みから解放されたサクは気づかぬうちにカーラの理想郷の中で眠りについてしまう。成長した姿と変わらぬ安らかな寝顔にハクたちを含む全員がほっこりとしていた。
走り続ける車はそれから約一時間後にトングに到着した。優しく揺り起こされたサクは、目をこすりながらぼやけた視界をはっきりさせていく。カーラの胸から降り、車の外へと出たサクの目の前には幻想的な風景が広がっていた。
「明るい木の……街?」
凄まじい大きさの木が天高くそびえ立ち、その木の内部と周囲が人が住みやすいように整備されていた。これまたぶっとい木の枝からは、電灯とは違う温かな光が漏れ、木の下を照らしている。
超巨大な森林をそのまま街として活用している。サクのいた世界では見ることが不可能なその光景は、とても温かみのある雰囲気を醸し出していた。
「では、私はテンガ様の下へと戻ります。後々我々もここにやってきますので、それまでの別れとなりますね!」
「そうね、ご苦労様。テンガにありがとうって伝えといて」
「了解です!」
アイリスとの会話を終えた1人は車を発進させ、郊外にある施設へと戻っていった。それを見送りつつ、サクたちはとりあえず寝床となる場所を探して街の散策を始めた。
以外にも店などはちゃんとあり、行き交う人も多かった。普通の人と動物の人の数はちょうど半々ぐらい。人と自然の温かさを感じながら進んでいくと、街で一番大きい木に到達した。
大きい木はホテルだった。入り口を通ると、エントランスでは観光客や遠方と仕事に出るための人などでにぎわっていた。アイリスが部屋の確保のために受付へと向かうと、思い出したようにニーアが呼びかけた。
「サクとあたしは同じ部屋で! ちなみに2人っきりでお願い!」
「分かりました!」
「かたっ苦しいしゃべり方はなしで! 皆もね!」
そういって笑顔を振りまくニーア。それに同意するようにハクたちは頷いた。だが、その直後でハクが羨ましそうな目でニーアを見つめる。
「いいなー、サクと2人っきりー。私もサクと一緒に寝たいのにー」
「恋人ならいつでもいちゃいちゃできるからいいでしょ。あたしはいついなくなるか分からないから、今日だけでも恩返しのために一緒にいたいのよ」
「ちなみにニーアはどんな恩返しをするんですか~? 気になります~」
「それは秘密。後でサクに教えてもらいなさい」
笑うニーアはすぐそばにいるサクに対してウインクをした。強さの中にも可愛さをのぞかせるニーアにサクは内心で満足を表す親指を立てていた。
しばらくしてアイリスが人混みをかき分けて戻ってきた。今回はうまい具合に部屋が確保できたようだ。夕食は3、6階のレストランに行くか、いつもと同じように鐘を鳴らしてホテルおすすめの料理を食べるかと、今回は食事に関しては幅広い選択肢があった。
今後のことを考えながらも、とりあえず一度それぞれの部屋に向かうことにしたサクたちは、上層の階へと向かうために外へと出た。外壁のそばに設置されている大きな切り株のようなものにサクたちが乗り込む。すると、切り株の周辺が光り輝いてゆったりと上昇を開始する。
見る見るうちに街中を歩く人の姿が小さくなっていくのを確認することができた。見ろ、まるで人がノミのようだ。懐かしい某パヤオ作品のキャラの迷言を頭の中でつぶやく。
目的の階へとたどり着いた切り株は、サクたちを乗せたまま大木の中へと入っていく。自然そのものの廊下に降り立つと、切り株は次の乗客のために外へと出て何処かへと行ってしまった。ファンタジーってすごいと改めて実感しながら、サクは寝泊まりする部屋へと向かった。
自然豊かな香り漂う中を進むと、部屋に到着した。今回とった部屋は2つ。隣同士なのでいざというときにはすぐに駆け付けることが可能だ。特にニーアのレベルの重要人物を警護するためのアイリスの措置だった。
サクはあらかじめ手渡されていた鍵で開錠すると、すぐさまニーアに抱きかかえられた。それにサクは驚いていたが、構うことはないといった感じのニーアは笑顔でハクたちのほうへと向いた。
「それじゃーね。何かあったら呼ぶから」
「分かった。ゆっくり休んでね」
「ありがと~」
アイリスの返答に笑顔で答え、サクを抱きかかえたままのニーアは扉を開けて中へと入っていった。活気のあるその様子に少しサクのことが心配になりつつも、アイリスは鍵を開けた。
そのドアノブに手をかけた時、隣の部屋の扉が開いてそこからニーアが顔だけを廊下に出してきた。
「ちなみに防音性はある?」
「たぶん……それなりに。でも、何でそんな――」
「ありがと!」
アイリスがしゃべり終える前に、ニーアは楽しそうにしながら扉を閉めた。本格的にサクのことが心配になってきたアイリス。
そのすぐ横ではハクがうらやましそうな顔をし、カーラはフワフワとした笑顔を絶やさないがどこか悔しそうな雰囲気を滲みださせていた。
※
「サク、痒いところはない?」
「ないけど……、何で俺も一緒に入らなくちゃいけなかったの?」
「そりゃーもしかしたら入浴時にまた何かあったら困るじゃない」
「それにしては緊張の欠片も無いというか、どちらかといえば楽しんでいるようにしか見えんのですが」
「気にしなーい、気にしなーい。だって、サクはこういうの好きなんでしょ?」
サクの頭を洗いながら、ニーアは健康的なその体を背に押し付けてくる。柔らかな感触を背後から感じ、押さえつけられない生理現象によってムスコが瞬時に大きくなってしまう。
内股で隠そうとしてももう遅い。ばればれなそれを後ろから見て、ニーアが悪戯っぽく笑った。鏡越しに見えるその姿はとても可愛かったし、美しかった。
心臓を高鳴らせるサクの頭を流し、ニーアは艶めかしい手つきで体を洗い始める。お姫様の妹なのに、どこでそんなテクニック学んだんだ。興奮冷めやらぬサクの心臓はどうにかなってしまいそうだった。
ようやく洗い終え、ドキドキが少し収まってきたサクは風呂椅子から立ち上がるように促された。解放されたと思ったサクは、そのまま浴室から出ていこうとしたが、それをニーアが止める。
「さ、今度はあたしを洗ってもらうわよ」
「え゛」
そういってニーアは風呂椅子へと腰かけた。鏡越しににやにやしながらサクのことを見ている。
これ、俺で遊んでるよね。でもね、お風呂で洗いっことか、正直に言って最高です。夢のようです、はい。
がっちがちにムスコも体も緊張しながら、サクはニーアに近づいていく。そして、息を整えつつニーアに話しかける。
「えっと、女の子を洗ったことないけど、が、頑張る」
「うん。ちゃんと綺麗にしてね~」
「お、おう」
震える手を押さえつけながら、サクはこの男にとって最高の状況を心から楽しむことを決意し、その手を伸ばした。




