33 ようやく得た機会
「さあ行くぞ! 死ぬ覚悟は――」
「サクスペシャル3!」
(口からドーン!)
「おぎゃあああぁぁぁぁあ!?」
バンドゥーモがしゃべり終わる前に、サクとハクの全力の一撃が機械人形を襲った。糞ネーミング技が下半身を吹き飛ばし、ハクの熱戦が憎たらしい頭部を跡形もなく消し飛ばした。
上半身だけとなった機械人形は機能を停止し、地面へと落下した。変な動きをしないかとゴウが近づき、警戒を続けるも目立った動きはない。
決着がついたことを確認すると、ハクが人間の姿へと戻り、サクを抱き上げる。ワンピース越しの柔らかな膨らみが大変気持ちがいい。
「すごいねサク! あんなこともできるんだ!」
「おうよ。きゅっとしてドカーンって感じだな。それでもハクには負けるが」
「えへへ~、そんなことないよ~」
そういって無邪気な笑顔を浮かべるハクはとても美しい。眩しすぎるそれにサクが感動していると、機械人形の方から大きな音がした。
宙を舞っていたコクピットハッチが勢いよく地面に落下し、何度も跳ね返ったり回転して止まる。煙が充満していたであろうコクピットの中から、髭面の大男、バンドゥーモが姿を現した。
呼吸をするため身を乗り出したちょうどその時、コクピット内で小規模の爆発が発生した。素っ頓狂な悲鳴を上げながらバンドゥーモは宙に放り出され、大地に熱いキスをした。
近代的な鎧を身に纏っているが顔の部分は守れていないため、非常に痛そうにしている。敵であるが哀れなその様子にサクが話しかけようとするも、それを遮るようにバンドゥーモはサクたちの方を指さした。
「これで勝ったと思うな! 天才の俺様にはまだこの鎧が――」
(いい加減に黙ったらどうだ)
「ほふんっ!?」
背後からゆっくりと近づいてきたゴウの前足に押しつぶされたバンドゥーモ。その下で抜け出そうと必死にもがいているが、サクたちから見てもまったくもって動ける気がしない。
ゴウはもがくバンドゥーモにさらに圧力をかけた。すると、悲鳴を上げることもなく静かに前足のしたで気を失った。
これにて完全勝利。てこずるかとも思ったが、そんなことはなかったでござる。ロマンあふれる凄そうな機械人形でも、相手が悪すぎたのだ。
男の楽園から下してもらったサクは、ハクと一緒にバンドゥーモのところへと向かう。近づくにつれ、改めてゴウが大きいことにビビるサクは知らず知らずのうちに忍び足になっていた。
(どうした。なぜそんなに怯えている)
(俺だってわかるのか)
(見た目は変わっても、力は変わっていないからな)
(ほへー。そうなのか。ま、なにはともあれ協力してくれてありがとうな)
(仕える身として当然のことをしたまでだ。では主よ、また会おう)
(……? 待ってくれゴウ。ハクじゃなくて俺が主なのか?)
(当たり前だ。お前以外の誰がいる)
そう言い残し、ゴウは走り去ってしまった。まだ聞きたいことがあると伝えようとするも、この前と同じで範囲外へと行ってしまったために、心の声が届くことはなかった。
守護騎士にはああいった魔物を従えるような資格があるということなのだろうか。新たな疑問が生まれたところで、サクは何かがこの場所に近づいてくる音を感じ取った。
ハクもそれに気づいたようで、その方向を見るとこちらに向かって何台もの車が向かってきているのが確認できた。車には、騎士団の紋章が随所に描かれている。
どうやらその中にアイリスとカーラもいるようだ。サクはハクに肩車してもらうと、やってくるそれらに対して無事を伝えるかのように笑顔で手を振った。
野宿とかはする必要はなさそうだとサクが胸をなでおろしていると、安全を確認したニーアがサクたちの方へと駆け寄ってきた。
「えっと、あなたがさっきの竜よね?」
「うん。私はハク。サクの恋人だよ!」
「恋人!? 竜と……。へえ、驚きだわ」
「あなたの名前は?」
「あたしはニーア。『ニーア・ヴィヴィオネット』よ」
「……噛んじゃいそうな名前だね」
「よく言われるわ」
サクの思ったことを代弁してくれたハクとニーアのやり取りを聞きながらも、サクは手を振り続けていた。
あっという間に到着した車たちは手早く施設前に駐車すると、多くの騎士がその中から出てきた。大破した機械人形やバンドゥーモ、山積みになって気絶する構成員を次々と捕縛していく。
その騎士の中に4人組とテンガを発見したサクは、ハクから飛び降りた。今度こそ話しかけてやろうと意気込むサクだったが、その体は勢いよく抱き上げられた。
「ごめんサク! 私がついてたのに、こんな目に遭わせるなんて!」
「お、おお。アイリスか。って泣くなよ。この通り無事だから」
「分かってるけど謝らせて。ごめん、ごめんね……」
「……俺こそごめんな、心配かけて」
抱きしめたまま、泣き続けるアイリスの頭をサクは優しく撫でてあげた。今までの冴えない人生を思い返してみても、自分の無事をこんなに喜んでくれる人はいなかった。
本気なアイリスに心から感謝していると、その背後でカーラが微笑みながらこちらを見ていた。サクであれば心配はいらないといったカーラの考えが、その雰囲気から察することができた。これもまた一つの信頼の形か。
嗚咽も徐々に収まっていき、落ち着いたアイリスは最後にもう一度強めに抱きしめてサクの存在を確認する。サクもそれを嫌がることなく受け入れ、自らがちゃんとここにいることをアイリスに伝えた。
満足したアイリスは、泣き跡の残る顔に笑顔を浮かべながらサクを地面に下してくれた。この一連の様子をニーアはすぐそばでにやにやしながら見守っている。
「……そんなまさか!」
多くの騎士たちに協力していたテンガが驚きの声を上げた。驚愕の表情のまま、サクたちのほうへと近づいてくる。
こちらに気づいてくれたことを好機だと判断したサクは、ようやくやってきた話す機会にワクワクしながら口を開いた。
「ようテンガ! やっと――」
「あなたはニーア様! 『スモーク国』の姫の妹のニーア様ではございませんか!!」




