32 三大怪獣+高校生
「エレベーターは……、駄目そうだな。止まってる」
もしかしたらと考えて上を示すボタンを押してみたが、反応がない。少しでも楽をしたいと思ったが、そうは上手くいかないのが現実。いや、異世界か。悔しいですねえ。
そばにある非常階段を見て残念そうにしているサクの頭をニーアが慰めるように優しく叩く。
「まあいいじゃないの。出られるんだから」
「んー。そうだな」
仕方ないと割り切って階段を上ることにした。地図によればここは地下2階。そこまで疲れるほどの長さではないと信じて進んでいく。
手を繋ぎながら進んでいく中で、サクは吸血鬼状態を解除していないことにに気づいた。もう危機は去ったのだから大丈夫だろう。そう思って解除したが、それがサクの体に耐えがたい苦痛を与えることとなった。
上っている途中でその場に崩れ落ちてしまう。握っていた手も離され、それに驚いたニーアがサクを抱き起した。
「あだだだ……。ぬおおぉぉ……」
「どうしたのサク! 大丈夫!?」
「ぜ、全身が尋常じゃない筋肉痛みたいになってる……。めちゃくちゃ痛い……」
「立てそうにない?」
「ちょっと、いや、こりゃ無理だわな」
「分かった。それじゃ、よいしょっと」
「すまねぇ……」
申し訳なさそうに謝るサクをニーアは背負い、階段を上り始めた。それほど重くないとはいえ、異性に背負ってもらうのは少し恥ずかしかった。
1週間捕まっていたといっていたが、その綺麗な黒髪からは爽やかな香りがした。精神を落ち着かせるかのようなそれを嗅ぎ、若干体の痛みが和らいだように感じる。
ゆっくりと階段を上っていく。サクを気遣う優しい心は背を通して伝わってきた。ハクたちとは違う力強く、心強いものをニーアは持っているような気がした。
こんな姉が欲しかったと思っていると、1階に到着した。日の光が建物の入り口から入り込み、施設の中を照らしている。自然の温かさを感じたニーアが喜びの声を上げる。
「やった! 外だ! 外だよサク!」
「ああ、早く娑婆の空気が吸いてえな……」
何年も投獄されていたような囚人のようなことをサクはつぶやいた。それを聞いてニーアはサクを背負ったまま、笑顔で外へと飛び出していった。
眩い光に目がくらむ。ようやく目が慣れてきたところで、2人の目にとんでもない光景が映し出された。
激しく取っ組み合いをしている、巨大な白銀の竜へと姿を変えたハクと巨大な機械仕掛けの人形。そして、竜を支援するように機械人形に攻撃を仕掛ける巨大なベヒーモス、ゴウの姿があった。そのすぐ近くでは、気絶した夕食団の構成員が山積みになっている。
状況が理解できず、ニーアはその場で固まってしまっていると、こちらに気づいた機械人形が外部スピーカーを使って叫んできた。
「何い!? 脱走を許しただと! 大事な商品だが、情報をばらされるわけにはいかん!」
背部に設置されているエンジンを全開にし、蒸気を噴出させるとともにハクの体を持ち上げてそのままこちらに向けて投げ飛ばしてきた。
そんなまさか。圧倒的に強いはずであり、かなりの重量があるはずのハクを投げ飛ばしたことにサクが驚きつつも、固まったままのニーアに逃げるように伝えようとした。しかしながら、もう間に合わない。
「すまんニーア!」
これ以上の筋肉痛を覚悟しながらもサクは再び吸血鬼化し、ニーアの背から離れるとともに彼女を安全な所に弾き飛ばした。
いきなりのことで悲鳴を上げるニーアに心の中で謝った瞬間、ハクの巨体がサクにのしかかった。受け身も何もできず、それの下敷きになる。
「サク!!」
起き上がりながらのニーアの悲痛な叫びが響き渡った。それに反応し、機械人形の矛先がニーアへと変わる。
「まだいたか! 死ねい!!」
機械人形の右腕が変形し、その先端に魔力が収束していく。緑色の輝きが太陽に負けない光度で周囲を照らした。
まもなく放たれるといったところで、その腕をゴウが豪快なアッパーを繰り出して上空へと向けさせた。緑色の極太のビームは天高く飛んでいき、空に浮かぶ雲に大きな穴を開ける。
邪魔されたことに苛立つ機械人形は、舌打ちしながら体中に仕込んであった無数の小型ミサイルを展開してゴウを追い払う。その雨を巨体からは考えられない圧倒的な速度で動き回り、避けつつ施設の方から離れたところへと一旦距離をとった。
その時間稼ぎのお陰で、ハクはその場に起き上がることができた。機械人形を警戒しつつも、地面にめり込んだサクを引っ張り出す。ギャグ漫画のようにぺらぺらにならなくてよかった。
(ごめんサク! 大丈夫?)
(何とか。んで、このよく分からない状況を説明してほしいんだが)
(分かった! これまでの経緯は――)
ハクの手短な説明によると、サクが連れ去られたことを駐在騎士に伝えた後でそれぞれがロメルの街の中を捜索した。それでも見つからなかったためにハクは竜の姿となって上空から異変がないか確認していた所、何かに呼ばれて猛スピードで駆け抜けるゴウを見つけたそうだ。それを追ってここまで来たとのこと。
それなりの距離だったらしく、アイリスとカーラはまだ追い付いていないらしい。やってきてくれたことに礼を言おうとしたが、飛びついてきた柔らかなものに遮られてしまう。
驚いたような表情のハクを睨み付けるニーア。たとえ無謀だとしても恩人は守るといった覚悟を持つニーアの眼光は強力なものだった。どうしていいかとハクが戸惑っていると、幸せ空間から顔を出したサクが急いで説明する。
「違うぞニーア。ハクは敵じゃない。たぶんそこにいるベヒーモスも」
「……嘘でしょ。まさかサク、あんたって守護騎士?」
「そうらしい。新参者だけどよろしくー」
「あんたが……。そう、サクが……」
腕の中にいるサクをニーアが嬉しそうに見つめていた。熱烈な視線にサクが少し照れていると、ハクが不満そうに唇を尖らせていた。
「高額商品同士が何いちゃいちゃしとる! 今、この状況が、貴様らにとって危機的状況だと分からんのか!」
(……ハク、あれは一体なんだ?)
(さあ。ここに来てから戦ってるうちに出てきた。物凄く力が強い機会のお人形さんだね)
ASともMSとも違う見た目で、自己主張の塊のような髭面の男性の顔がそのまま機械人形の頭部に描かれている。全身が丸みを帯びているので、ATが一番イメージに近いかもしれない。
試作段階であるためか、体の随所がつぎはぎだらけになっている。ファンタジーな異世界でロボを動かそうとする努力がそこからにじみ出ていた。
確かに人型ロボは男のロマンだ。それに関しては一切否定しないし、その方面が結構気に入っていたりする。特にこの世界に来る1年前に放送されていた種死が印象深い。何だかんだ言って無限正義はかっこよかったし、最初のOPでたわわなものが揺れた瞬間に心をときめかせたのは俺だけじゃないはずだ。
そんなくだらないことをしみじみと考えていると、機械人形は外部スピーカーを通して怒声を周囲に撒き散らした。
「この俺、バンドゥーモ様が貴様らを蹂躙してくれるわ! グリール進出の邪魔をした貴様らの罪は重いぞぉ!!」
「うわあ、超怒ってる。ニーア、危ないから離れててくれ」
「あんな奴に勝てるの?」
「ハクもいれば、あの強そうなゴウもいるから大丈夫だと思う。ささ、行った行った~」
「……無理はしないでね」
そういうとニーアはサクの額にキスをしてくれた。これまでにされたことのない部位。サクがドキッとして頬を染めたのを確認した後、心配そうな表情のままニーアはサクを離してその場から離れていった。
アメリカンな人々が抱擁するのと同じような感じなのだろうが、日本人であるサクにはああいったスキンシップは心臓に悪い。それ以上の行為を経験済みであっても、初めてのことはヘタレにとってどれもドキドキの連続だ。
少し照れながらサクは額を触る。わずかに残っている温かさを手で感じ取っていると、ハクが特大のキスを頬にしてきた。
(私もちゅーならできるよ)
(ありがとうな。さあ、派手にいこうか)
(うん!)
大きなその頭を優しく撫でると、ハクは嬉しそうに元気な返事をした。そして、深く深呼吸をした後に機械人形へと向き合う。
凄まじい決戦にもなりそうな、そうでもなさそうな戦いの火蓋が切られようとしていた。




