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俺は冴えない(没ver)  作者: 田舎乃 爺
第一章 冴えてる三日間
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02 エロ本は金にもなる

「おおー、道だー」



 川をに沿って歩いていたサクは整備された道に出た。周囲も森ではなく、平原が広がっている。

 爽やかな風が吹き、照り付ける太陽も先ほどよりも苦にならない感じがした。サクはハクと一緒に道の先を見ると、車のような何かが列を作ってこちらへと向かってきているのが見えた。

 それなりの勢いで走るそれはもうすぐこちらへとたどり着きそうだったので、道のすぐ外を歩きつつその車か何かの方角へと歩き始めた。

 向こうから来たということは、その方向に街があるはず。とりあえずは布切れでもなんでもいいから手に入れて上半身を隠したいサクは歩を進めていった。

 やがて到達したかなり大きい車の列が土埃を上げて横を通り過ぎていく。舞い上がったそれが視界を遮り、呼吸もしずらくなった。



(サク、目に入っちゃった)


(マジか。俺もヤバそうだから少し離れるか)



 まだ続きそうな車の通行に耐えきれず、道を離れた。予想していたよりもかなり長い列を組んでいることに、サクとハクは驚いた。

 見たことのない紋章のようなものがどの車にも描かれていた。それがどこかの国の物なのか、はたまた会社のものなのかはさっぱり分からなかった。

 足場の悪い中、車列を見ながらサクは歩いていると、急に車列が止まった。

 


「――!」


「えっ、何? もしかして俺何かしちゃった?」



 ひと際目立つ車の中から、褐色でスキンヘッドの大男がこちらに向かってやってきた。街で出会ったら間違いなく近づきたくないような見た目だ。

 こちらに対して何かしゃべりかけているが、もちろん何を言っているかわからない。しかし、その表情は怒りではなく心配しているような感じだった。

 


(ハク、このおっさんが何言ってるかわかる?)


(えっと、大丈夫か? 追剥にでもあったのか? とか聞いてるよ)


(ちなみに俺の代わりにハクがしゃべれたりしない?)


(無理だよ。ごめんね、力になれなくて)


(謝んなくてもokだ。となるとどうしたもんか……)



 声をかけ続ける大男に話すことができない、言葉が分からないと下手くそなジェスチャーで伝えようとするサク。その様子を不思議そうに見つめる大男の視線が痛い。

 羞恥心に耐えながらもサクがそれを続けると、大男の手がこちらへと伸びてきた。驚くサクだったが、先に反応したのはハクだった。

 近づいてきた大男の手にハクが噛みつく。牙も生え揃っていないその口で必死にサクのことを守ろうとしていた。勇ましい頭の上の小竜に勇気づけられると同時に、何もできない自分が申し訳なく感じた。

 警戒を解かないハクをなだめるように大男は何かしゃべりかけた後、自らの首を指さしながらこちらに向けて話しかけてくる。



(げんごとーせーまほうがあるか首を見せてくれって言ってる。サク、嫌ならやらなくてもいいよ。私が守るから)


(いや、ここは素直に従おう。もしかしたら力になってくれるかもしれん)



 頭の上にいたハクが落ちないように両手で抱きかかえ、サクは顎を上げて首を見せた。

 少し離れたところで首を確認した大男は、車の方へと叫んだ。それに応えるように眼鏡をかけた褐色の青年が車から出てきた。

 サクたちのところへたどり着いた青年は、大男から指示を受けるとサクに近づいてきた。手の中で全力で警戒するハクをサクは必死になだめる。

 首元に手を近づけ、青年は何やら怪しい呪文か何かを唱え始めると、小さな光が首のところに出現した。緊張しながらも、特に嫌な感じはしなかったのでサクはそのまま待った。

 やがて光が消え、少し離れた青年が軽く咳ばらいしてしゃべりはじめた。



「俺の言ってること、わかる? 旅人さん」


「おお! わかる! 言ってることがわかる!」


「ならよかった。今時言語統制魔法をかけてないなんて、君は一体どこのド田舎から来たんだい?」


「えーっと、何て言えばいいのか……。イゴース・ド・イカーナから来たといえばいいのか、なんというか」


「いごーす? んー、とにかく俺たちが行ったことのない場所だっていうのはよくわかったよ」



 ありがたいことに言葉がしゃべれるし、理解することもできるようになった。さすがファンタジー、便利な物があるものだとサクは感心していた。

 ハクもその様子を見て警戒を解いた。腕をつたって再び頭の上へと乗ると、顔を眼前の男たちへと向ける。

 青年の横にいた大男が笑顔で右手を差し出してきた。大きなその手を握り返し、熱い握手を交わす。

 


「話せるようになって良かったなあんちゃん。俺は『ブレーム商会』を取り仕切ってる『ブレーム・ロドリゲス』だ。こっちの魔法使いは『ガルム・ビアンコ』。よろしく頼むぜ」


「俺は實本冴久。サクって呼んでくれ。本当に助かったよ、ここに来てから言葉がわからなかったから冷や冷やしてたんだ」


「なるほどな。それにしても上半身に何も着ずにいるなんて、追剥にでもあったのか? かなり暗い顔してるから、心配で降りてきちまったよ」


「あ、すまん。この顔は生まれつきなんだ。それに、追剥にもあってないから安心してくれ」



 素直に礼を言いつつも対等な立ち位置でしゃべる。本来ではこんなことをしないサクだったが、主人公的な位置なのであれば舐められてはいけないと考えたからだ。自分が主人公なのかはわからないが。

 それに、商会ということであればもしかしたら何か売ってくれるかもしれないし、買ってくれるかもしれない。このファンタジーな場所での通貨は恐らく円ではないはず。一文無しのサクにはまたとないチャンスだった。

 強気に出るサクが気に入ったのか、握手を終えたブレームは嬉しそうに話しかけてくる。



「いいねその根性。俺とは初対面なのにその態度を見せる男は初めてだぜ」


「そりゃどーも。こうした態度の方が俺も気楽だし、ブレームも楽だろ?」


「違いない。久々に面白い人間に会ったきがするわ。ところでサクはこれからどこに行こうってんだ?」


「あー、特に目的地は無し。今のところはブレームが来た方向にあるであろう街に行こうと思ってる」


「『ロメル』か。だとしたらその格好じゃまずいし、その可愛い竜ちゃんもやばいかもしれないな。サク、金は持ってるのか?」


「いや、一文無し。あるとすればこれだな。もしかして買い取ってくれたりする?」



 そういってサクは半透明のビニール袋を差し出した。『月刊巨乳エクスタシー』と約800円分の夜食が入っている。

 中身を確認したブレームが硬直した。それを不思議に思ったガルムも横からのぞき込むと、同様に硬直する。驚愕の表情で中身を見つめるその様子が面白くてサクは少し吹き出してしまった。

 恐る恐るその中にあった禁断の書物に手をかける。そして開いた書物には見たこともない官能的な世界が広がっている。大の大人2人が血眼になってエロ本読み進めるその光景は異様だった。

 半分くらいまで読んだところで手を止め、閉じる。すさまじく真面目な表情でサクをみつめる。



「サク、これは一体何なんだ」


「俺の故郷で販売されてる本だ。門外不出の物だから、絶対に手に入らないと思うぞ」


「……もし売ってくれと言ったら、いくらでいい?」



 食いついた。やはりエロ本は素晴らしい。ファンタジーの男ですら虜にしてしまうとは。

 頭の上ではハクが震えながら目をつぶり、小さな手で顔を覆っている。まだあれが呪いの本だと信じているようだ。可愛い。

 税込みで800円だったから、少しぼったくることになるが1000円分くらいで売ろう。ずる賢い決断をしたサクはにやにや笑いながら、ブレームに対して両手の指を全て立てて売価を表現してみた。

 


「これぐらいでどう? 良い値段だと思うけど」



 その要求額に、ブレームはうなりながら悩んだ。真面目なその顔からは鼻血が垂れている。

 悩み続けるブレームにガルムも鼻血を垂らしながらも真剣な表情で助言をした。というか実際にエロ本で鼻血だす人をサクは初めて見た。笑いたいがそれを必死にこらえる。



「……社長。これは間違いなく今後の商売の1つとして活用できるはずです。手に入れておいて損はないかと」


「そうだな。秘蔵のお宝……ではなく、商売として絶対に使えるからな。仕方があるまい」


「結論が出た感じかな?」


「ああ。ちょっと待っててくれ」


 

 するとガルムがサクの手の甲にお札のような物をかぶせた。呪文を唱えると、札が消滅して手の甲には白い魔法陣が浮かび上がった。

 綺麗なそれに目を奪われていると、ブレームがどこからともなく大きなケース取り出した。サクの目の前にそれを置き、開いた。

 その中にはびっしりと札束が入っていた。まさかと思いサクはブレームを見た。



「要求通りの10万ゴルドだ。その手に作った収納方陣に収めてくれ。収納したいと念じれば入るはずだ」


「お、おう」



 言われた通りにすると魔法陣が光り、札束は一瞬にして消えた。どうやらこの魔法陣の中にある空間に保存されたようだ。

 通貨の価値はわからないが、もしかしなくてもとんでもない額を手に入れてしまったのではないか。サクは内心で申し訳ないと思いつつも、喜んでいた。

 たった一冊のエロ本のおかげで活路が開いた。エロ本様様だ。毎月欠かさず買っておいて良かったと自らを褒めた。

 


「それと、これでも着ときな。最近は暖かいとはいえ、そんな姿じゃ風邪ひいちまうよ」


「マジか、ありがとうなブレーム。代金の方は……」


「そんな服一つぐらい、ただでやるよ。あと、このリュックも持っていきな」



 お言葉に甘えつつ、サクを一旦下して手渡された衣服に袖を通した。同様にもらったリュックのサイズもぴったりで、RPGに出てくる旅人のような自分の姿にサクはテンションを上げた。

 冴えない顔であることには変わりはないが、少しでもファンタジーっぽい見た目になってきた。半開きの目をキラキラと輝かせるサクの様子にブレームとガルムは満足そうに笑った。

 その後、派手な車両の窓を開けて男がこちらに向けて叫んだ。



「社長ー! そろそろ行かないとヤバいっすよー!」


「おう! わかった! じゃあな、サク。久しぶりに楽しかったぜ。健闘を祈る」


「ああ。何から何まで本当にありがとうな」


 

 そうしてブレームは夜食の入ったビニール袋を返し、ガルムと一緒に車の方へと戻っていく。サクとハクはその後ろ姿と車列を手を振って見送った。

 土煙を上げて、長い車列はサクの目的地の反対方向へと走り去っていった。




 静かになった道に戻り、ロメルという街の方角を向いた。よく目を凝らせばかなり離れたところにそれだと思われる物を見ることができた。

 まだかなり歩きそうな気がするが、装備を整えた今の自分のテンションがあれば難なくたどり着けそうな気がした。それに、可愛い話し相手もいる。



(どうする? また頭の上に乗るか?)


(サクの服の中がいい!)


(お前さんも物好きだね。よいしょっと)



 抱き上げたハクを上半身の服の中へ入れた。器用に手足で服を掴みつつ、長い首を襟から外に出して満足そうに進行方向を見据える。

 表皮のざらざらもすでに気にならなくなっていた。それどころか服の中にいるハクの体温を感じて、安心している自分がいることに、サクは気づいた。

 まだまだわからないだらけの現状だが、ハクと一緒であれば乗り切っていけそうな気がする。そう考えながら、サクは街へと向けて歩き出した。






     ※








「――! ――少佐! 起きてください少佐!」


「……んぅ?」



 少佐と呼ばれていた少女が目を覚ました。目の前には口元に綺麗に整った白いひげを持つ老人が心配そうにこちらを見つめている。

 まだ覚醒しきっていない頭を回転させようと、少女は上半身を起こした。老人が慌てて手に持っていた毛布をその体にかける。



「半日ほど時間があるとはいえ、汗を流すといって1時間経っても帰らないので心配しましたよ。それもこんなところでお昼寝、しかも見たこともない衣服をかけて寝ているとは」


「見たこともない……?」



 少女が視線を落とした先にあったのは、見たこともない衣服。何故こんなものがあるのかと思ったが、脳裏によぎった光景で眠気が吹き飛んだ。

 可愛い白銀の小竜。全裸の冴えない顔の男。そしてあられもない姿の女性が描かれていた本。その全てを鮮明に思い出した。

 顔を真っ赤にしながら立ち上がり、全裸の少女はその場で叫んだ。



「あぁんの変態!! どこに行ったのよ!!」



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