表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は冴えない(没ver)  作者: 田舎乃 爺
第二章 そうだ首都、行こう
22/131

21 買いたくなっちゃうよね

 整理も終わり、準備完了。部屋の片付けも確認したサクたちは、ホテルのフロントへと向かった。

 サクに肩車されたハクはとても楽しそうにはしゃいでいた。ぱたぱたと動く足の振動が心地よくも感じられる。左右にはアイリスとカーラがその様子を微笑ましく見守っていた。

 フロントに鍵を返すとき、女性従業員が笑顔のハクを見てその表情を緩ませたが、すぐ下のサクの冴えない顔を見てそれを苦笑いへと変えた。ロメルの従業員と同じようなその態度に、心の中でお前もかと突っ込みを入れたかった。

 温かな日差し。その下のアルーセルでは多くの人が行き交っていた。田舎町とは違う雰囲気に押されながらも、サクは先を行くアイリスの後ろを付いていった。

 部屋でのやり取りを思い出して恥ずかしくなっていたのか、商店街までの道中でアイリスは必要最低限の会話しかしてくれなかった。頬を染めているその姿は大変微笑ましかった。

 目的地である商店街にたどり着くと、多かった人がさらに増えた。賑やかな様子に少し気負いしながらも、今は耐えるしかないと割り切ってサクは歩を進めた。



「待ってよ~、お母さん」


「早くいらっしゃい。バスが行っちゃうわ」



 とある少年とその母のやり取りが、サクの耳に入ってきた。それによって少し歩く速度が下がったサクに、カーラが話しかけてくる。



「大丈夫ですか~、サク~」


「……大丈夫。今の俺には皆がいるから」


「私がいるよ、パパ!」


「おう。そうだな」



 元気一杯のハクの声に、サクは笑顔で答えた。自然とその歩みも元の速度へと戻っていく。

 前を行くアイリスに急かされ、サクとカーラは急いだ。楽しそうなその顔を横から見守るカーラは、小さくつぶやいた。



「大丈夫そうですね~」






 

     ※






 買い物を半分終えた頃には正午近くになっていた。必要とはいえ、それなりの量の物を買ってもらったことに、サクはアイリスに深く感謝していた。

 旅人のような服以外にも予備の服をいくつか購入。食料保存用の冷却機能付きの保管庫。それらを動かすために必要となる『コア』とよばれる魔力を発生させる小さな球状の加工物。各種日用品等々。ほとんど物が入っていなかったサクの収納方陣の中には物が一杯になっていた。

 これだけ多くの物を入れたのにも関わらず、取り出したいと思った物だけを自由に取り出せ、しまうこともできる。こういった点ではファンタジーって便利だと痛感していた。

 今は昼食をとる飲食店を選びながら商店街の中を散策していた。ハクを肩車したまま、サクは周囲を気にしながら歩いていく。

 活気に少しでも慣れるため、サクは敢えて人通りの多い中を進んでいた。いつものように裏道に行きたい気もするが、これ以降カーラに心配をかけることを少なくしていきたいというサクの決心がそうさせていた。

 そう考えながらも、ふと目に入った物がサクの足を止めさせた。一体何かとハクが不思議に思ってその視線の先を見た。



「……これは悩む。男の子として」


「そうなの?」


「ああ。懐かしいな……」



 商店街の中にいくつか存在するお土産屋さんの1つ。サクの視線はその店の外に置いてあった『木刀』に向けられていた。

 男の子であれば、持ってみて、振ってみたいという衝動に駆られる代物。修学旅行や旅先で買いたいと思ったのは自分だけではないはずだとサクは確信していた。

 収納方陣から今日アイリスから自由に使っていいと渡されたお金を取り出す。総額30ゼント。木刀の値段は30ゼント。ちょうどぴったりだった。

 思い悩むサク。木刀にするか、それ以外の物に使うか。手渡された大事なお金を自らの趣味に使ってしまっていいのかと考え、渋い顔でうなるサクの顔を見て土産屋の店主が震えていた。カーラはその様子を笑いをこらえながらそばで見ていた。

 後ろにいるはずの3人がいないことに気が付いてアイリスが戻ってきた。冴えない顔を歪ませて店主を知らず知らずの内に怖がらせているその状況に笑いそうになりながらも、サクに話しかける。



「何よサク、あんた木刀欲しいの?」


「んー……。現在悩み中」


「いいじゃないの。買っちゃえば?」


「え、いいのか?」


「土産物だけど、魔法で強化すれば十分護身用としても使えるわ。剣術に関しては私が教えてあげてもいいわよ」


「マジか。ありがとう、ママ」


「まっ……。ど、どういたしまして、パパ」



 顔を赤くしながら言ったアイリスは、恥ずかしそうに視線を逸らした。その横で、サクは先ほどとは全く違う解放感に満ちた笑顔で店主に話しかける。

 しかしながら、これまでサクと面識のない者にはその顔が冴えないものにしか見えておらず、店主はやる気のなさそうな半開き目ののサクを心配そうに見つめながら代金を受け取り、木刀を手渡した。

 念願の木刀を手にして心を弾ませるサク。危ないのでハクを下ろした後、周りに人がいないことを確認してから木刀を振ってみた。空を切る音を聞き、そのテンションをさらに上げていく。

 鞘付きであれば某抜刀斎の真似事もできるし、3つ揃えて某海賊狩りの真似もできる。そんなことを考えたが、鞘もなければ、木刀そのものも1つしかないので諦めた。

 


「いいね~。ガキのころの夢が叶ったよ。今でもガキだけど」


「嬉しそうで何よりですお客様。何でしたらこの幸運のお守りとかもいかがです?」


「あ、それはいいっす」



 店主が薦めてきたものを丁重に断ると、サクは木刀を収納方陣へとしまった。礼を言いつつ、皆とその場を後にした。

 サクはハクと手を繋いぎながら歩いていた。ワクワクが止まらないサクの心を感じたハクが嬉しそうに話しかけてくる。



「よかったねパパ。欲しい物が買えて」


「最高だよ。あ~、振り回してみて~な~」


「パパが嬉しいと私も嬉しいよ!」


「言ってくれるね。よいしょっとぉ」


「わ~い!」



 一瞬だけ吸血鬼化して筋力を高めたサクは、ハクを抱き上げて再び肩車をしてあげた。首元にハクの体温を感じながら、意気揚々とサクは商店街の中を進む。

 そんな様子を見たアイリスは、前を進まずにサクの横へと場所を移した。そして、空いているサクの右手を握ってきた。いきなりのことにサクが驚きつつも、歩き続ける。



「……夫婦なら、手を繋ぐくらい当然でしょ?」


「ま、まあ、そうだな」



 その言葉を聞いたサクは鼓動を高鳴らせる。そういうことを言われると変に意識してしまう。だが、こうしていれば他人からは仲いい夫婦として見られ、怪しまれないかもしれない。実際、通り過ぎていく人の視線がこれまでに感じたことがないくらい優しいものになっていた。

 ワクワクとドキドキが絡み合う心を静めることは不可能だと理解したサク。握ってくれたその手を優しく握り返し、アイリスに笑顔を向けた。



「ママ、昼飯は美味しいところがいいなー」


「私も!」


「私もそれがいいな~。ママ~」


「分かったわ。それじゃあ私がこの街に来た時に必ず行くお店に行きましょ」


「「「は~い」」」



 仲良く返事をする3人。そのお店までの道を教えるアイリスは、とても嬉しそうだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ