幼少期4
「で?結局、アークは何をしたかったの??」
物音に気付いた大人たちが来る前に、私もアークライトの部屋のバルコニーから
白い紐を伝って地面に降りアークライトの手を引いて、家の庭の奥にある小さな温室までやってきた。
備え付けてある、椅子にアークライトを座らせたあと、小さな丸テーブルをはさんで自分も椅子に座る。
アークライトは悔しそうに唇をかんで下を向いている。
どうしようか。
気分を和ませるためにお茶を入れたいが、メイドにも誰にも言ってきていないので、
お茶の用意をするならば自分でキッチンまでいかなければならない。
そうすると、弟はそのすきにどこかに行ってしまうかもしれない。
グルグルとくだらないことを考えていた時、アークライトがやっと口を開いた。
「僕も、兄様や姉様のようにすごい人になりたいんです。」
「・・・兄様の事はわかるわ。でも私は何もすごくないわよ?」
弟の言い分の兄に関する部分はわかる。
現在10歳の兄だが、武術大会子供の部で年長者を下し、
すでに貴族子供たちの中でも剣の腕は一目置かれている。
男の子だし、その兄の背中を追うのもわかるが、
ただ、私は弟にすごいと表現されるようなことに心当たりがない。
うんうんと考え込んでいると、弟は手を握りこぶしにしてテーブルに叩きつけた。
「何をいっているのです!!姉様は第二皇子の妃候補になったのでしょう?
だから、妃教育を受けているのではないのですか!!?」
「はぁ?!」
弟の言葉に、思わず令嬢にはあるまじき声を上げてしまった。
妃候補ってなに?まったく聞いてないけれど。
妃教育についても、両親からは
「うちが妃になれるなんて思ってないけど、覚えといて損はないからねぇ」
程度だった。
だから弟が何にそんなに怒っているのかもわからない。
「この間のお茶会で、姉様が僕を令嬢たちの中に見捨てて逃げた時、みんな言うんだ。
“兄様の弟”と。彼女たちは、僕じゃなくて僕の後ろに兄様を見ているんだ。たしかに
兄様は僕から見てもかっこいいし、やさしいし自慢の兄様だけど、だれも僕なんて
眼中にない感じで。だから、終わった時ほっとしたのに、絶対僕よりダメだと思ってた
姉様が第二皇子と親交を深めていたって聞いた時、僕だけ何もできていないと思って。」
アークライトは、いつもより早い口調で一気に話し終えた。
が、“見捨てて逃げた”だの、“ダメ”だのちょっと聞き捨てならない言葉がいくつか
聞こえてきたのだけれど。
まぁ、それは後々問いかけるとして・・・
弟の考えとしては、
兄は、帝国騎士団団長子息としての頭角を現してきていて
親の期待も、周りの貴族の期待も大きい。
貴族の結婚は家の為でもあるため、このままいけば兄はお嫁さんを選り取り見取りだ。
家格が上の家と縁続きになれる可能性も高い。
そして私は、普段の行いから弟は自分より出来が悪いと思っていたようだ。
失礼な!勉強やマナーは上の下くらいはできているのに・・・。
その私が、まさかの第二皇子と知り合ってきて、王家との縁もできるかもしれない。
そう思ったら、自分だけ何も家の力になれていないと焦り、すねたわけだ。
「まったく、そんなに自分を追い詰めることじゃないでしょう。」
「だって・・・」
「それに目標もなく、ただ闇雲に何かしたって、得られるものは少ないわよ?」
「目標ですか?」
「そう。自分はどうなりたいか、どういう職業に就きたいか、でもいいわ。」
私の言葉に顎に手を当て考える素振りでしばらくたってから弟は目線を合わせてきた。
「僕は、将来兄様が王都でお仕事するにあたって領地経営をサポートしたいです。
でも、大切なものを守るだけの強さも欲しい・・・。わがままですか?」
最後の方は自信なさげに目線を下に下げたのち、ちらりと上目遣いで私を見てくる。
私は前のめりになり、弟の手を両手で包んで笑いかけた。
「いいえ。どちらも欲しいならば、どちらも手に入れる努力をすればいいの。」
「姉様も、目標があるのですか?」
弟が、包まれた手を気恥ずかしそうに見ながら問いかけてくる。
私はもちろんというと、椅子から立ち上がって仁王立ちになり、
右手で握りこぶしを作って、その手を高らかに上げた。
「私は、戦女神になるわ!!」




