幼少期2
帝国庭園は、庭というレベルではないほど広い。
あちらこちらにたくさんの花が植えられていて、花壇と花壇の間が通路となっており、
背の低い子供達からするとちょっとした迷路のようだ。
真ん中の開けた場所に立食形式でテーブルが配置され、
貴族のご婦人だけでも50人くらいいるだろうか。
さらにその子供たちもいるので、100人以上いるわけだが、
それでも狭く感じない広さのある場所だ。
庭園自体は、まだまだ奥があるようで、どれだけ広いか未知数だ。
あっけにとられている私の背中をそっと母が押した。
思わず立ち止まってしまっていたらしい。
「フェリア、お口開けたまま固まっていると、虫さんが入ってしまうわよ。」
くすくすとかわいらしく母が笑う。
そうか、口も開けてたのか・・・。
早速令嬢としてやらかしたのだが、母はあまり気にしていないようだ。
「皇太后さまへご挨拶に伺ったら、あとは好きにしていいみたいだからもう少しだけ我慢してね。」
皇太后さまは、白の混じり始めた金髪でとてもやさしそうな笑顔で私達を迎えてくれた。
母は私達を軽く紹介した後、皇太后様にそのままつかまった為、私達は今会場を自由に歩き回っている。
歩き始めてすぐにアークはご令嬢方につかまってしまったので、
今は一人で散策中だ。
肉食系女子に囲まれ助けてほしそうな目をしていたが、そこは気づかないふりで。
いつも余裕ある態度の弟がうろたえている姿なんてめったに見れないし、堪能しなきゃね!
テクテクと歩いていたら、よっぽど奥へと入り込んでしまったらしい。
こういう時、地図アプリとかあると便利なのだが、あいにくこの世界に電子機器はない。
「あ~、携帯ほしい。」
何気なくつぶやいた一言。
誰に聞かれてもどうせ何のことだかわからないだろう。
気を取り直して、歩き出そうとしたとき、急に腕を後ろに引っ張られた。
驚いて振り返ると、私より少し年上の茶髪・オレンジの瞳をもつ少年が
こちらもびっくりした顔をして私をみていた。
「お前今なんていった?」
「??」
「携帯って言わなかったか?」
少年の言葉に今度は私が固まった。
もしかして・・・
「無料動画サイト、音楽配信サービス」
「音楽は俺はCD買う派だ!」
「同じく!!」
この瞬間、二人はがっちりと握手を交わした。
魂の同志である。
「俺は、ウィズレイ・トリハルトだ。お前は?」
「リドル辺境伯が娘、フェリアで・・・え?トリハルト?」
「大丈夫、第二皇子だ!問題ない!!」
何が大丈夫で、何が問題ないのかはさっぱりわからなかったが、
ウィズレイはにこやかに親指を突き出して笑ったのだった。