プロローグ2
本来は綺麗な金色の髪が、土や埃で汚れ、傷ひとつなかったであろう肌は、擦り傷があちこちについていた。
でも、エメラルドのような翠の目だけは、まだ全てを諦めていなかった。
「ローズウェル公爵令嬢、エリシア様とお見受けします。時間がないので簡潔に聞きます。このまま無実の罪で囚われて罪人となるか、私と一緒にくるか、選んでください。」
私は、努めて冷静に彼女に話しかけた。
彼女は、一度驚きに目を見開いたが、すぐに私の方へ走りよってきて鉄格子をつかむ。
「連れていってくださいませ。わたくしは、なにもしておりません。」
私は彼女を牢獄から出すと、彼女の髪を肩口でバッサリときり、牢のなかにばらまく。
さらに、持ってきたビンに入った赤い液体を牢の中にぶちまける。
「それはなんですの?」
彼女は袖口で鼻と口を覆い、臭いに顔をしかめている。
「豚の血。これを撒いて、あなたの髪を散らしておけば、殺されて遺体が持ち去られたと思ってもらえるでしょ。」
手早く作業を終え、彼女を連れて地上へ急ぐ。
地上への扉に手をかけたとき、外側から扉が開かれ警備兵の男と目があった。
しまった、と思ったときにゴン!!と言う音と共に兵が白目を向きその場に崩れ落ちた。
「おそい。」
倒れた兵の後ろに現れた、黒ずくめの男に私は睨み付けながら呟いた。
男は、顔の前で小さく手を合わせ、ゴメンゴメンと軽くいうが、絶対悪いって思ってない。
倒れた男を避けて地上へ出ると、後から出てきた彼女に男はすぐ外套を被せた。混乱中の屋敷裏手から三人で抜け出し、近くにつないであった馬二頭に男と彼女、私に別れてのり一気に領主館を後にした。
背後では積み荷に引火したのか、港で何回か爆発音が響いていた。
途中休憩も取らず一気に駆け抜けたせいで、目的地についたときには、暗かった空が少しずつ白みはじめていた。