007 桑原の失敗(後編)
(桑原視点)
第三工作所から工藤に黙って取得した技術を桑原が登録した場合は、怪しまれる可能性があると考えて数社の取引先に出所を伏せる形で技術を流す事にした。
取引先は高価で情報を買い取り、桑原義肢製作所始まって以来の売り上げになった。
そして、データの依頼が来てから一年が経過した。
その間に、情報をリークした取引先が多くの技術特許を取得してさらに桑原義肢製作所の売上が伸びていった。
「『データ』が何処の誰だかわからないが、新技術は登録を先にしたもの勝ちだな」
去年に比べて10倍程の規模になった桑原義肢製作所の経営情報を事務所で見ながら第三工作所の進捗が気になった。
調べに行く事にした。
第三工作所の側まで来ると、工藤と誰かの話し声が聞こえてきた。
「誰か来ているのか? 電話?」
こっそり覗くと電話のようだ。
内容は、義肢に関する開発に関しての意見交換であったが、相手が『データ』だったので驚いた。
話に夢中で工藤が私に気がつかないようだが、工藤の横には全身義体が2体出来上がっていた。
話が弾んでいる為か、なかなか電話が終わらないので工藤に確認せずに黙って、また夜に第三工作所へ忍びこもうと考えて事務所へ戻った。
事務所に戻ると見慣れない大柄の外人が2人いた。
ビジネススーツを着こなすエリート風の外見だった。
仕事の依頼だろうか?
「桑原義肢製作所の桑原さんですか?」
桑原をみると外人が話しかけてきた。
「はい。どのようなご用件でしょうか?」
「お前が、犯人か?」
男がそう言うと、顔面を殴ってきた。
避ける事も出来ず桑原の意識はなくなった。
目が醒めると暗い倉庫の様な場所に、椅子に縛られて座らせられている。
殴られた際に鼻血が出たらしく固まった鼻血が顔に付いている。
「やっと、目が覚めたか? ちょうど良いタイミングだな。今調べ終わったところだ。これはお前の物だな?」
大柄の外人二人が、半年前に第三工作所から情報を引き出した際に使用した情報端末を調べて質問してきた。
「こんな事をして良いと思っているのか?」
バッキ!
男に再び顔を殴られた。
「黙って質問に答えろ」
「う……私のだ」
「中の情報をどこから手に入れた?」
「俺はどうなるんだ?」
バッキ!
男に再び顔を殴られた。
「黙って質問に答えろ」
「とある顧客が依頼してきた物の情報だ」
「それは誰だ?」
「俺もわからない。身元不明な顧客で金回りは良かったので身元不明なまま仕事を受けた」
「本当か? 顧客の情報をお前は他社にリークしたという事か?」
「そ…そうだ……」
「お前の処分をどうするかだな。お前がリークした情報は、大国の軍事機密だった。多くの技術が流出してしまった。この責任をとる必要があるのはわかるか?」
「確かにそうかもしれないが、俺の会社に依頼した依頼主が悪いのであって、俺の会社で製作した資料を他社に売っただけだ。特許も先に取得している。契約にも使用した技術は俺の会社に権利があるとして契約している。文句を言われる筋合いはないはずだ」
「お前がリークした情報は、我が国が開発に多額の資金をかけて開発したものだった。だが、そこまでは情報漏洩で済んだかもしれないが、実はこの話には続きがある」
「続き?」
「開発していた技術のうち七件が、お前によって公表されたと言えるのだが、実際はゼロ件なんだ」
「どう言う事だ?」
「お前がリークした情報は、未完成であったにも関わらず、改良されて完成品としてリークされていた。我が国でも数年はかかる開発をお前が技術を盗んだ顧客が既に開発していた事になる」
「そ…それって?」
「顧客がとんでもない人物か組織と言う事になる。廃人になってしまうかもしれないが、すべてはなしてもらうぞ」
男が注射器を取り出し、桑原に注射した。
「強力な自白剤だ。嘘はつけないようになるが、自我が崩壊する。普通の生活は出来なくなるが、お前がしでかした事はそれ以上の事だった」
初めから『データ』が胡散臭いと思っていたが、まさかここまでの事件に巻き込まれるとは、失敗した。
桑原は後悔しながら意識を失った。
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