005 データの謎
(工藤視点)
テゥルル……テゥルル……
雫専用の製作室である第三工作所に電話の音が響いた。
「うざー。ここに電話かけて来る奴って誰だよ!」
内線と違い外線の甲高い呼び出し音を聞いて雫が愚痴をこぼす。
テゥルル……テゥルル……
ガチャ!
「はい、桑原義肢製作所。第三工作室です」
『データです。進捗はどうでしょうか?』
電話に出て雫は驚愕した。
ここ一年ほど連絡はメールだけのやり取りをしていて、突然の電話である。
雫にとってこの一年は、予算も技術資料も無制限の夢の様な開発と製作の時間だった。
何か致命的な失敗をしてしまったのだろうか?
最近の自分の行動を振り返る。
「え!? データさん? 進捗って? あ!すみません僕がこだわった人工皮膚の繊維改良で遅延してるのを怒ってますか?」
『そんな事では怒らないよ。逆に品質の向上で嬉しいぐらいだ』
「ほ、本当ですか! では、この電話はどうして?」
『メールばかりでは、連絡がしづらいと思ってな』
「そ、そんな事は無いですよ! メールで返信したらすぐに返事が来ますし問題はないです。でも、声が聞けて安心しましたよ。今まで、人間じゃない存在とやり取りしてるのかと不安になってましたから」
『そんな訳は無いですよ。じゃ今後もよろしくお願いします。何かあれば今表示されている電話番号にかけてください』
ツー…ツー…
どうやら、データが突発的に電話をかけてきただけのようだった。
それにしても、データの声が男性か女性かすらわからなかった。
合成音には、感じなかったが何か違和感を感じた。
だが、透き通る綺麗な声だったなぁ。
一年前に『データ』からの依頼を受けて多くの謎が生まれた。
メールのやり取りの際のデータの宛先。
送信先がないデータのメールに返信すれば届く謎。
メールを返信して、数秒で返事が来た際の資料の多さ。
数秒で用意するなど不可能であるが、実際は可能にして返事を送り出してくる。
開発している義肢に関しての予算。
既に億を超えて物凄い金額が入金されている上に、上乗せしても即時に入金してくる。
データから送られてくる義肢を稼働させるシステムに関しての技術資料も謎である。
世界に公表されていない新技術が目白押しなのだ。
「今まで謎だらけで済んだけど、これは謎じゃなくておかしいだろ」
今表示されているナンバーディスプレイに映されている着信履歴の番号は、今まで見た事がない番号だった。
文字化けしたアルファベットや記号の羅列なのだ。
電話の機能で電話帳に登録したが、文字化けは治らなかった。
登録された電話番号を押せばデータへ電話がつながると言う事なのだが、地域の限定すら出来ない。
そもそも、こんな電話番号を電話会社が割り振るとは思えない。
ここに来て一つの可能性を考える。
「データさんは、政府の関係者で極秘開発なんだろうか? だが、そうすると技術スタッフとして桑原製作所と契約すれば良いだけだ。うむぅ、分からん!」
雫は、ボソッと独り言を言ったがデータの謎に関して考えるのをやめて、電話での会話が可能になったデータと何を話そうか考えながら義肢制作に戻っていった。
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