004 音声での接触
(データ視点)
インターネットの世界ではなく外に出たい感情を満足させるべく『データ』である私は、桑原義肢製作所に自分の身体の製作を依頼することにした。
人間を観察すると排他的な敵愾心が多い考えの人間が多かった。
その為、私自身の存在が人間達に知られてしまったら、人間達の研究対象になってしまったり削除されてしまう危険性を考えて極秘裏に実施する予定である。
実験的にネット上の掲示板で、さまざまな人間と人間の真似をして接触して学習してきた。
SNSにも参加して、誰も自分が人間ではない事に気が付かない事から自信もついてきたところで依頼を開始した。
音声認識ソフトや自動読み上げソフトなど様々知識を学習したが、どうしても音声が合成音に近く人間っぽくならなかったので、人間らしい合成音を私のバックアップである『データ』の分身たちにバックグラウンドで研究させる事にして電話などではなく今回はメールで依頼することにした。
桑原義肢製作所に連絡すると、すんなり見積もりが送り返されてきた。
身分を明かしてほしいなどの要求があったが、物を買う際に身分提示の義務があったのか調べると義体に関してはそのような法律はないようなので無視した。
見積もりの金額は、人間としての価値観がないので高いのか安いのかわからないが銀行のセキュリティーシステムにアクセスして、入金することにした。
各国の銀行の処理で、計算上で四捨五入を必要とする処理の誤差の累積を利用して「銀行丸め」による利益の一部を銀行側にバレない様に利用して桑原義肢製作所に入金した。
多くの義体の動作に関する技術資料や希望を聞いてきたが、どこに依頼するか悩んだ際にあった大国の軍事用ロボットの極秘資料を利用して、私の担当者になった工藤雫という人間に提示していった。
メールでやり取りをしていて、雫の事も理解してきた。
人間には性別があって、女性という個体である。
技術力は高いが性格に問題あるようで私が要求したものではなく、勝手に更に改良して行くようだ。
義肢の完成度が下がるのではなく上がって行く方面のトラブルの為、特に問題はないので雫の事を防犯カメラで観察して行く事にした。
一年ほど経過して、バックグラウンドで私の分身に作らせていた私の声が完成した。
完成度は高く、SNSやラジオチャットなどで試したが、誰も合成音である事を気がつかなかった。
初めて雫と電話回線を利用してメールではない会話による接触を試みる。
緊張するという表現が人間にはある様だが、私の思考もそれに当てはまるのかデータベースに対しての検索速度が低下している気がする。
テゥルル……テゥルル……
ガチャ!
「はい、桑原義肢製作所。第三工作室です」
『データです。進捗はどうでしょうか?』
「え!? データさん? 進捗って? あ!すみません僕がこだわった人工皮膚の繊維改良で遅延してるのを怒ってますか?」
おや? 私も緊張しているが雫も緊張しているのだろうか? いつも盗聴している声より声が高い。しかも突然の電話で驚いたようで、見当違いの話をしている。
義肢の質感をあげる為の人工皮膚の改良は、褒めてあげる事であって怒ることではない。
『そんな事では怒らないよ。逆に品質の向上で嬉しいぐらいだ』
「ほ、本当ですか! では、この電話はどうして?」
電話は私の人間の世界、いや外界へのデビューの一段階目で実験的なものであったので回答に躊躇してしまう。
『メールばかりでは、連絡がしづらいと思ってな』
「そ、そんな事は無いですよ! メールで返信したらすぐに返事が来ますし問題はないです。でも、声が聞けて安心しましたよ。今まで、人間じゃない存在とやり取りしてるのかと不安になってましたから」
う! 怪しまれていたのか?
電話して良かった。
どの辺から怪しまれていたのだろうか?
これ以上会話すると危険かもしれない。
早々に一度切ってから、考えよう。
『そんな訳は無いですよ。じゃ今後もよろしくお願いします。何かあれば今表示されている電話番号にかけてください』
ツー…ツー…
とりあえず雫との音声での初めての接触は成功のようだな。
次回も怪しまれないように、人間らしさを研究していこう。
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