002 桑原義肢製作所
(桑原視点)
カチ! カチ!
桑原がマウスを操作してクリックする音が事務所に響く。
仕事のメール処理をしているのだった。
桑原義肢製作所は、有名な義肢制作会社である。
多くの事故や病気で失った体の一部を製作してきた。
昔は機能の改善が優先で見た目は悪かったが今や技術の進化に伴い、外見では区別できない程の義肢を作り出し多くの人々を助けていた。
桑原はそこの所長であるが、殆どのスタッフは技術職であって事務などは一人で担当していた。
「なんだ?」
会社の依頼メールの中に、不可解なメールが着ていた。
「全身の義肢を作成して欲しい? 手足はわかるが、顔、目、鼻、耳……胴体!?」
人体の至る所の義肢製作依頼が詳細に書かれていた。
「イタズラか? とてもじゃないが金額もあり得ない金額になる。悪質だな」
メールを削除しようとして、メールの詳細情報を確認して手が止まった。
送り主が『データ』となっているのだが、ありえないのだ。
通常は、ドメイン登録されているメールサーバーのアドレスか、数字で構成されたIPアドレスがなければメールが送受信できない。
だがこのメールには送り主の名前だけで、その情報がない。
誰かがこの端末に直接アクセスしてメールを置いたことになる。
「ウイルス? 社内の誰かの悪戯? それにしてもおかしい。返信してみよう」
何故か送り主の情報がないメールに返信して届くとは思わなかったが、本当にメールの内容を実施するなら必要な金額を予測して、その数倍の金額を吹っかけて記入して返信した。
「余裕で億を超えたが、自分で書いて笑ってしまう」
何をしてるんだろうと思いながら、次のメールを開こうとするとすぐに返信があった。
ピロン!
また、送信元が不明な『データ』からであった。
「へ!?」
即時に返信があった事と内容を見た瞬間に驚いて奇声をあげてしまった。
返信した見積もりを書いた金額で受諾した事と、入金先を求めている内容で先払いと書かれてた。
その上、製作段階で経費が増えた場合も上限無しで先払いで支払うなど、あり得ない程の好条件だった。
「なんなんだ? 『データ』って? 先ずは、何処の誰かハッキリしてもらわないと怖くて契約できない」
実際に仕事を受けた際の入金先と『データ』の身元を明かしてくれる事と期限などを質問形式で返信した。
ピロン!
即時に返信があった。
開いた内容を見て更に驚く。
「入金済み…… 」
すぐさま入金先を調べると吹っかけた金額が入金されていた。
「冗談や悪戯ではなかったのか!」
しかし、メールを送ってきた『データ』と言う人物の情報は記載されていなかった。
顧客の情報を伏せて取引する事は多いが、ここまで謎の人物の依頼を受けて良いか迷ったが、先払いで入金されている事と完成品の引き取りの際に依頼主と会えると考えて受諾した。
「金は多いぐらいだ。引き取りに来た際にメールの謎は聞きたいところだな。さて、どんな人物が来る事やら」
桑原義肢製作所では、顧客に対して一人の専属スタッフを担当させる。
顧客とのトラブルが多いが、腕は社内で一番良い工藤雫を担当に当てることにした。
この事で、工藤雫の運命は大きく変わる事になる。
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