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「……ともかく、なるだけ政治に関わるな、ということは分かった」
養父が現皇帝に目を付けられていたなら、私も危うい。関わる気はさらさら無いが、注意した方が良いだろう。
「で、肝心の学校は、どこに入ることになるのだ?」
「そういえば、まだ話してなかったね」
ランタンは立ち上がり、執務机の上から何か紙を取って、私の前に来てまたしゃがむ。
「テストの結果はかなり優秀だね。ほぼ満点。一番低い歴史Ⅲでも、九十二点だ。これなら、高等部で確定だね」
「そうか」
ということは、三年学校に通えば、戦場に帰ることが出来るのか。ほっとしていると、ランタンはその紙を私に手渡し、とても残念なことを言った。
「ただ、貴族となるには、色々マナーを知らないといけないからね。放課後、初等部でマナーの授業を受けることになるだろうね」
十五にもなって、年齢一桁の子達に混ざって授業を受ける覚悟は決めていたけれど、いざそれを突き付けられると、辛いなあ。なんとか肩をすくめるだけに留めて、答える。
「まあ、初等部に入ることも覚悟していたからな。むしろ良い塩梅だろう」
「そうかい? 君は強いんだね」
言われた意味は分からなかったけれど、一応褒められているらしいことは分かった。安心していると、ランタンはとんでもない爆弾を落としてくれる。
「ああでも、確か、今年高等部には皇太子殿下の長男さんが入学する筈だねえ」
おい。
つまり、私の養父を戦場に追いやった奴の孫が同級生、ということか?
「ちっとも安心出来そうにないな」
げんなりしていると、ランタンは笑った。
「ハハハハ。大丈夫だ。皇太子殿下は現皇帝陛下とは似ても似つかない常識人だから。その長男さん、オリバー殿下は馬鹿殿らしいし、そんなに心配は要らないよ」
帝国の王室の男系は、皇太子になれば権力があるけれど、それ以外は権力を持たない。精々、貴族が派閥争いの看板に使うだけだ。と、一般常識と法規の勉強で覚えた。つまり、オリバー殿下が馬鹿殿であろうと、変な貴族がでしゃばらない限り、何の影響も無いのだ。
それでも安心出来そうにないと感じるのは、傭兵の勘か。
「……まあ、良い。とりあえず、私は貴族学校の高等部に入学し、放課後は初等部でマナーを学ぶ。それにお金の心配は無い、ということが分かれば」
「うん、そうだね。では、今の私の側の時間も無いことだし、ウィスプには学校入学まで私の家に来て貰うね」
……全く、この老人は。私を驚かさねば気が済まないのか?
「それは、何故だ?」
「ひとつは、君の養父の話を聞きたいのもあるけれど、それ以上に、貴族になるとマナー以外に覚えることが多くあるからね。特に派閥関係なんて、学校では教わらないし」
「つまり、それを教えるため、と?」
「端的に言えば」
そこに嘘の色は無い。九割方善意から言ってくれているようだし、信用するか。
「分かった。貴方の家の世話になろう。ただ、行く前に、宿をキャンセルしたいのだが」
「それも手配しよう。何て宿だい?」
宿の名前と区画を告げると、ランタンは眉をひそめた。
「あまり治安の良くない区画だね。ウィスプ、君は自分を大切にしないと」
「? スリや強盗は金蔓になるし、便利では?」
正直な感想を述べると、ランタンは深ーいため息をついた。
「はぁー……。君は、貴族関係以外にも一般常識を覚えて貰わないとね」
「入学試験用の勉強はしたぞ?」
「それ以外のところだよ」
「はあ……」
良く分からないけれど、色々教えて貰えるみたい。
「ありがとう、と言った方が良いか?」
「そうだね、その辺りも覚えていこうか」
ランタンはまた笑った。
章の切れ目まで書けているのは、個人的に評価したい。
ただ、大まかな話の流れ位は決めておくべきだった。