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「話は変わるけれど。ウィスプ、君が『O(オー)』の名を継いでいる、ということは、『導きの炎』を継承したんだろう?」

 ああ、本当にこの人は養父の関係者なんだ。私は何だか嬉しくなり、気を抜いてしまうことにした。

「しているが、見せた方がいいか?」

「一応言っておくと「そう簡単に他人に見せてはいけない」……。分かっているならいいんだ」

「なに、貴方は本当に養父の関係者なんだと確信したからだよ」

 そう言うと、ランタンはニッコリと笑った。

「そうか。なら、見せて貰えるかい?」

「ああ。【拘束術式五番】解除」

 途端、右の視界が歪み、全ての物体の何処かに青い点がボウと浮かび上がる。

「……うん。綺麗な炎だね」

 ランタンは悲しみの感情を抑えた笑みを浮かべる。

(本当に、養父と仲が良かったんだ)

 でなければ、こんなにも悲しめまい。

 一度だけ、養父の最期に【拘束術式】の解除された右眼を見たことがあるけれど、眼孔の中で青白い炎が燃え盛っていて、気味悪さと美しさが同居しているものだった。

「うん、良いよ」

「【拘束術式五番】発動」

 視界が元に戻ると、ランタンはようやく本題に入り出した。

「さて、『中央教育庁令二二七号』だったね。あれは、将来貴族の後継者になる可能性のある人物が公立学校入学試験を受けた時、貴族学校に入れる選択肢を与える、というものなんだよ」

 私は思わず硬直する。つまり、私は将来貴族になり得るのか?

「……ち、ちょっと待ってくれ。私はただの平民だ。貴族ではない」

「でも、『導きの炎』を継承しているね」

 必死に考えた言葉は、ランタンに切って捨てられる。

「『導きの炎』はね、当代の『ウィル・O・ザ・ウィスプ』直系の子孫でないと、基本的に継承出来ないものなんだ。それ以外だと、継承出来るのは十億人に一人、と言われているね」

 因みに、現在の人口は二億人ちょっとなので、現実的に考えて『導きの炎』を『ウィル・O・ザ・ウィスプ』の直系以外に継承するのは不可能、ということだ。

「そして、『ウィル・O・ザ・ウィスプ』はある種の『大量破壊兵器』だ。それを国が管理する以上、優遇するのは当然だと思わないかい?」

「……つまり、私が貴族になる、というのは決定事項なのか?」

「そう思ってくれて構わない」

 ランタンは断言した。

「貴族、か……」

 ただの傭兵の養女だと思っていたのが、貴族になる。理解出来ない、というより、想像が付かなかった。

「そう、貴族」

 ランタンは説明を続ける。

「貴族になると、平民以上に覚えなければならないことが増える。だから、私としては、貴族学校に入学することをお勧めするよ」

 まあ、妥当なところだろう。噂によると、貴族学校とは、普通の教育に加え、貴族として必要最低限のことを教育して貰える教育機関らしい。私が貴族になることが確定な以上、貴族学校に行くのは、良い選択肢と言えた。

 ただ、問題がひとつ。

「学費、どうしよ……」

 貴族学校は、一応平民も入ることが出来る。出来るけれど、その学費は普通の学校の五倍から十倍は見た方が良いらしい。普通の学校の初等部から高等部の学費をひいこら言って貯めた程度では、貴族学校なんて行けやしない。

 借金か、また戦場行きか。頭痛に顔を歪ませていると、ランタンは「大丈夫」と言った。

「君が『ウィル・O・ザ・ウィスプ』であることは間違いないからね。で、『ウィル・O・ザ・ウィスプ』には国から給金がたっぷりと支払われることになっているんだ。貴族学校の学費位、なんてことも無いよ。その代わり、従軍の義務を負うけれど……」

「従軍なら構わないんだが……」

 怪しい。そんな簡単な条件でそんな大金が貰えるなんて。

 怪しんでいると、ランタンは苦笑する。

「言っておくけれど、普通君くらいの子が、戦場に行く、となれば泣き叫ぶものだよ?」

「そうなのか」

 前世暮らしていた国は戦争とは無縁だったし、今世はずっと戦ってきていたから、普通の感覚が分からない。これは今後も問題になるだろうなあ。

「ん?」

 何かが引っかかったので、腕を組んで考え、尋ねることにする。

「『ウィル・O・ザ・ウィスプ』は従軍の義務があるんだよな? 戦場には正規の兵士として行くのか?」

「そうだよ?」

 ならおかしい。

「それなら、どうして養父は『傭兵』だったんだ?」

 ランタンは私の問いに、表情を歪めた。

「簡単に言うとね、政争のせいだよ」

 話したくないのだろう。それでも、彼は説明してくれる。大切なことだから。

「君のお父さんはね、政治家としての頭角も見せ始めていたんだ。兵器が権力を握ることを恐れた連中が、無いこと無いこと言いふらして彼を失脚させ、死んだことにしたんだ。大体四十年前のことだね」

 結構昔だな、と思いつつ、疑問を端的にぶつける。

「死んだこと?」

「そう。実際私も、君に会うまで、彼が生きていたとは知らなかった。くれぐれも、彼らには気を付けるんだよ?」

「……その、養父を失脚させたのは?」

「現皇帝」

 私は、絶望からかめまいに襲われた。

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