表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

4

「なにせ、君は大切な客人だからね」

 そう言った老人に、私は思い当たる節がなく、内心困惑する。

(客人? まあ、呼びつけたのはこいつ、っぽいから、それもそうか)

 すぐに納得し、尋ねることにする。

「そうか。ところで、あの呼び出しの書類に書かれていた、『中央教育庁令二二七号』とは一体何だ? 私は、ただ公立学校への入学試験を受けただけなのだが……」

「ああ、それね」

 老人は何でもない、といった風に言ったけれども、目つきは真剣だった。

「それは本件で一番大切なことだから、早速確認しようか」

 こいつは面倒な人間だ、と思った。無茶な命令を出す軍人と空気が似ている。警戒レベルを上げよう。


「ところで、君の本名は?」


 ……と思った矢先にこれか。気合いを入れてかからないと。

「それは、家訓により親しいもののみに話すことが出来るので。貴方とは初対面で親しくないため、教えることは出来ない」

「……失礼。私は、『O(オー)』の一族だ」

「? それが何か?」

 途端、老人から失望の色と殺気を感じる。それに釣られて、執事も戦闘モードに入りかけている。

(厄介な……)

 殺せないでもないけれど、殺せば面倒になるだろう。相手は仮にも『庁長官』なのだ。

「お父さんから聞いてないのかね?」

「養父は無口だったからな。戦い方位しか教わってないよ」

 今度は、失望の色が消えた。これは、希望?

「……そうか、君は養い子なのか。その、お父さんの名前は?」

「ウィルだ。フルネームは教えられないが、な」

「いや、分かったよ」

 ここで老人は一旦言葉を止め、中々衝撃的なことを続けた。

「ところで、君とお父さんのフルネームは、『ウィル・O・ウィスプ』と言うのじゃないかね?」

(何者だこいつ……?)

 背筋に冷や汗をかき、いつでもナイフを抜けるよう少しだけ右腕を後ろに下げる。

「……中々良い線を行っている、とだけ」

「そうかい、安心したよ」

 老人はほっと息を吐き。

「これで、君を処分する必要が無くなった」

 一瞬で殺気が無くなった。

(……は?)

 執事も戦闘モードを解いてニコニコ顔だし、老人は何か涙を堪えているし。

(良く分かんないなあ……)

 状況が全く分からず、困惑していると、老人は立ち上がり、執務机のこちらから見た左手側を通り、私の目の前に来る。

(背、高っ!)

 百八十センチはあるだろう。私の身長は去年の春測った時百三十センチだったので、かなり差がある。

(見上げるのがしんどい……)

 そう思うと同時、老人はしゃがんで私と視線を合わせ、泣きそうな笑顔で告げた。


「改めて、『ウィル・O・ザ・ウィスプ』さん。私は『ジャック・O・ランタン』だ。ランタンと呼んでくれ」


 名前がバレた。

 途端反射的にナイフを抜きそうになるも、ギリギリ押し留まる。殺してしまったら、後が面倒だからだ。

 喉が渇く。血の気が引きそうになる。めまいがする。必死にこらえて、何とか言葉をひねり出す。

「…………どうして」

「ん?」

「どうして、名前が分かった?」

 それだけ言うと、老人、ランタンは、「本当に何も聞いていないんだね」と苦笑した。

「私は、君のお父さんの従兄弟でね。兄弟同然で育ったんだよ」

「……その割に、年老いて見えるが」

「良く言われるよ。これでも、六十になったばかりなんだけどねえ」

(こんな年老いた還暦がいるか)

 混乱しつつ、眉尻を落としたランタンに、何だかどうでも良くなった。こんないつでも殺せる奴に、無駄に緊張し過ぎだ。

「ということは、養父の兄貴分だったのか?」

「そうだね。でも、彼は出来が良すぎてね。そのせいで周りから酷くプレッシャーをかけられて。……そこで手を打っておけば、彼はまだ私と共に働けたんだけどなあ……」

「それだと、私は死んでいたから、むしろ感謝すべきだな」

「お? 彼との出会いかい? 聞いても?」

「あまり気分の良い話では無いぞ?」

 そう前置きし、ランタンが頷いたのを確認してから話し出す。

「一歳を少し過ぎた頃だったか。当時住んでいた村がピッグマンに蹂躙されてな。家族も、村の仲間も殺されて、ひとり嬲られていた時に、養父に助けられたんだ」

「それは、中々ハードだね……」

 顔色を悪くするランタンに、私は「良くある話だ」と言う。

「その時内臓が幾つか駄目になったせいで、彼に私の子を抱かせることが出来なかったのは、本当残念だよ」

「……ウィスプ、君確かまだ十五歳だろう?」

「ん? 銃後では十三歳位から子供を産むのは普通だと、傭兵仲間から聞いていたんだが?」

「……それは一部地域だけだよ。普通妊娠するのは十八歳になってからの話。というか、君、子を成せないのかい?」

「? ああ、そうだ」

 そう言うと、ランタンは頭を抱えた。空気に徹していた執事の表情も見るに、結構な問題のようだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ