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前世でハマっていたゲームのBGMを脳内再生しながら、突撃してくる敵を打ち抜いていく。あのゲーム、アップデートの度良くクソゲー化したけど、音楽だけはいっつも凄く良かったなあ。なお現実は前世も今世も常にクソゲーな模様。
目の前では、地平を埋め尽くさんばかりのピンク色の津波が接近してきている。人類の敵、『モンスター』の群れだ。
(全く)
クソみたいな生き方だと思う。敵の命を奪うことで金とし、その金で生きるなんて。でも、私は、育て親との約束を果たすため、多くの金が必要なのだ。
タアンッ、と愛銃が咆哮する。ボルトアクション方式に金属薬莢という『最新型』の魔道銃『マイスター二八九五』は、狙い違わず敵である『ピッグマン』の豚頭を打ち抜いてくれる。お陰で仕事が楽だ。前まで使っていた『バトー二六式』なんて、いちいち銃口から弾丸を詰めないといけなかったし、集弾性最悪だからこの距離だと狙っても五割は当たらなかったし。
やっぱり、命を預けるものは良い物にしないといけないね。弾薬費が安いからって、ケチるんじゃなかったよ。一年前の私良く買い換えた、と自分で自分を褒める。
「撃て! 撃てぇ!!」
「クソッなんて数だ!」
「砲兵はまだか!?」
同僚の傭兵達が五月蝿い。いや君達口より手を動かそうよ。塹壕に身を隠し、ボルトを解放して弾を込める。五発しか入らないって銃としてどうなのよ、と思わないでもないけれど、この世界では銃はまだまだ発展段階なのだ。文句は言えまい。
塹壕から乗り出し、狙いを付けて射撃。このだだっ広い平原では、その気になれば豚頭を三キロ程先で撃ち抜けるけれど、残念なことに敵は一キロ程先まで迫っている。ここまで来ると、撃てば当たる、といった感じだ。
(今朝支給された弾薬は三十。今までの残りと合わせて、戦闘が始まった時あったのは四十七発。で、装填していないのが十五発で……。今撃ち切って装填したから、残り十五発)
ようやく射程に入ったので、一筋後ろの塹壕から迫撃砲がポンポンと放たれ始め、豚頭を荒れ地の肥料にしていく。
(土砂が邪魔で狙いが付けにくい)
内心で迫撃砲を撃っている連中を罵倒しつつ、土砂を抜けてきた勇敢な豚の頭を撃ち抜いていく。
(っと装填……。残り五発)
「弾をくれー!」
胸元のマイクへ怒鳴り、その結果を見ることなく射撃。すぐに弾はなくなってしまう。
(少し過熱してきている。連続で撃つならあと十……、いや五発にしとくべきか)
白兵戦が迫っているので、本当はしたくないのだけれど。
「はー……」
ため息をつき、『魔術』を発動する。
「【銃身冷却】」
育て親から教わった魔術は、過熱していた銃身を痛めることなく熱だけ奪い、代価として私の魔力をたっぷり半分は持って行った。
「くっ」
急激に魔力が減ったことで、立ち眩みに襲われる。根性で耐えていると、主計課の小間使いのガキがキラキラした目で弾を持ってきた。
「ウィスプさん! 弾薬三十発持ってきました!」
「ちゃんとマイスターの七.六二ミリだろうな!?」
「もちろんです!」
ガキが差し出した弾薬は、確かにマイスター規格の七.六二ミリのものだった。
「ありがとう。そろそろ白兵戦の時間だ。下がれ!」
「はいっ!」
ガキは目をキラキラさせたまま下がる。私は苦いものを感じつつ、弾を装填して塹壕から頭を出す。
(距離は……七百メートル。迫撃砲のお陰で敵の進みは遅くなっている。あと五百近付かれたら白兵戦に移行しないと……。装填)
白兵戦となると、ナイフの出番だ。残念なことに、この世界の銃剣は未だ信用性が低い。前世の日本のたっかい包丁の方が頑丈な程だ。なので、この世界では、兵士や傭兵は銃の他に剣も持つのが普通だ。
ただ、私の場合、育て親の教育方針のせいで、近接武器の獲物はナイフだ。今世は女で非力な上、小柄なのでその方が扱い易い、との判断らしいけれど、全くその通りだと思う。
五発撃ってはしゃがんで装填し、を繰り返し、残り五発になったところでピッグマンとの距離が二百を切った。
「突撃ー!」
傭兵達を指揮する、正規兵の曹長が命令を下した。
「「うおおおおおお!!」」
途端、傭兵達は鬨の声を上げ、剣を振りかぶって敵へと突撃する。私は身長が低いこともあり、塹壕から這い上がるのに少しもたついてから銃を背負って突撃。【身体強化】の魔術を発動しているというのに、右手の【吸魔】のエンチャントをかけたナイフが頼りなく感じるのはいつものこと。
「ブヒイイイイイ!!」
汚い雄叫びを上げるピッグマンの、腰蓑に隠れられていないイチモツにナイフを一閃し、倒れてくるのに合わせて一歩下がって首を切る。浴びる血が暖かい。
次の奴は棍棒を両手で振りかぶっている。
(脇ががら空き)
その左脇を切りつけ、血を浴びながら次の敵へ。
槍を避け、棍棒を躱し、敵の動脈目がけてナイフを振るう。
(私には、金が必要なんだ!)
育て親との最期の約束を果たすまで、あと少しなのだ。豚頭には死んで貰う。
(あの世で恨んでくれ)
血のシャワーを浴びつつ、私は肉を切っていった。