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暁のカトレア  作者: 四季
5.シブキガニとダリア

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episode.78 水着、砂浜、そして審判

 フランシスカの圧力から私を庇い、赤いワンピースタイプの水着を着ることとなったグレイブ。彼女は、水着を受け取りすぐに着替えると、みんなの前に現れた。


「ちゃんと着たぞ。これで文句はないだろう、フラン」


 真っ赤なワンピースから伸びる脚は白くて長い。不要な肉はないが、筋肉がそれなりにあるため、健康的なほど良い太さの脚をしていた。また、腹部は引き締まっていて、水着の布越しにでもはっきりとしたくびれがあることが分かる。


 スレンダーでかっこよく、美しい体型だ。

 グレイブは文句のつけようのない体つきをしている——が、色気はあまりない。


「は、は、はわわぁぁぁ……」


 だが、それでもシンは、顔を赤く染めていた。頬がリンゴ飴みたいだ。

 彼にとってはグレイブの水着姿であることが大切で、色気の有り無しはそんなに関係ないのかもしれない。


 真っ赤になりつつも興奮気味なシンとは対照的に、フランシスカは笑い転げていた。グレイブがワンピースタイプの水着を着て現れた瞬間から現在まで、ずっと笑い続けている。


「おい、フラン。なぜそんなに笑う」

「いやいや! だってグレイブさんったら、大人なのにワンピースとか! 似合わなすぎですよっ!」

「待て、お前が着させたのだろう」

「フランが頼んだわけじゃないですけどー?」


 何とも言えない空気になってくるフランシスカとグレイブ。


 あぁもう、といった気分だ。

 なぜ良い空気を保とうと努力しないのか。私には理解ができない。


「それはそうだが……」

「じゃあ、フランのせいみたいに言ったことを謝って下さいねっ」

「いや。そもそもの原因を作ったのはお前だろう」


 グレイブは、腕組みをしながら眉をひそめている。一方フランシスカの方はというと、不満げに頬を膨らませていた。


 二人ともそう容易く折れる気はなさそうだ。


 もし仮に折れるとすればグレイブの方だろう。しかし、今回ばかりは、グレイブもすんなり謝りはしなさそうである。


「フランはマレイちゃんに親切にしてあげただけですけどっ?」

「その親切とやらがマレイを困らせていることに、なぜ気づかなかったんだ」


 厳しい顔つきとワンピースタイプの水着。

 言葉にならない馴染まなさだ。


「はいー? グレイブさんに何が分かるんですかー?」


 フランシスカは、両手を腰に当て、体を前方へやや倒しながら言う。

 その声色は「まさに嫌み」といった感じのものだ。

 言われるのがグレイブだから辛うじてこの程度で済んでいるが、もっと血の気の多い相手だったなら、間違いなく大喧嘩に発展してしまっていたことだろう。


「部外者がいちいち出てこないで下さいねっ!」


 満面の笑みで嫌みを吐くフランシスカ。

 ばっさりいくところが彼女らしい。なんせ彼女の口は、いろんな意味で恐ろしいのだ。


「……そうか。ま、それも一理あるかもしれないな」

「じゃあ謝って下さいっ」


 フランシスカは再び謝罪を求めた。

 年上の女性にここまで強く出られるフランシスカは、ある意味凄い人かもしれない。


「いちいち言わなくて大丈夫だ、ちゃんと謝るさ」

「亀みたいにもたもたしないで下さいねっ」

「あぁ。先ほどは、不快にするようなことを言ってすまなかった」


 グレイブは頭を下げることはしなかったが、ちゃんと謝罪の言葉を述べていた。表情も真剣そのもの。これならフランシスカも許すだろう。


「構いませんよー。ちゃんと謝ってくれるなら、それ以上は言いませんからっ」


 両手を腰へ当てたまま、桃色のビキニに包まれた胸を張り、満足そうに言うフランシスカ。ミルクティー色の髪から漂う甘い香りは健在だ。


「じゃ、遊びましょっか!」


 彼女はそれから、その愛らしい顔を私へ向け、「マレイちゃんも!」と声をかけてくれた。躊躇いなくばっさりいくところは少々怖いが、こんな風に巻き込んでいってくれるところは好きだ。


「何をするの? フランさん」

「うーん。何がいいかな。たとえば……スポーツとか?」


 浜辺でスポーツとは、何とも健康的である。

 だが、それなら水着を着る必要性はないように思うが。


「他にも、貝殻を拾うとか魚をとるとか、できるんじゃないっ?」


 フランシスカは楽しげに笑う。


 数年ダリアで生活していた私にすれば、海も砂浜も、何の特別感もない。当たり前にそこにある光景だ。だが、帝都で育ってきたフランシスカにとっては、海は特別なものなのかもしれない。


「スポーツをするならぁぁぁ! 審判は任せて下さいよぉぉぉーっ!!」


 私とフランシスカの会話にいきなり乱入してくるシン。彼の叫びは、相変わらずの大迫力だ。


「黙れ、シン」

「いえぇぇ! 黙ってなんていられませんよぉぉぉっ!」


 シンは、制止しようと声をかけたグレイブに、凄まじい勢いで迫っていく。だが、慣れゆえかグレイブは落ち着いており、眉一つ動かさない。彼女は冷静さを保ち続けている。


「このシン・パーンの名にかけてぇ、審判役から外れるわけにはぁぁ、いきませんよぉぉぉっ!」

「そうか、そうだな。だがまずは落ち着け」

「無理ですぅぅぅ! いくらグレイブさんのお言葉でもぉぉ、そればかりは無理ぃぃぃー!」


 一向に止まりそうにないシンを見て、グレイブは、やれやれ、といった顔をする。もはや怒る気にもならない、という様子だ。呆れきっている。


 シンの言動はいつだっておかしい。明らかに普通の人ではない、と見る者に感じさせる。


 けれども私は、その騒がしさが、意外と嫌いでない。

 珍妙な彼の言動は、いつだって場の空気を面白くしてくれる。その大声は沈黙を破り、そのユニークな容姿と振る舞いは深刻な雰囲気を掻き消してくれるのだ。


 死が傍にあるような厳しい世界だからこそ、彼のような人間は必要なのだ。


 私はそう思う。

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