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暁のカトレア  作者: 四季
5.シブキガニとダリア

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episode.63 海の街へと

 数日後。

 ダリアへ出発する朝が来た。


 天気は見事な快晴。空は晴れ渡り、青く澄んでいる。日差しはかなり強いが、そんなことは少しも気にならないほどに、心地よい朝だ。


 昨夜の夜警は、今回ダリアへ行かない隊員が務めてくれた。そのため、私たちは夜の間に睡眠をとることができ、助かった。恐らくみんな、ぐっすり眠れたことだろう。


 普段通り、焦げ茶色の長くも短くもない髪を一つにまとめ、帝国軍の制服を身にまとう。私はそれから、荷物を詰めたトランク持って、集合場所へと向かった。



「マレイちゃーんっ!」


 集合場所である、基地を出てすぐのところへ行くと、フランシスカが迎えてくれた。彼女は、朝早いとは思えぬ、晴れやかな顔つきをしている。


 そして驚いたのは服装だ。


 私はてっきり制服を着ていくものと思っていた。しかし、それは違ったらしい。というのも、フランシスカは私服だったのである。


 彼女が着用しているワンピースは、初々しさのある桃色。丈は太ももと膝のちょうど真ん中くらいまで。丸みのある襟と、スカートに当たる部分に施された小花の刺繍が、非常に愛らしくて印象的だ。

 あどけなさの残る、大人と子どもの狭間の女性——そんな雰囲気を演出するにはもってこいのデザインだと、私は思った。


「おはようございます」

「おはようっ」

「その服、可愛らしいですね」

「でしょでしょ! ありがとっ」


 フランシスカは屈託のない笑みを浮かべる。今日の彼女は機嫌が良さそうだ。


「で、マレイちゃんはどうして制服なの?」


 穢れなき笑顔のまま、痛いところを突いてくる。

 さすがはフランシスカ。


「前にフランが買ってあげた服、着ないの?」

「いいえ。もちろんちゃんと持ってきているわ」


 つい怪しい発言になってしまったが、嘘ではない。前にフランに買ってもらった服は、トランクの中にちゃんと入っている。


「着てくれば良かったのに!」

「ごめんなさい、フランさん。制服を着るものだと勝手に思い込んでしまっていたの」


 するとフランシスカは、瞼を半分ほど閉じ、ジトッとこちらを見てきた。


「ホントにー?」

「嘘なんてつかないわ。本当よ」

「……なんてねっ。冗談だよ。びっくりした?」


 そんなことだろうと思った。


 彼女は、冗談とは思えない冗談を言う質である。

 さすがにもう慣れたわ。


 呑気にフランシスカと話していると、そこへ、グレイブがやって来た。


「マレイに、フラン。もう来ていたのか。早いな」


 良かった!

 グレイブも制服だった!


「どうしてマレイちゃんが先なんですかっ。フランの方が早く来てたんですけどー」

「そうだったのか、すまない。では、フランにマレイ、だな」


 フランシスカの絡みを軽く流せるグレイブを、私は内心尊敬した。さすが大人、といった感じの対応だ。

 私もいつかそんな対応をできるようになりたい、と思った。



 それから、私たちはダリアへと移動することになった。トリスタンと帝都へ来た時と同じ、列車での移動だ。


 二人ずつ座る席だったので、私はゼーレの隣に座った。彼の隣に座りたい者はいないだろう、と思ったから。

 ちなみに、窓側がゼーレで、私は通路側である。


「そういえば……カトレア」


 隣の席に座りはしたものの気まずくて、黙っていると、ゼーレが自ら話しかけてきた。彼から関わってくるというのは、新鮮な感じだ。


「何?」

「貴女が働いていた、あのオンボロ宿に泊まるそうですねぇ」

「そうなの!?」

「グレイブがそう言っていましたよ。カトレアの知人の宿だからだそうです」


 知らなかった……。


 ということは、アニタに会うということだ。久々でなんだか緊張する。

 だが、この機に成長した姿を見せなくては!


「あのオンボロ宿……衛生管理はちゃんとしていますか?」

「え?」

「清潔にしているのか、と聞いているのです」


 いきなりの問いに戸惑いながらも、私は、「えぇ」と答えた。

 衛生管理、というのは難しくて分からない。しかし、不潔ではないということは、分かっているからである。


「なら良いですが」


 ゼーレは銀色の仮面に覆われた顔を窓側へ向けつつ、独り言のように言う。

 どうやら彼は綺麗好きらしい。正直ちょっと意外。新たな発見だ。



 ちょうどその時、小さな男の子が、ててて、と走ってきた。茶色い髪の五歳くらいと思われる男の子だ。


 その子は、私たちの席の近くにまで歩いてくると、立ち止まる。そして、ゼーレを指差した。


「怪しいやつがいるー!」


 大声で言われたゼーレは、ガタンと座席から立ち上がる。


「何が怪しいやつですか!」

「落ち着いて。子どもよ」


 しかしゼーレは止まらない。むしろ、さらにヒートアップしていってしまう。


「カトレア! 貴女は、子どもなら何をしても許されると言うのですか!」

「叫ばないでちょうだい!」


 私はついに声を荒らげた。

 口調を強めなくてはゼーレは止まらない、と思ったからだ。


 すると、ゼーレの怒りは少し止まる。


「……はいはい。分かりましたよ」


 今度はいじけるモードに入ったようだ。窓の方を向き、手元に小さな蜘蛛の化け物を乗せている。私の方は一切見ない。


 泣き出しそうになっている男の子に、私は優しめの声で話しかける。


「大丈夫? お父さんかお母さんは?」

「う、う……う……」


 ついに泣き出してしまった。


「泣かなくていいわ。お父さんかお母さんのところへ帰るのよ」

「……うん」


 それから一二分が経過した後、母親らしき女性が男の子を連れにきた。おかげで、親を一緒に探さなくてはならない状況は免れた。それは良かったと思う。


 しかし——ゼーレの機嫌が悪くなってしまったのが厄介だ。

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