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暁のカトレア  作者: 四季
4.トリスタン救出のための戦い

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episode.55 ならば私が

 リュビエのところへゼーレを残してきたことには、少々不安がある。


 彼はグレイブの拷問に近しい行動によって、体のいろんなところに傷を負っていた。ある程度時間が経っているとはいえ、まだ完治してはいないだろう。先ほどまでの動作を見ている感じでは、一応、何もなさそうではあった。けれども、完全に本調子とまではいかないはずだ。


 そんな状態の彼をリュビエと戦わせるのだから、どうしても不安になって仕方がない。


 だが、それでも私は進むことを止めなかった。

 せっかくここまで来たのだ、絶対にトリスタンを助けなくては。


 トリスタンを助けられなかった、なんてことになってはまずい。もしそんなことになれば、今度は私の身が危ないし、ゼーレに怒られそうだ。


 黒い床を蹴り、駆けてゆく。


 見つめるは前だけ。



 広間をしばらく走り続けていると、やがて、鉄で作られた格子が視界に入った。どうやらここが行き止まりのようだ。これ以上直進はできない。


「これ以上は行けないわね……」


 立ち止まり辺りを見回す。

 そんな時、どこからともなく、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「マレイちゃん?」


 それは、私が何よりも聞きたかった声。

 優しく穏やかな、トリスタンの声に違いなかった。


「トリスタン!? トリスタン、どこにいるの!?」


 私はキョロキョロしながら叫んだ。


 精一杯見回してみても、トリスタンの姿は見当たらない。

 けれど、先ほどの声が彼の声であることは明らかだ。彼はこの近くにいるはずである。しかし見つけられない。


「トリスタン! どこ!?」


 もう一度、声をかけてみる。


 すると。

 数秒経ってから返答が聞こえてきた。


「多分近いと思う。格子の奥だよ」


 格子の奥。ということは、目の前の鉄格子を破壊して、中へ進まなくては会えないのだろう。


 こんなしっかりとしたものを果たして壊せるのか? いささか疑問ではある。けれど、やるしかない。トリスタンを一刻も早く救出するためには、「壊せるのか?」と考えることよりも、行動することの方が重要だ。


「待っていて、トリスタン! すぐに行くわ!」


 私はそれだけ言うと、鉄格子を破壊するべく行動を開始する。

 方法はゼーレの拘束具を破壊した時と同じだ。腕時計から赤い光球を放ち、対象物を砕くのである。私がとれる方法はそれしかない。


 ——鉄格子は予想以上に頑丈だった。


 ゼーレの拘束具は数回で砕けたが、今回はそう容易く破壊できそうにはない。


 だが、このくらいで諦めたりはしない。もう少しでトリスタンに会える。その想いだけで、私は頑張れる。私を新しい世界へ連れ出してくれたトリスタンのためだ。大丈夫、まだやれる。


「マレイちゃん、何をしているの?」

「今、格子を壊そうとしているところよ!」

「多分無理だよ。その格子、凄く硬いんだ」

「硬いかもしれないけど、トリスタンを助けなくちゃならないでしょ! まだ諦めないわ!」


 もう止めてくれ、とでも言いたげなトリスタンの声に、私は少し腹が立った。


 苛立ちと焦りが混ざり、光球が上手く格子に当たらない。コントロールが乱れてきてしまっている。そのことが、余計に私を苛立たせる。


「もうっ……」


 早くしなくては。敵が来る前に、トリスタンを連れ出さなくては。

 なのに、鉄格子が邪魔をする。


 苛立ちがついに頂点へ達した私は、すべての苛立ちを込めた一撃を放つ。


「いい加減にしてっ!!」


 そうして放たれた赤い光球は、苛立ちがこもっているゆえか、いつもよりも大きかった。おかげでそれは鉄格子に命中し、鉄格子を砕くことに成功。


 これで中へ入ることができる。

 予想以上に時間を使ってしまった私は、急いで、鉄格子の向こう側へと進んでいった。



「トリスタン!」

「マレイちゃん!」


 私とトリスタンがお互いの姿を見、お互いの名を口から出したのは、ほぼ同時だった。


 前にもこんなことがあった記憶がある。懐かしい。


「トリスタン! 生きていたのね!」


 私は、片膝を立てて床に座っていたトリスタンに、大急ぎで駆け寄る。


 さらりと流れる金髪も、神の子と勘違いされそうな整った容貌も、健在だった。彼がちゃんと生きていたことを知り、私の中の喜びは大きく膨らむ。


 駆け寄った私がトリスタンの手を握ると、彼は不思議そうに首を傾げた。


「どうしてマレイちゃんが?」

「助けに来たのよ」

「ありがとう。それはもちろん嬉しいよ。だけどマレイちゃん、誰とここまで来たの?」


 トリスタンの問いに、私は言葉を詰まらせる。このタイミングで「ゼーレと」なんて言いづらい。


 けれども、それ以外に言えることなどありはしない。

 だから私は、正直に答えることにした。


「ゼーレよ」


 するとトリスタンは、困惑したように数回まばたきする。そして、私をじっと見つめてきた。

 深みのある青い双眸に見つめられると、嬉しいような恥ずかしいような、何とも言えない複雑な心境になる。ただ、新鮮な果物のような瑞々しい感覚は、嫌いではない。


「ゼーレがこの場所を吐いたということ?」

「いいえ。一緒に来てくれたの」


 私が簡潔に答えると、トリスタンは何か閃いたような表情になる。


「それって、マレイちゃんをはめるつもりなんじゃ……!」


 誰だってそう思うだろう。元々は私を捕らえる任務を受けていたゼーレを信じられないのは仕方ない。いや、むしろ疑って普通だ。


 だが、私には、ゼーレが騙そうとしているとは思えなかった。

 そもそも、あの不器用なゼーレに、他人を十分に騙す演技ができるとは、考えられない。


「それは違うと思うわ。ゼーレは信用するに値する人よ」

「信用するに値する? それは僕には分からないな」


 トリスタンは納得がいかないようだ。


「ゼーレはこれまで何度も君を襲った。そして無理矢理連れ去ろうとしたよね。だから、僕は彼を信用できないよ」

「聞いて、トリスタン。彼は変わってきているの。もうあの時とは——」


 言いかけて、口を閉じる。


 というのも、私の背後から大蛇の化け物が現れたからだ。


「そんな……」

「下がって! マレイちゃん!」

「駄目よ!!」


 私を庇おうと前へ出かけたトリスタンを、慌てて制止する。腕時計無しで大蛇の化け物と戦うなど、危険すぎるからだ。


 それに加え、彼にあまり無理させたくないというのもある。


 私の腕時計を貸せば、恐らくは戦えることだろう。しかし、体の状態が不明なトリスタンに戦わせるのは、嫌だ。


「駄目よ、じゃないよ。マレイちゃんまで巻き込むわけにはいかないんだ」


 それは優しさなのだろう。

 けれども、私が求めてはいない優しさだ。


「なら、私が戦うわ!」


 無謀かもしれない。

 でも、トリスタンに無理をさせないためなら、私はやってみせる。


「マレイちゃん、何を言って……」

「化け物は私が倒すわ」

「無理だよ! そんなの!」


 トリスタンには何度も護ってもらってきた。

 今度は私がトリスタンを護る番だ。


「貴方に指導してもらってきたもの、大丈夫よ」

「だけど……」

「大丈夫。任せて」


 戦闘の師であるトリスタンの目の前で、というのは緊張するが、これもまた運命なのだろう。


 今こそ、成果を見せる時だ。

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