表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁のカトレア  作者: 四季
4.トリスタン救出のための戦い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/147

episode.51 今はただ、信じるのみ

 トリスタン救出のための情報を教えるのと引き換えに、ゼーレが出した条件の一つ。それは、『拘束を解くこと』だった。


 私一人では決められない。そう思った私は、すぐに条件を飲むことはできなかった。しかし、ついに覚悟を決める。

 多少私の立場が悪くなろうが、そんなことは気にしない。トリスタンを救うためにできることはすべてする、と。


「拘束具の外し方を私は知らないわ。だから、これで壊すわね」


 私は右の袖を捲る。そして、右手首に装着された腕時計の文字盤に、左手の人差し指と中指をそっと当てた。


「もし体に当たったらごめんなさい」


 なんせ、まだまともにコントロールできないのだ。拘束具だけを狙い打ちするなど、ほぼ不可能である。


「べつに構いませんよ。どうせ、腕は機械ですから」

「体にも当たるかもしれないわ」

「お気になさらず」


 ゼーレはあっさりとした調子で返してくれた。

 私は右腕を、ゼーレの背中側にある拘束具へ向ける。


 そして、光球を放つ——。


「……っ!」


 衝撃に、ゼーレは身を縮める。


 放たれた赤い光球は、拘束具を砕いた。それと同時に、彼の体に絡みついていた鎖もずり落ちる。

 残るは足の拘束具のみ。


「平気?」

「問題ありません」


 ゼーレは落ち着いていた。

 今のところ怪しい動きはない。


 次は足の拘束具を外すよう試みる。腕を拘束していたものよりかは頑丈だったが、赤い光球を三四回当てるうちに外れた。


 これで彼は、完全に自由の身だ。


「外したわ。これで教えてくれる?」


 ゆっくりと立ち上がろうとしているゼーレに声をかける。すると彼は「まだです」と返してきた。それを聞いて私は、彼が条件は二つと言っていたことを思い出す。


「そういえば、そうだったわね。忘れていたわ」


 やれやれ、といった空気を全身から漂わせてくるゼーレ。


「もう一つの条件は、何?」


 彼は立ち上がりきると、銀色の仮面に覆われた顔をこちらへ向ける。


「すべてが終わるまで、他の者に口外しないことです」


 それには、さすがに戸惑いを隠せなかった。

 他の者に言ってはならないのなら、私一人でトリスタンを助けに行かなくてはならないではないか。無茶だ。


「私に一人で行けと言うの? あんまりだわ!」


 はっきり言い放つ。

 すると彼は、静かな声で「まさか」と返してきた。


「馬鹿ですかねぇ? 貴女一人が乗り込んだところで、救出など不可能でしょう」


 くくく、と笑われる。


 正直感じが悪い。

 しかし、時折他人を小馬鹿にしたような態度をとるのは、彼の性分だ。だから気にすることはない。一応分かってはいるのだが、それでもイラッとしてしまう。


「どうして笑うのよ!」

「小さいですねぇ。すぐに怒らないで下さい」

「真面目な話をしているのよ!? 笑ってる場合じゃ……」


 すると彼は、金属製の手で私の片腕を掴んできた。

 バクン、と心臓が鳴る。このまま誘拐されたらどうしよう、と脳裏に不安がよぎる。


 しかし乱暴な手段をとられることはなかった。


 ただ、一気に体を引き寄せられたために、顔と顔の距離が接近する。


「話を聞きなさい。私が同行すると言っているのです」

「……え。ゼーレが?」

「そうです。私ならまだしも怪しまれないでしょう」


 顔と顔の距離が近いことに動揺し、話が頭に入ってこない。


 トリスタンはあんな質だ。すぐに接近してくる。だから、トリスタンと距離が近くなることには慣れてきた。


 しかし、ゼーレは違う。

 彼とはこれまで、それほど近づいたことがなかった。なので、今こうして体が触れるほど近くにいることが、信じられない。緊張やら何やらで、全身が強張る。


「でも……私たち二人だけで基地の外へ出られる?」

「その心配は要りません」

「言うのは簡単だけど、結構きっちり閉ざされているわよ。何か策はあるの?」


 ゼーレだって傷を負っている身だ。

 こっそり基地から抜け出せるのかどうか怪しい。


「策無しではさすがに……」


 言いかけた、その時だった。

 ゼーレは仮面を着けた顔を私に近づけたまま述べる。


「気にすることはありません。ここから直通で行けますから」

「え。直通って?」


 想像の範囲を軽く超えていくゼーレの発言に、私はただ戸惑うことしかできなかった。

 この地下牢に外へ続く道などありはしない。罪人や捕虜を収容するための牢に、そんなものが存在するわけがないではないか。それなのにゼーレは「直通」なんて言う。理解不能だ。


「まぁ……説明するのも面倒です。見せて差し上げます」


 彼は、その時になってようやく、私の腕を離した。

 続けて金属製の右腕を前向けに伸ばす。すると、手の周辺の空間がグニャリと歪んだ。


「え、え、え」


 私は思わず情けない声を発してしまう。


 この世の現象とは思えない現象が、目の前で起こったからだ。これが現実に起きていることだとは到底理解できない。しかし、ゼーレが真面目な雰囲気でいるところを見ると、冗談やまやかしなどではなさそうだ。


 そのうちに、歪んだ空間は大きくなっていく。


 ——そしてついに、人が通れるくらいの穴となった。


「えっ……穴?」

「そうです。通れます」


 私は混乱しながらゼーレへ視線を向ける。


「どこへ繋がっているの?」


 トリスタンが腕時計から白銀の剣を取り出したり、私の腕時計から赤い光が放出されたり。普通考えられないような現象は、これまでに多々見てきた。しかし、別の空間に繋がる穴を作る、なんて現象は見たことがないし理解できない。


「ボスをはじめ、我々が生活している基地です」

「トリスタンは……本当にそこにいるの?」


 やはり疑ってしまう。

 ゼーレは私をボスに差し出すつもりなのではないか、と。


「疑い深いですねぇ、カトレア」

「そこにトリスタンがいる保証があるの?」


 彼は数秒空けて、静かに「恐らく間違いないと思います」と返してきた。淡々とした、真っ直ぐな声色だ。その声を聞く感じだと、嘘を述べているとは思えない。


「信じられないなら……止めますか?」

「いっ、いいえっ! 行く! 行くわよ!」


 トリスタンを助けに行く。

 今はそれが何よりも優先だ。私がどうなるかなど、関係ない。


「……良い覚悟ですねぇ」

「ちゃんと案内してちょうだいよ!」

「もちろん……そのつもりです」


 今日のゼーレは、なぜか、いつもより素直な気がする。

 不気味さはあるが、彼はきっと裏切ったりしないだろう。


 いずれにせよ彼を頼る外ないのだ——だから、信じるしかない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ