表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁のカトレア  作者: 四季
3.化け物狩り部隊

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/147

episode.41 続く戦闘

「伏兵を忍ばせていたとは。なるほど、だから余裕があったのね。マレイ・チャーム・カトレア、お前……少しは考えたってわけね」

「何それっ。フラン、伏兵とかじゃないし!」


 リュビエと対峙するフランシスカの細い右手首には、私やトリスタンと同じように、腕時計が装着してあった。


「フランが来ていたのは、あくまでフランの意思! マレイちゃんを卑怯者みたいに言わないで!」


 謎に満ちたリュビエが相手であっても、フランシスカは躊躇いなくはっきりと物を言う。思ったことをこうもストレートに言えるというのは、ある意味、一種の才能かもしれない。


「そうね、べつにどちらでも構わないわ。これだからこう、ということは何もないもの」


 蛇のようにうねった緑の髪を揺らしながら、リュビエは、私たちの方へ歩みを進めてくる。


 その様子を見たフランシスカは、小さな光る弾丸を、リュビエに向けて大量に放った。先ほどフランシスカが上空から放ったものと、同じものだと思われる。


 しかしリュビエはしっかりと対応した。

 大型の蛇の化け物を召還し、それを盾のように利用しつつ、フランシスカへ接近する。


「それはもう見たわ」


 冷ややかな声で言い放ってから、リュビエはフランシスカに接近する。


「邪魔者は消えなさい」

「は? フラン、邪魔者じゃないけどっ!?」


 リュビエは蹴りを繰り出す。

 フランシスカは、両腕を胸の前で交差させ、リュビエの蹴りを防いだ。だがかなりの威力だったようで、顔をしかめている。


「お前、あまり強くないわね」

「何でそんなこと言われなくちゃなんないの!?」

「あたしはただ、純粋な感想を述べたまでよ」


 リュビエとフランシスカでは、女性同士とはいえ、結構な体格差がある。


 フランシスカとて小柄というわけではないが、女性らしく、愛らしい背丈だ。対するリュビエは背が高い。ハイヒールであることを除いても、フランシスカよりはずっと高身長に違いない。


 だから、肉弾戦になれば、リュビエの方が明らかに有利であろう。


「消えてちょうだい」


 リュビエは、背筋が凍りつくような冷ややかな声で、短く言った。

 そして、先ほどまで盾のように扱っていた大蛇を、フランシスカに向かわせる。その勢いは凄まじい。


 彼女は恐らく、邪魔者であるフランシスカを本気で潰しにいくつもりなのだろう。


「舐めないでよね!」


 大蛇が迫ってきても、フランシスカは怯まない。


 二本の指を速やかに腕時計へ当て、桃色に輝く武器を二つ取り出した。

 その武器というのは、若干薄くなったドーナツのような形をしている。円盤の中心を円形にくり抜いたような武器だ。小さめなことを考えれば、飛び道具だろうか。


「それっ!」


 フランシスカは両手に一つづつ持った武器を投げた。

 円盤の中心を円形にくり抜いたような形のそれは、彼女の手から離れると、軽やかに宙を飛ぶ。そして大蛇へと向かっていく。


 そして数秒後。

 ドーナツ型をしたフランシスカの武器は、大蛇の体を傷つけた。ダメージを受けた大蛇は、呻くように、苦しそうに、うねうねと動いている。


 さほど大きくはなく、薄くて軽そうなため、威力自体はあまりないだろうと予想していた。しかし、その予想は誤りであったのだろう。というのも、大蛇は結構なダメージを受けた様子だったのである。


「まだまだっ」


 大蛇を傷つけた二つの武器は、ブーメランのように弧を描き、フランシスカの手元へと戻ってくる。彼女はそれを、すぐに、もう一度投げた。


 だが、対象は先ほどと異なる。

 次なる目標は、リュビエ本人だった。


 既に十分なダメージを与えることができた大蛇は放っておいても問題ない、と判断したのだろう。


 ——しかし、リュビエは焦らない。


 焦るどころか、余裕のある笑みを口元に湛えていた。


「無駄よ」


 リュビエは一度高くジャンプし、宙へと浮いて、フランシスカが投げた武器をかわす。背があるわりには身軽だった。


 そして、大きく一歩を踏み込む。


 一気にフランシスカへと近づき、高いヒールのついたブーツを履いた足で、フランシスカを蹴る。

 フランシスカは、一応リュビエの動きを読んではいた。


 だが予想以上の速度だったらしく、防ぎきれない。


「……あっ」


 フランシスカの腹部に、リュビエのヒールが命中する。


「いっ……」

「もう大人しくしていてちょうだいね」


 その勢いに乗り、リュビエはフランシスカを蹴り飛ばす。蹴られた彼女の体は吹き飛び、軽く数十メートルは離れた場所の大きな樹に激突する。


 信じられないくらい、凄まじい威力の蹴りだった。


 食らってはいない——ただ近くで見ていただけの私にでさえ、その圧倒的な力は分かる。あんなものをまともに食らえば、すぐには立ち上がれないことだろう。


 蹴りを受けたのが私だったら。

 考えてみるだけで、恐ろしくてゾッとする。


「これで邪魔者は消えたわね」


 リュビエはどうやら、フランシスカにはまったく興味がないらしい。蹴り飛ばした後、飛んでいった彼女に目をくれることは一切なかった。


 今、リュビエの意識は、完全に私へ向いている。装着されたゴーグルのせいで目元は露出していないが、リュビエは、間違いなく私の方を見据えていることだろう。

 ぞわぞわするほどのただならぬ威圧感を感じることを思えば、視線を向けられていることは確実と言って、差し支えないと思われる。



 ——ちょうど、その時だった。


「マレイちゃんっ!」


 後ろからトリスタンの叫び声が聞こえてくる。狼型化け物をようやく殲滅しきり、こちらへ戻ってきたのだろう。


 帝国軍の制服である白い衣装を身にまとった彼は、華麗な身のこなしで、私とリュビエの間に入った。


 絹糸のような滑らかな髪も、穢れのない白色の衣装も、握っている剣の長い刃も。すべてが薄紫色の粘液で汚れている。薄紫色の粘液というのは、私が母を失ったあの夜も見た、化け物を斬った際に出る不気味な液体だ。

 言うなれば、薄紫色の粘液は、化け物と戦った証である。


「マレイちゃん、怪我はない?」

「えぇ。何とか。フランさんが来てくれたおかげよ」


 私は正直に話した。

 今こうして負傷せずにいられているのは、間違いなく、フランシスカのおかげだ。


「フランが? そっか。でも、マレイちゃんに怪我がなくて良かった」

「私一人だったら危なかったわ」

「だね。でもフランじゃ心もとなかったんじゃない? ここからは僕が君を護るから、もう安心してくれていいよ」


 安心なんて、そう簡単にできるわけがない。

 トリスタンの強さを疑うわけではないけれど、彼は、ここまでの戦闘によって疲労しているはずだ。まだほとんどダメージのないリュビエと戦い、絶対に勝てるという保証は、どこにもない。


「あらら、今度は騎士(ナイト)さん? 本当に、厄介なのがいっぱいね」


 片手を口元へ添え、わざとらしく述べるリュビエ。

 彼女はまだまだ余裕がありそうだ。


「そこを退いてはもらえないかしら」

「退かないよ」

「ま、そうよね。……仕方ない」


 ならば、と彼女は続ける。


騎士(ナイト)さんごと確保するまでよ」


 リュビエは、トリスタン諸共、私を捕らえるつもりのようだ。

 そんなことが可能とは思えない。だが、もし仮に秘めた力があるのだとすれば、可能なのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ