表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁のカトレア  作者: 四季
3.化け物狩り部隊

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/147

episode.37 紹介と質問タイム

「では早速、紹介しよう。彼女は、今日から共に戦う、新たな仲間だ」


 今、自分でも信じられないくらいに、緊張している。


 なぜかというと、隊員らの前で紹介されているからだ。


 心臓は破裂しそうなほどに脈打つ。全身が熱を持ち、頭はぼんやりとしてくる。こんな時に限ってあくびが止まらず、そのせいで浮かんだ涙が目元を濡らす。

 あぁ、なぜこんなにも。

 宙に向かってそんな奇妙な問いかけをしたくなるくらい、凄まじい緊張の渦に巻き込まれている。


「名はマレイ・チャーム・カトレア。年は十八」


 十名ほどの隊員の前に立つ私の左右には、グレイブとトリスタン。

 ただ者でない空気をまとった二人の間に立つというのは、どうも、しっくりこない。私がここにいて本当に大丈夫なのだろうか、などと考えてしまう。


「ではマレイ。皆に一言、頼めるか」

「はっ……はい……」


 グレイブの言葉に、私は頷く。しかし、正直なところ、不安しかない。

 十人もの人間の前に立ち挨拶をした経験など一度もないため、「一言」と言われても、どんな一言を発すれば良いのか不明である。


 私は一歩前へ出る。その瞬間、隊員らの視線が私の顔面へ集中した。


 ——まずい、汗しか出ない。

 発するべきは言葉のはずなのに、言葉は少しも出ず、冷たい汗だけが額に溢れる。汗など出ても何の意味もないというのに。


「どうした、マレイ。一言だけで構わないのだが」

「あ、はい……」


 ごくり、と唾を飲み込む。

 そして私は、私が持つすべての勇気を掻き集め、ようやく口を開く。


「マレイです。よろしくお願いします!」


 向かってくる大量の視線に耐えきれず、それから逃げるように、私は深く頭を下げた。こうでもしていないと、心臓が持たない。


「よし。では何か、彼女に質問などあれば」


 司会役のグレイブは、隊員たちにそんなことを言った。

 紹介が終わり、ようやくこの場から逃れられると思ったのに、どうやらまだ続くみたいだ。


「はいはい! 質問!」

「何だ」

「彼女、どこの出身なんすか?」

「なるほど、出身か。マレイ、答えてやってくれ」


 よりによって、こんな質問……。


 私は何とも言い難い気持ちになった。


 出身ということは、今は亡きあの村だろう。だが、それを言うと、この場を暗い雰囲気にしてしまいそうだ。せっかく楽しげな感じだというのに、たった一つの答えでそれを壊してしまうのは、気が進まない。


 だから私は、敢えてこちらを選んだ。


「私の出身地はダリア。ミカンの有名な、海に近い街です」


 左隣にいたトリスタンが驚いた顔をするのが、視界の端に入った。あくまで推測だが、私が出身をダリアだと言ったことに驚いているのだろう。


「おおっ、海の街出身! 爽やかでいいっすね!」

「はい。素敵なところです」

「いつか行ってみたいっすわ!」


 素敵なところ、は嘘ではない。

 私はダリアで生まれ育ったわけではない。けれども、数年暮らしていたのは事実だ。だからダリアの良いところは知っている。もっとも、ダリア生まれダリア育ちの者に比べれば、知らないことも多いと思うが。


「他に質問は?」


 グレイブが声をかけると、二人目の手が上がった。


「では君」

「はい! ありがとうございます! では早速、質問を!」


 短い茶髪のどこにでもいそうな青年だ。二十代くらいだと思われる外見をしている。正しくは、二十代後半、だろうか。


「好きな男性のタイプは、どんなタイプですか!?」


 驚きの質問が飛び出してきた。

 右隣にいるグレイブは、その質問を聞くや否や、呆れたように溜め息を漏らす。


「こら。そんなことを聞くんじゃない」

「え、駄目ですか?」


 きょとんとした顔をする青年に対し、グレイブは口調を強める。


「ふざけた内容は止めろ! 分かったな?」

「あ、はい……すみません」


 一切悪気がなかったらしき茶髪の青年は、しゅんとして、肩を落とした。


「では次。誰か質問は?」


 この質問タイムはまだ続くらしい。

 早く終わらないかな……。


「そこの黒髪」

「ありがとうございます。マレイさんはどういった目的を持って、ここへ入られたのですか?」


 今度は胃が痛むような真面目な質問が来た。まるで面接だ。試されているような気がしてならない。


「はい。ええと、目的は……」


 そこへトリスタンが口を挟んでくる。


「僕が彼女をスカウトしたから。それだけのことだよ」

「では、本人に入隊の意思はなかった、と?」

「もちろん強制したわけではないよ。僕が彼女の才能を認め、彼女に『来ないか?』と誘った。そしたら彼女は、頷いてくれた。それだけのこと」

「……なるほど。分かりました」


 黒髪と呼ばれた質問者は、軽く頭を下げ、口を閉じた。

 グレイブが再び「では次」と言い出してから、トリスタンがそっと教えてくれる。


「彼、すぐああいう質問するんだよね」


 ちょっぴり嫌な人、というのは、案外どこにでもいるものなのかもしれない。


「直接だったら多分もっと突っ込んでくるから、気をつけて」

「分かったわ」


 ナイス、トリスタン。



 こうして私は、正式な隊員としての初めての夜を、迎えようとしていた。


 今夜からは一人の戦闘員として、化け物の前へ立たなくてはならない。

 そのことに不安がないわけではないが、幸い今夜は、トリスタンもグレイブもいる。フランシスカは非番でいないが、トリスタンとグレイブ——実力者が二人もいれば、どんな敵が来たとしても、そう易々と負けはしないだろう。


 だからきっと大丈夫だ。

 戦いは恐らく起こるだろうが、上手く切り抜けられるに違いない。



 そう信じて、疑わなかった。



 ——その時が来るまで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ