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不運? なんなく鑑定団  作者: 足羽くるる
第一章・観月美術店の鑑定簿 〜邂逅編〜
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第一章4 ロボット・アプレイサル

 「いらっしゃいませ」


「しっかり働いてんじゃねぇか、お前さん」


「ありがとうございます。で、今日はどうされますか」


「こいつらの鑑定をよろしく頼む」


 そういえばこんなやりとりをしたことがあった。確か一年前だったかな、と思う。


 この時確か閉店時間ぎりぎりくらいの時間にこの千駄木というおじさんが来店してきて、鑑定を頼まれたのだ。

 この人は前々から顔も見知っていたし、今でも常連と言わんばかりによく店に来る。

 この時鑑定していた、二体の小さなブリキのロボット。今はずっと倉庫にしまった状態なので、幾らかさび付いているかもしれない。


 ちなみに観月「美術店」とはいうものの書画や掛け軸、骨董品といった美術品だけでなくこういった小物だったりとそれ以外のものも少々取り扱っていたりする。


「査定価格は……ごほごほっ」


 そのロボットが入ったケースを開ける際付いた埃を吸い込んでしまった。が、無理やり咳をこらえて話し続けた。


「保管状態があまり良くないですが、元がいいのでそこそこ行くと思います」


「おう、ちょっと聞かせとくれ」


 虫眼鏡でそのロボット達をじっくりと観察し、結論を出した。


「こちらの『ブロマァク・ブリキザボーター電人』は10万4千円、もう一方、星川玩具の『ホシカワ・ファインディングスペースマン』は2万7千円といった具合ですね」


「あーそうそう、よくわかったね。詳しいのかい?」


「いえ、その父がかなりのロボット好きで。そのうちロボットについて何となく調べるようになってしまってちょっと詳しくなったというか……」


「おおう、そんならもうお前さんも『こっち側』だな」


 『こっち側』……聞き捨てならない単語を耳にし、卓は訝し気に聞いてみることにした。


「その……『こっち側』とは?」


「んー、いやぁ何でもない。オレらロボットオタクの仲間入りをお前さんが果たしたっちゅうことよ。親父さんが今もし生きててこんなこと知ったら、きっともう喜んで感激だろうな、ワハハハッ!」


 そして卓の目の前で千駄木さんは豪快に笑った。

 まあそういうことか……。

 聞かなくても充分にわかることだった。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 小学校に入るぐらいのときだったと卓は記憶している。


 その当時よく父とロボットが出てくるアニメのDVDを観ていた。

 かなり卓が観るのには古い年代の作品なのだが、父がちょうどその時の自分ぐらいの歳だった頃に大ヒットし、すっかりその虜になったという。


 そのころの自分はというと、似たような戦闘ものはそれに比べたらずっと新しい、その年齢向けのものが学校でも流行ってはいたが、そういったものにあまり興味は湧かなかった。ただ、ロボットが戦ったり、人間と心を通わせる、といった空想というよりは近未来というか、そういう世界観は好きだった。


 無論、そんな古臭いもの見せてどうするの、卓がかわいそうと母からは大バッシングを受けてはいたし、妹は自分たちのせいでお気に入りのTV番組が観られないことに癇癪を起こした。それでも卓は続きを観たくて仕方なかった。こっそり母たちには知られずに父と隠れて観ていた。

 父が店で忙しい日以外ほぼ毎日一話ずつ観ていたそのアニメも一か月ほどであっという間に終盤を迎え、最終話まで観終えてしまった。こうやって隠れて観るというちょっとした楽しみもこれで終わりなのかと思うとちょっと残念だった。

 でもそれが終わりじゃないんだぞ、と卓の心情を察したのか父はニカッと笑うとおもむろにもう一つのDVDを取り出した。パッケージには「劇場版」とでかでかと書いてある。

 これがもう一つの物語なのさ、とアニメと劇場版の違いについても教えてくれたりもした。


 その日はいちおう店も定休日で、時間もたっぷりあったため、その二時間半ほどある劇場版を一気に観た。

 その劇場版では、アニメ版で語られなかったストーリーや新しく登場したキャラクターが、自分が観てきたこれまでの話とちゃんとリンクしていて不思議な高揚感というのか、そんな気持ちにさせられた。



 幼いころの、卓にとっての大切な物語(おもいで)

 これはそう、その物語をひとつ、終えたときの物語(おもいで)なのだ。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「では、もし後日買取を希望されるときは、この査定金額を参考にしておいでください」


 と、先ほど自分が告げた金額をメモ用紙に書き込み、目の前で査定品のロボットを眺める千駄木さんに手渡した。


 この店では査定だけなら基本的に無料である。ここに来る客はこの人のような常連客だけではもちろんないし、駅前にもここよりもずっと大きな買取専門店がある。

 ただでさえここに来る客は自分の代になってからさらに減少している。この状況でいちいち代金をもらっていれば、そのうち客足が途絶え潰れてしまうだろう。


 そしていつものように査定が済むと代金を受け取ることなくそのまま軽くお辞儀をした。


「じゃ、また来るでな、頑張れよ坊主」


 ロボット達を持参していた手提げ袋に入れて、千駄木さんはくるりと大きな背を向け店の外へと立ち去って行った。


 その大きな背を目で追い、店の外へと出て行ったのを確認すると、閉店時間ももうとっくに過ぎているので店のシャッターを閉じるべくカウンターの下から鍵を取り出し外へ出た。


 大分外は暗くなっていたが、商店街の明るい街灯が道の向こうまでずっと続いているのが見える。日がとっくに落ちた頭上に広がる夜空には十六夜いざよいの月が光っていた。



 幾日か後にまた千駄木さんは来店してきた。もちろん買取の件である。買い取る二体の状態も前回とほぼ変わっておらず、査定金額通りの額面を千駄木さんに渡した。


 そしてロボット二体は観月美術店に買い取られることとなった。


 あれから一年の歳月が過ぎ、そのブリキのロボット達は未だ観月美術店の二階に健在だ。

 それらは今なお、新たな買い取り手がついてくれる日を静かに待ち続けている。


第一章4

……ロボット・アプレイサル


◉あとがき

 今年初の投稿となります。

 投稿が前話よりかなり遅れました。申し訳ございません。

 本編で触れているロボットについては実在するロボットをもじったりしています。とはいえ自分はそこまで詳しくなかったり。ロボットアニメとかは割と観るほうかもしれない。

 出来るだけ定期的な投稿をしていけるよう頑張っていきますので今後ともよろしくお願いします。


《追記》

ここまでの話で一区切り、まとめて一章とさせていただきます

次回から始まるものは、これらの設定を用い、十数話か掛けて書く物語とする予定です。

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