第二章14-b 起上り小法師は明日に誓う
「ぜぇっ、ぜぇっ、はぁあああ……疲れたわぁ……」
死闘レース一着は宇洋である。
「もう無理だ……はぁっ、これ死ぬって……」
続いて二人、舞と卓も到着。
「はぁっ、はぁああ……てかすぐるは何で私の手を掴んできたのよっ!」
「わりぃ……なんか嫌な予感がしてさ……」
自分でもわからないが何故だか舞の手を握って走っていた。
「俺ちゃんもお二人の関係、よくわからんからな?」
「どんな関係って……タカには何でもないしっ!」
「つーか俺ちゃん、スグるんとは小っさい頃からの仲だし何でもないことはないと思うんだよなぁ……俺っちとスグるんとアヤちんで……んっ? アヤちんは?」
一人いないことに気づき、宇洋は辺りをきょろきょろし始めた。
「えっと綾ちゃんかな、いないのは?」
そう、綾がいないのだ。
どこへ行ったのかはわからないが迷ったのだろうか? バテたりしたのかもしれない。綾が自ら言っていたように体力もこの中では一番なさそうだったし。
「おーい、綾ちーん」
「綾ちゃーん」
「どこだ綾―」
どこ行ったんだあいつ……
「メール送ったけど出ないな、電話も……俺が来た道を探してくるから、適当なとこ見つけて待っててくれ」
「おうよ!そういうとこお兄ちゃんしてるぅ!」
宇洋は親指を立てて拳を突き出した。
「それじゃ私たち待ってるから」
「そこのショッピングモールでも入ってテキトーに飲食店を探すかするわぁ」
「また後で連絡するから、見つけてきてねー」
卓ははぐれてしまった綾を探すべく来た道のほうへと戻り始めた。
「おーい、綾―」
元来た道を辿ってもいない。
あいつ、運動オンチだから俺たちより遅いだけかと思ったけど、どっかで休んでいるんだったらメールひとつくらい寄こせるよな、気づいていないってだけなはずがない。
喫茶店にいたときも確かRAINの着信音も鳴っていたし、そうではないとしたら……
嫌な予感がする。
卓はそこまで直線だった道を小走りで探したが見つからず、道の突き当たりで諦めかけた、そのとき。
「いやっ、やめてってば! だれかっ……!!」
「なぁお嬢ちゃん、ウルサくするとこう、だよ」
助けを呼ぶ声は……綾……!
それと聞きなれない男の声が、どうやら綾を脅しているようだ。
助けないと……っ!!
思わず足が前に出た。そしてその次には自分で出したことのないほどの声を。
その瞬間、もう怖いとすら思わなくて。
気が付いたときには目の前の男に殴りかかろうとしていた。
「やめろぉぉおおおっ!!」
俺はその男が何を出してくるなんてもうどうでもよかった。
しかし、どうやら俺はこの男が何か凶器でも隠し持っているんじゃないかと思っていた。
だからなんだ、用心に越したことはない。
もし、その凶器があったのだとしたらそれよりも先に俺はその男に飛びかかっていたのだし。
卓は横から蹌踉ける男の肢体を抵抗ができないように精一杯押さえつけた、があまりに暴れるのだ。こんな外出も滅多にしないような、筋肉もガタイもまるで無い高校生が大人の男に勝てるわけがない。
もう無理だと悟った卓は綾の方を向いて逃げるようにと叫んだ。
その叫びと同じくして、パトカーのサイレン音がこちらへと徐々に近づいてきていた。
綾は隣でぶるぶる震えていて、今話しかけても無理そうだ。俺自身話しかけられても今まともに話ができないと思った。
それを察した警察の小川さん、という人は、パトカーともう一台来ていたひときわ大きいキャラバンに乗せてくれて、その中で俺らを休ませてくれた。
休んでいるとすぐに舞と宇洋は駆けつけてきてくれて、一緒に駆けつけていなかったことをしきりに謝った。
宇洋は、自分の身勝手さ故にこの事態を招いた、と一貫して自分に非があると主張した。
テレビ局の人も実は駆けつけていて、私にも責任があると断言したが、まずはそちらのほうではなく、犯人の男に後ほど署で直接事情聴取をするため、自分ら含め一応目撃者ということで軽く聞き取りはされた。
どもりながらも俺はありのままを小川さんに伝えたつもりだ。
このとき何故だかキャラバンのシートから起き上がることさえできなかったのだ。
ひとまずキャラバンに乗ったままの状態で近場の病院へと搬送された。
「こんばんは」
ふと病室のドアががらりと開き、二人が入ってくる。
「舞、それ……と宇洋……ごめんな……わざわざありがとう」
「いいのよ、私にも残る理由があるわ」
「俺……だってよぉ……まさかそんなにスグるんに迷惑掛けてたなんてさぁ……」
今にも二人は泣き出しそうに顔を俯けている。
「おっ……お前ら落ち着けって」
なんでも二人より自分の完全なミスだろう。
綾が体力的に不安だって言っていたにも拘らずまるで聞いてあげられなかったせいであんな思いをさせてしまった。
「そ、それよりもあいつ、綾は大丈夫か?」
「それが……」
「綾!!」
俺は体をまだ動かすな、と言われていたが、そんなことお構いなしに綾の病室まで足をもつれさせながら走ってきたのだ。
「ん……」
「綾……大丈夫か? 無理に返事しようとしなくていいから首を縦か横に振って教えてくれ」
すると、綾はわかった、と頷いた。
「じゃ、今どこか痛かったり辛かったりするか」
NO
「今特に何もしたくない」
NO
「何か食べたい?」
YES
「ちょうど俺もそう思ってたんだよ!」
ちょっと笑顔になってくれた。
「よぅし……さっき購買で買ってきたカップ麺とコロッケパンにイチゴ練乳アイス!好きなのからささ、どんどんとって! 今夜は病室パーティーだ!!」
ちょっと引かれた?
「何さっきの心配、って思うくらい元気だね……まあいいわ、私は余ったのでいい」
舞はそこまで引いてなかったようで何より。
宇洋は持ってきたビニール袋からいろいろ取り出して綾の目の前にかがむと、例のスイッチを作動させた。
「そこの綾氏っ、さぁどれがあなたの好みの食材か、このわたくしが当てて進ぜようっ! 貴女が欲しているのはズバリ、このジャガイモとひき肉の絶妙ハァモニィイーとしっとりふわふわパンの夢のコラボレイションッ、コロッケパンッ!!」
横に振ったのでNO、外れたようだ。
「じゃ、この磯の香りかほる、あさげとしじみのおなかもほっこぉぉりぃっ!味噌スゥゥプッ!!」
NO
「なぁぁぁぬっ!! まだまだっ、綾氏の欲しいものは絶対にこのわたくしが当たらせてやらねば……」
まだこれが続くのかよ。
「この痛い口調、どうにかならないの……」
「さぁね」
結局、どんな事があってもいつも通りを装って俺らの休暇は過ぎてゆく。
今日の辛いことも乗り越えて俺らは昨日の俺らより成長する。ぶっちゃけ言えば、そうするしか無いわけで。
いつだって俺らは生きなければならない宿命で毎日を過ごしてゆく。
ひとときの楽しいことも何時しか忘れて俺らは俺らの人生を前に踏み出していく。結局は人生のひとつの糧になって、ほんの少しだけ懐かしい物語として残るわけで。
グラデーションカラーで色づく夏の入りの夕暮れ空は、いつしかその色を紺碧にまで変えていた。
◉あとがき(2018/5/4)
a・bといった構成ってゲームが大体こんなですかね。
が、小説でこんなふうに書いてみても、見た感じはいいのかどうかという点、続編とするか迷いましたが。
結果このようにa・b編の2つに分け、投稿に至った訳ですが、どうでしょうか。
実験のつもりでやってみたけれど……時系列がどうとかより、まずこの話の膨らみ具合が悪いですね。思いました、小説にするのならこういうやり方はオススメできないと。ですが上手くやれればきっと良くなるんでしょうね……そこまで私には技量はありません(弱音)。
近日中に更新するものは、後日談もしくは番外編といった内容になる予定です。
次の話まで更新まで時間を頂くかも知れませんが、どうぞよろしくお願いします。




