第二章12-b ラニングハイ-上-
b編となります。
a編の並行の物語にあたるのでそちらと内容が被る場合も多々あります。
また、この話は新たな1話じゃあないです。ずばりここ、二章の途中からのスタートです。読者からしたらたまったもんじゃない、と思うでしょうがすみません。
双六なわけじゃないですが
【この先に進む前に二章冒頭に戻ってもよし ※ただし時間のない人や記憶力の良い人を除く】
以上が、こちらからの面倒臭い注文です。
べっ、別にこのまま……読んでくれたって全然いいんだからねっ!! (こんな天麩羅なキャラはいくらb編でも登場しない模様です、まずほぼキャラも設定も変わりません)
「『表情』ですよ」
画面越しの彼はそう言い切った。
っていや……
はぁ?
卓はレモンティーが気管に詰まりそうになって思わずむせた。
ぶふぉ!
向かい側に座っていた綾なんてあからさまにコーラを噴射させた。
インタビューはこの喫茶店からほんの先のところ、宇洋の所属する探偵事務所の目の前で行われている。
だからわざわざテレビ越しに見る必要はないのだが。
たんに外に出たくないだけだ、俺らが。
『いやいやいやあの探偵さん、ちょっとそれはさすがにからかっていますよね……?』
画面の向こうで呆れたインタビュアーももうお遊びはごめんだなんて思っているんだろう。
ピローン♪
ふと着信音が鳴った。
「りさちーからのRAINだ!」
綾がスマホを取り出して返信している中でグダる中継を眺めていた。
と、そのとき、聞き覚えのある――宇洋ではなく女性の声、が画面を通して聞こえてきた。
『からかうも何も最初からでたらめ、根拠も何もありゃしないじゃない』
探偵さん――神楽坂宇洋とか言う青年、はやはり自称探偵を気取っているただのガヤ、たまたま犯人が不運にもこの青年に見つけられただけなのではと結論に至ろうとしたそのとき、ふいに私の先ほどの問いかけに対して、答えが出された。
「からかうも何も最初からでたらめ、根拠も何もありゃしないじゃない」
そう答えたのはまだ少し大人とは言い難い印象のある、女性の声だった。
「そうそう根拠も何も……? ってあなたは??」
「名乗ることでもないわ、ただこいつの知り合いってだけ」
「いっ……いつの間にカメラの前に! ちょっと中継ストーーップ!! 早くあの女をどけて!」
突然現れた彼女は、さっきまでインタビューを受けていた探偵――宇洋に向き直り。
「なんなのふざけてんのタカは!!」
「いやぁ……まじめにやってたはずなんだぁー、け、どっ……」
思わずしどろもどろになり、言葉に詰まる。
「ほら、嘘だよそんなの、実際現場も何も見ていないしテキトーに言ってただけでしょ? 勘とか何だか知らんけど……はぁ、見ているこっちのほうが恥ずかしかった」
「そんなにお見通しかよ、おみゃーこそ俺ちゃんなんかより探偵に向いてるわ……ってなんでおみゃー……こんなとこにいんだよぉ!!」
「今更こんなとこにいるって言われてもねぇ……」
久々に見た彼女は苦笑いしながら、肩の丈ほどまで伸びた綺麗な黒髪を風になびかせていた。
「……えええっっ!?」
喫茶店の中で観月卓は突然大きな声を上げた。
「は? どしたん」
しくった。思わずあの声に動揺したあまり……
「いや、思いっきりつま先をテーブルの脚にぶつけただけだけだって!」
くそ、不覚にもあの声と一瞬だけだが映った後姿は完全に……っ!!
ってそんなことより。
「早く向かうぞっ!」
「どこに?」
「あの二人のとこに決まってんだろ」
「いや待ってよなんでそうすぐに……」
綾はしばらく外へ出たくはなかった様子。まあわかる。外は暑いし日に当たりたくないし、ゆっくりしていたかったが今回はしゃーない。しゃーないのだ。
「決まったもんは決まり! さっさと行くぞ!」
会計をさっさと済ませようとはやる卓はもうレジに向かっていた。
「どんだけ振り回すんだよ……はあ、面倒くさいしついてこなけりゃ良かったかもなぁ」
そういえばこのくだり、ジャージ姿の綾に声を掛けたところから始まったが、それまで高校から綾どんな部活に入ったのかはまだ聞いてはいなかった。
あいつは部活の再登校だと言っていたし、ジャージ着るんだからもしや運動部系か!?いやいやあの超、のつく運動音痴なのは知っているからまさか……と思ってあの後(4話)、ご機嫌が戻ったところですかさず聞いてみた。
案の定文化部系でもちゃんと文化部、吹奏楽部だったとさ、てへ。
あいつ曰く文化部の皮を被った運動部とのように肺活量のために部活でも走ったりはするけどそれはそれ、運動は運動で嫌いなんだとか。
ということではい、走ろう!
「外あちー」
「店に入る前よりはましだぞ、とりあえず走って早く着かないと」
「ってかその、走るのは勘弁、さっきのコーラで横腹痛くなるんで」
「じゃ早歩きで」
「……」
いくぶんか緩んだものの午後の日差しは未だに二人の場を照らし、中央通りから一本逸れたロマン溢れる街並みの中を早歩きで二人は通り過ぎて行った。




