第二章14-a 猩猩小僧は明日を嘆く
「ぜぇっ、ぜぇっ、はぁああ……疲れた……」
死闘レース一着は卓である。
「もう無理だって……はぁっ、もうだめ……しんどい死ぬわ……」
続いて二人、綾と宇洋も到着。
「ひぃい……スグるん、逃げ足早すぎねぇか? ジャイ●ンに追われるの●太みてぇだったなぁ」
「そこで世界的に有名なあの絵面がよく浮かぶわ……あぁもう何もかも意味不明だってのにっ!!」
「なに意味わからない会話してんだか……っちょ、休みたい」
突っ込み二人だと持ち場安定しなくね!?
それよりも……
「というかお前はよくついてこられたな」
「いちおうは走ってるからね」
「まあまあ良くこの距離走ってこられたっしょ、女子でこんな好タイムなんてそうそう……女子……あれ、もう一人女子がいたような気がす」
「あ……」
その場にいた一同は、示し合わせるかのようにある人物のことを思い出した。
「おーい、舞っちー」
「舞さーん?」
「どこだ舞―」
どこ行ったんだあいつ……
「メール送ったけど出ないな、電話も……俺が来た道を探してくるから、適当なとこ見つけて待っててくれ」
「おうやるな、イカしてるぜスグるん!」
宇洋は親指を立てて拳を突き出した。
「じゃあたしたちはどっかしら見つけて待ってるから」
「場所は後で連絡するからな、じゃ無事見つけてこいよ!」
卓ははぐれてしまった舞を探すべく来た道のほうへと戻り始めた。
「というかちょっと待て宇洋」
「ん? なんだスグるん」
「お前と舞の関係ってなんなんだよ」
一呼吸置いて宇洋は言った。
「それはお互い様ってやつだなぁ、舞も入れて話し合おうじゃないか」
「まあわかった、じゃ俺はさっさと捜してくる」
「じゃ気をつけてなぁ」
卓は二人を後にして元来た道を走っていった。
「おーい、舞―」
元来た道を辿ってもいない。
どっかで休んでいるんだったらメールひとつくらい寄こせるよな、気づいていないってだけなはずがない。
あいつが今どれだけ体力があるなんて知ったこっちゃないわけだ。そういえば。
嫌な予感がする。
卓はそこまで直線だった道を小走りで探したが見つからず、道の突き当たりで諦めかけた。
「……!!」
「なぁ姉ちゃん、お兄さんとちょっと遊ぼうか」
「……お断り、します」
「ん? 今なんて? もう一度言えや」
「……お断りしっ……あううっ!!」
「ふざけたマネしてくれると腹パン食らうからな」
「ねぇ誰かっ……ぁ」
「叫び声あげたら殺すからな」
卓はそこまで直線だった道を小走りで探したが見つからず、道の突き当たりで諦めかけた。その時だった。
すぐそばの神社の向かいで何か揉めている様子だ、男のほうは誰かを脅しているよう。これは確実に行ったらヤバいやつ。
今ちらっと見えたのは歳的に俺と同じくらいの女か。
まさにそれは……俺の今探している彼女。
……助けなきゃいけない。
だけど足がすくんだ。
何でここで足が動かないんだろう。
何でこういうときに動けないんだろう。
何で……
「お前ってさァ、あの保元、とっちめたガキってやつか? それともその後ろのガキだァ?」
「おーい……ってばスグるんそっそれはぁ……」
どうやら宇洋が来てくれたんだな、もう俺はいらないや。
ここの場には俺がいても仕方ない!
俺は、自分には出来ないことだってあるんだ、人に頼るんだっていいじゃないか!
卓は宇洋に向かって適当な目配せをした。
それはどうやらこいつをやれ、と目配せとしてはちゃんと伝わっていてくれたようで。
「このやろっ!!」
宇洋がとびかかった矢先、犯人の手元から銀色の鋭利なものが光った。
その瞬間、やっと声が出たのだ。
初めは掠れた声で、のちは絶叫に変わり。
「や……やめろっ……ッ!!」
そう叫んだ途端、俺は彼の耳に届くのがそんなにも後になってから、いやもう届いていなかったのかもしれないということを悟った。
彼の下腹部から恐ろしいほどの赤い液体が、まるで噴水の如く飛び出したからだ。
そのまま彼は刃物が突き刺さった腹を抑えてよろめいたが、その直後夥しい量の血を吐き出し、がくりと地面に突っ伏した。
地面へ衝突したとき腹の刃物が彼の下腹部を抉り、彼は鈍い呻きとともに息絶えた。
舞のカーディガンには、目の前の何年か前に会ったっきりだった、友人の赤い血飛沫が所々に斑点状になって付いていた。
彼女は……声にならないほど悲痛な叫び声とともにがくりと道に倒れ込んだ。
もう何も聞こえない目の前の友人と、見ても何もしなかった俺と。
やっぱり俺ってこんなにも使えない、くだらなくて、洒落にもならない、人ひとり救うこともできない、不幸で不運な、愚かな馬鹿野郎だよ。
はははははははっ……
無気力に足から崩れ落ちて地面に頭をぶつけた。
すべすべした地面が脳天を直撃する。
「いったぁ……」
ここはどこだ……?
目の前にあるのは当然の半年前まで使っていた俺の椅子と机、それに大事に、大事にしていた俺のロボットのフィギュア。
何も変わりはない俺の部屋だ。
……どうやら、この部屋で午睡でもしていたのだろうか。
そう、何も……
途轍もない、恐ろしいものを見たような気がしたが、気のせいだろうか。
「うっ……頭が痛い」
痛みがまるで引かないのは、このベッドから思いっきり落ちたからなのか、打ちどころが悪かっただけなのか。
「頭でも冷やしてきたほうがいいかな……」
卓は痛む頭を押さえながら部屋から出た。
ドアが閉まり、誰もいなくなった部屋の中で、ロボットの尖った背中の棘が窓から射す夕日に照らされてきらりと輝いた。
◉お疲れ様でした!
二章a編はここで終わりです。
だけどまだ終わってない! なんてこった!
そうなんですよ、この物語、なんとb編というのがありまして。ひとつの話で2通り楽しめるなんともお得なものになっております(?)。
てなわけで、このあと始まるb編に関してはい、少しだけ諸注意を。
【二章b編も読んでおきたい人】
ありがとうございます。是非読んでください。
ですが少し。
a,bとも時系列は並行の関係です。じゃあどうやって読むか?
b編が始まるところから(この次の話です)でも、もう一度二章初めから読み直しても構いません。
もしb編を読み始めて、……あれ? 初めどんなこと言ってたっけ? 忘れてしまったならその時は二章初めから読み直して頂ければ。
【三章をさっさと読みたい方】
ずばり、
(b編を)読むかはお任せします……!
時系列的にa編とb編は並行ですので読み飛ばして構いませんが、三章は前提条件としてb編の一部知識がアレでこう……(詳しくは言わないぞっ)な場合がございます。
三章読んでてなんだよどういうことだよ! ってなってしまって(ほぼ無いとは思いますが)も責任は負いかねます! その旨よろしくお願いします!
三章は目次より「第三章0話」からお願いします。




