第二章10 審判の刻-上-
「というのはつまり……?」
「どういうことなのでしょうか?」
詰めかける報道陣を前にして、それでも宇洋はおじけずに自分の推理が正しかったことを説明する。
「ではよく聞いてください、マスコミ各社の皆様方、そしてこの報道を目にしているそこの視聴者の方がたぁ!!このわたくし、神楽坂宇洋の推理をよくよく聞き給え……この事件が起こるついさっきまでのこと……私はある友人を家に招いていまして。その久々に会う旧友とのつもる談話にふけっていた最中のことです」
「「……」」
「私は現場に居合わせたわけではないのですが、ちょうどその時居合わせたというある歳もいいところの男性からお話を聞くことができましてね。そう、歳 も い い と こ ろ の。大事なことなので二回言いました」
何故かはわからないが年齢がどうやら重要なことだということをよほど伝えたかったようだが、その青年の強い主張はまだ続く。
「その男性、いえ、本件に大いに関わりのある人――保元さんは」
そう発言した途端、先ほどまで話に耳を傾けて静まっていた報道陣が一斉にざわつく。
「保元って……今回の事件の主犯者じゃねえか」
「おいおいどういうことだよ」
「まさか出まかせじゃないだろうな」
「まあまあ皆さんお静かに。その男性がたまたま野次馬の中に紛れ込んでいたというだけですよ」
呆れたような顔をした目の前のリポーターの女性は取材を打ち切ろうかと横の同業者と思わしき男性に小声で相談する。
が、その様子が目に映ったのか。
「そこ、気が早い!!まだ推理については一言も語っていないじゃないですか全く……まあよく聞いてほしい、まずその男性の事件への関与を疑った根拠について話そう」
インタビュアーらは渋々、取材続行の用意はできていると無言で次の言葉を促す。
「長くなるが、心して聞くように。そこ、真面目に聞く気がないのならばそのカメラを己にでも向けて職務怠慢の生き恥を晒していればいい」
スマホを盗み見ていたカメラがギャッという声を上げ、尻もちをついた。
あいつは馬鹿か、と内心でその様子を蔑んだインタビュアーは注意をした当人のほうに向きなおり取材を続けようとした。が、その瞬間何ごとか思わずひるんでしまった。
その青年の凄まじい眼光を目の当たりにしたからである。
そしてはっきりとこう口にした。
「でははじめよう、審判の刻をーーーー」
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「……なんだかとっても自信満々そうに受け答え、してたね……」
「まあな、それより見ていてひやひやが止まらなかったわぁ……」
何だろう、と気になって近づいてくる群衆を逆行し、二人は割とすぐ近くにある、というかたまたま道中で発見した喫茶店に逃げるように立ち寄った。
こうして抜け出してきたのも、この七月真夏日の日中。取材を見続けている野次馬根性のようなものはないし、何より引きこもりには日差しはきつい。
所説あるが引きこもりは人と顔を合わせる機会を進んで得ようとはしないため、不要な外出は控える。そのため必然と日差しに対する耐性がなくなってゆき、完全体の引きこもり……所謂自宅警備員へと成り上がるわけだ。あえて言おう、決して成り下がるわけではない。光属性への耐性が薄れた代わりに闇属性のステータスを得るのだから。
ただ、そんな進んで日陰厨になろうとする俺にも今日の件には引きこもりには数少ない友人という存在が関わっているのだから、その希少価値である存在を見放すという選択はとても心が痛い。
それでも俺らはこのインタビューが長引くと予感し、日陰を選択。
結果、予想通りだった。
つかこんなにどうでも…よくはないか、犯人の発見者だからってこんな長いインタビューするのかよ、どんだけニュースのネタがないんだって。
「宇洋、俺らが途中で抜け出してきたの怒らないかな」
「元はといえばさ、あたしたちがなくしたものを見つける手がかりを尋ねに来たわけだし、そりゃあ勝手にいなくなったらだめじゃない?」
「……[騒ぎが収まるまでのあいだ喫茶店にいます]、これでよし」
「Rine?」
「うん……一応位置情報も、っと」
「いやそこまでしなくても」
「後で合流することになったりしたら便利じゃないかと思って」
「あっそ……今何しているんだろう」
「マスコミに囲まれているのを見かけたり報道を見たりした警察がさ、事情聴取で署まで同行、なんてのもあるかもな」
「それはないでしょ、犯人じゃあるまいし」
「あれだけのことで事件のことわかっていたら逆に怪しまれるだろ……」
「……確かに?」




